④恐怖の1.5時間
【乗車から0分】
綺麗すぎて可愛すぎて男なら誰でも好きになってしまうほどの女性と知り合って、今は初デートで遊園地に来ていて、二人きりの世界に浸れる観覧車に乗り込んで幸せのひとときを過ごせればいいなと思っている。
【乗車から7分】
ガタッと音がして、車内には明かりひとつ無くなってしまい、何の動きもしなくなった観覧車に故障の二文字がよぎり、これから起こるであろう苦しみにドバドバと不安溢れ出してきて、閉じ込められたことをだんだんと実感し始めた。
【乗車から15分】
このあと絶対にやらなくてはならない重要な用事があるっていうのに復旧する気配なんてこれっぽっちもなくて、短い時間だけと決めて来園した遊園地にかなりの後悔が溢れ、後悔しかこの空間に無いように思えた。
【乗車から30分】
一緒に閉じ込められてしまった可愛すぎる女性は僕の腕にずっとしがみついているが優しい表情をしていて、妻に内緒で事実上の愛人とデートをしている罪悪感は恐怖と共に一気に駆け上がってゆく。
【乗車から1時間】
今まで完璧にこなしてきていたつもりの家事を今日は完璧にこなせないことがほぼ確定し、弱々しい心しか携えていない専業主夫の僕は息抜きのつもりだったが、女性といる今の幸せは妻に怒られる恐怖で完全に薄まりすぎている。
【乗車から1.25時間】
女性が今僕の唇へキスしてきたことはこの状況でなければ幸せだが、妻に浮気とサボりがバレることが決定的なこの状況で壊れるように楽しんだり、羽目を外したり、開き直ったり、そんなことは出来るような男ではないので、もうすぐやってくる妻の帰宅時間を静かに待つことを選んだ。
【乗車から1.5時間】
ようやく密室から解放された僕が、解放されない妻からの重圧と向き合うようにスマホを見てみると、着信が凄いことになっていて、もうおしまいだと思っていたら女性が笑顔で僕の手を引っ張り、園の奥へと誘導し出して、僕のカラダと心はゆらゆらと揺れていた。