⑧勤しむ30分間
【乗車から0分】
生まれて初めて一人で遊園地に来て、生まれて初めて一人で観覧車に乗ったのだが、僕以外に一人で観覧車に乗っている人なんて一人もおらず、それどころか一人で歩いている人すら一人もおらず、この観覧車について調べて姉に報告しなければならない状況に溜め息が漏れる。
【乗車から2分】
目から入る情報や耳から入る情報などなど全ての感覚をフルに使って、感じたことを感じたままにノートにボールペンでメモしていっていたが、姉が一番重要視している言っていた、乗り込んでから降りるまでの正確な時間を計測することを忘れていたことに気付いた。
【乗車から4分】
僕は車内や車外の状況をより明確に依頼者である姉に報告するために、中の写真や外の写真を出来るだけ多く写真におさめようと必死で写真を撮りまくったり、質感を報告するために色んな場所を手当たり次第に触りまくったりした。
【乗車から7分】
メジャーを取り出して、座席の横幅や乗っている箱の高さなどなどメジャーで隅々まで長さを測ってメモしたり、観覧車の乗り心地や揺れ具合をメモしたりしたが、時間を計り忘れたことがどうも引っ掛かっていてモヤモヤが止まらず、それを追いかけるように一人観覧車の寂しさも急に溢れ出してきた。
【乗車から10分】
思っていたよりも観覧車内の音が静かであるということや、特に強いに匂いも変わった匂いもなくほとんど匂いは何もないということをメモしていると、姉から電話があり、彼とのデートの為だから観覧車の情報をより正確に伝えて欲しいと念を押された。
【乗車から13分】
彼氏や好きな男性のことになると周りが見えなくなるところはあるが、普段はすごく優しくて家族想いのいいお姉ちゃんといった感じなので、五ページ分がぎっしりと黒い文字で埋まったこのノートを見せれば喜んで褒めてくれるだろうし、時間の計測を忘れたことを正直に言えばきっと許してくれるだろう。
【乗車から15分】
怖い姉の要求で再び正確な時間を計測するために、係員にもう一周したいと伝えて、降りずに二周目へと突入したのだが、平均的な乗り込む位置がどこからなのかが分からず適当にストップウォッチを押してしまい、また正確には計れないかもしれないけれど今度は黙っておけばいいし、ああ一人で観覧車の二周目かよ、とかも思っていない。