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異世界の英雄に憑依された件  作者: 熊出
京都激動編
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京都の現状

「まず、占い師ザザの件についてですが……」


 会議室で、白髪の老人が口を開いた。


「異世界からの漂流者達の出現を予言して姿を消されました」


「マジかよ」


 哲也が頭を押さえる。


「陰陽連の規模次第ではすぐに見つかるのでは?」


 そう言ったのは貴一だ。協力者たる陰陽連の規模を知っておきたいところだった。


「百人精々ですな。妖怪が跋扈したのは遥か過去の話。陰陽師の家を継ぎたいという人間は多くありません」


「この広い京都を、百人でか……」


 それは、気が遠くなるような話だ。


「けど、敵の狙いはわかっている」


 そう言って、若い男が地図の上で指を滑らせて、ふと何かに気がついたように引っ込めた。


「ここ、陰陽連の地下施設だ」


「何故です?」


 貴一の質問に、男は何故か苦い表情になって答える。


「陰陽連の施設は霊脈の噴出口に作られている。そこでは妖怪も魔物も力を得て進化を見せる」


「なるほど……それは防衛ラインを張らざるをえないか」


「実際、ザザ様に手を割いている暇はないのです。こちらが助けを求めているような状況でしてな」


「防衛は上手くいっているんですか?」


 そう言ったのは、静だ。彼女は言葉を続ける。


「魔物が力をつければ人々の日常が乱される。由々しき問題です」


「それは、憑依者の皆さんと協力して上手く撃退しています。この青年も憑依者でしてな」


 男は、少し気まずげに視線を逸した。


「自己紹介しなよ、グレン」


 灯が、フーセンガムを膨らませながら促す。

 男は、一つ頭を下げた。


「私の名前は木下藤吾。憑依霊は、グレンと名乗っています」


「グレンか、久しいな」


 そう言ったのは哲也だ。


「クリスが去った後の王室警護隊長だ。腕は確かだぜ」


「まだ若い時分に取り立てていただき感謝している、とグレンは言っています。しかし、私は……」


 藤吾の視線が貴一に向けられた。目に浮かぶのは、はっきりとした敵意だった。

 年上にむき出しの敵意を向けられ、貴一は怯む。


「憑依霊のように貴方に礼を尽くす気はない。憑依霊は憑依霊です。私は私だ。その差を理解していただきたい」


 貴一は苦笑する。


「わかってるよ。王様なんて柄じゃない」


「それならばよろしい」


 灯が藤吾の頭を叩いた。


「憑依霊が世話になってたんだからちょっとは低身低頭でいきなよ」


 灯はなにを考えているかわからない飄々とした口調で言う。


「だがな、灯……」


「彼らに頼るケースは増えてくるだろう。関係は潤滑にしておくべきだ」


「けど……」


「まあまあ、灯さん。僕はかまいませんよ。僕も、ヴィーニアスとして扱われるのは重荷だ」


 灯はしばらく無感情に貴一を眺めていたが、そのうち微笑んだ。


「ヴィーニアスもそういう奴だったよ。似るもんだね」


 藤吾は不服そうに灯を見ていたが、そのうちテーブルに視線を落とした。

 老人が再び口を開く。


「ともかく、皆様には京都支部を守ることに協力してほしいのです。現在も多くの憑依者がシルカ殿の号令にしたがって協力してくれています。我々陰陽師はいかんせん近接戦闘が苦手でしてな。連合軍として動くのが一番効率がいい」


 五人は顔を見合わせる。

 手伝うとしたら、長期戦になりそうだ。


「わかった。敵の排除には協力する。けど、ザザばあの探索にも協力してもらうぜ。ただでさえ異空間に引きこもることができる人材だ。それを五人で見つけるなんて非現実的だ」


 決断したのは、哲也だった。

 老人は表情を綻ばせた。


「ご了承いただきありがたき幸せ。では、今夜から早速実戦でその力、見せていただきましょう」


「その前に聞いておきたいことがあるんだが……」


 そう言葉を発したのは、哲也だ。


「なんなりと」


「俺達の町で起きた事件。どれもニュース沙汰になってもおかしくないものだった。伏せさせているのは陰陽連か?」


「いかにも」


「なら、俺達の失踪もニュースにはなっていないんだな?」


「そのはずです」


「良かった」


 哲也は胸をなでおろした。


「これで素の顔で表を彷徨けるってもんだ」


「お役に立てたならなによりです」


「作戦会議が終わったならいいかな?」


 灯が口を開く。


「シルカがヴィーニアスと話させろと五月蝿い」


 その瞬間、部屋が殺気で満ちた気がした貴一だった。



++



「そうですか、ヴィニーはまだ目覚めていないと」


 自販機の傍のベンチで座りながら、シルカと貴一は話していた。

 観葉植物の影から人の気配がしている。というか、覗き込んでいる沙帆里の顔が見えている。


(また三人揃ってデバガメか……)


 呆れるしかない貴一だった。


「そう。だから、俺はヴィーニアスのことをよく知らないんだ。ここにいるのは、ちょくちょくヴィーニアスが目覚めてくれたおかげだけどな」


「目覚める時もあると?」


「ああ、そうなる」


「では、本体が目覚めることを拒否しているのですね……」


 シルカはオレンジジュースの缶に視線を落とした。


「なにがあったか俺は知らないんだ。なにかヴィーニアスは罪を犯して、罰を受けた。それはなんとなく皆の言葉の端々から知っている。けれども、それがどんなものか俺には想像もつかない」


「私の夢を見る時はありますか?」


「……言い辛いな」


 シルカは苦笑した。


「その返事で十分です。あの方は、常に青春時代の自由な時間を忘れなかった。私といる時も、常に」


 シルカは、遠くを見るような表情になる。


「けど、そんなヴィニーを私は好きになったんです。悔いることはありません。出会いがもっと早くにあれば、とは思う時もありますが」


「なんか悪いな、うちのヴィーニアスが」


 シルカは微笑んだ。写真に撮っておきたくなるような笑顔だった。


「かまいませんよ。私はヴィニーが好きです。それが例え、一方通行な思いであれど。それに……」


 シルカは貴一にしなだれかかる。


「今世では結ばれる芽もありますしね」


「こら! シルカ! 半径五メートル以内に近づくな!」


 沙帆里が我慢できなくなったらしく観葉植物の影から出て来る。


「シルカ。灯が迷惑する」


 逆方向から藤吾が出てきた。

 見物を諦めたらしく、静、哲也、恵美里がぞろぞろと出てきた。


「恵美里、お前もか」


「いやあ、誘われて楽しそうだなって」


「グレン! 私の護衛と言えど越権行為ではないですか」


 シルカが疎ましげに言う。


「私は藤吾です。グレンなんて知りゃしませんよ」


「セレーヌもなんですか! 長い時間ヴィニーと一緒にいたのでしょう? 少しぐらい譲りなさい」


「いいえ、譲りません。貴一の良さは一緒にいる私が一番良く知ってるんです! 貴方はなに? 貴一にヴィニーの面影を重ねて見ているだけじゃない」


「雰囲気や今までの発言からでも十分良さはわかります。ちんちくりんが出る幕はないんですよ」


「言わせておけばぁ……」


 冷気が周囲に漂う。そして、氷の矢が数本シルカに向かって放たれた。

 グレンとなった藤吾が間に入る。

 抜き打ちの剣が数度振られたと思ったら、氷の矢は地面に落ちた。


「過保護です、グレン。私の防御結界で十分防げましたわ」


「セレーヌ様の氷を侮るわけにはいきません。私は最善を尽くすまでです。行きましょう、シルカ様。夜になるまで仮眠を取るべきです」


「歯痒いなあ……」


 シルカは溜め息を吐いて、立ち上がる。


「じゃあ、ヴィニー、また会いましょうね」


 そう言うと、シルカは灯の姿に戻り、藤吾と共に去っていった。


「結構な使い手だな、あの男」


 貴一は、思わず呟いていた。


「斬っている最中足が微動だにしていなかった。よほど余裕があった証拠ね」


 恵美里も同意する。


「そりゃ腐ってもクリスの後任だからな。腕は立つぜ」


 哲也が、欠伸混じりに言った。


「俺達も寝よう。敵がやってくるのは夜らしいしな」


 そう言って、哲也は歩いていく。

 皆、その後についていった。

次回、来週更新

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