⑥楽しめない15分間
【乗車から0分】
彼女と久し振りに遊園地の観覧車に乗ったのに、扉が閉められるのとほぼ同時くらいに彼女が、観覧車に乗っている間に私の好きなところ100個言ってみたいなことを言ってきて、まあまあ楽しかった遊園地での出来事が一瞬で消え去ってしまっていた。
【乗車から2分】
彼女の好きなところを100個言えなかったら、たぶん無傷のままでは帰れないと思うので、とりあえず顔を褒めることに決めて、ほんのちょっと駄目なやり方かもしれないが、右目の黒目が可愛い、とか、左目の白目が綺麗、のように、顔のパーツを細分化して褒めていった。
【乗車から4分】
可愛いという言葉を主に使って顔を褒めてきたが、顔だけを褒めていることを彼女に注意されて18個言ったところで少し止まってしまっていて、全身に目を向けてはみたものの、褒めるに値しないものしか目には入らず、失敗の二文字と悪夢の二文字が頭を突っ切る。
【乗車から7分】
なんとか彼女の好きなところを合わせて30個は言うことが出来て、頂上付近に差し掛かった今、せっかく観覧車に乗っているのだから頂上付近でキスをしたいなという欲望が苦痛よりも高くなってきて、キスが上手いとかキス関連のことを急に褒め出してしまっていた。
【乗車から10分】
キス関連の褒め言葉で数を稼いで合計80個も彼女の好きなところを言ったが、褒めるところが外見のことしか思い浮かばない自分がいて、外見といってもほぼ顔しか褒めていない自分がいて、内面に目を向けようとはしたものの思い付かず、彼女とのキスも彼女を褒める作業も足踏みしてしまっていた。
【乗車から13分】
嘘はついていけない、嘘はついていけないと心の中で何度も何度も繰り返していたのに、90個から一向に進まず黙ってしまっていることにイライラして怒鳴ってきた彼女に、いつも優しいところが好きだと言ってしまい、余計に気まずい空気になっていて、これは100個言えても言えなくてもボッコボコになるかもと怖くなってきた。
【乗車から15分】
あなたのすべてが大好きだ、という100個目の答えにより、彼女の好きなところを100個言うというチャレンジは成功して、ホッとして観覧車を降りると彼女は優しい顔で頂上ではしてくれなかったキスを、100個言えたご褒美として優しくそっと唇にしてくれた。