③気まずい15分間
【乗車から15分】
観覧車に一人で乗って、自分がどれだけ小さい人間かとか、自分がどれだけ目立たない人間かとか、自分の影の薄さについて考えていたら係員は僕に気づかず僕もボーッとしていて降りそびれて、ギャルが二人乗ってきてしまった。
【乗車から17分】
ギャルは僕に全く気づかず、三人の空間のはずなのに僕をいないものとして話していて、その話は僕のようなおじさんには無縁の恋バナというやつで、乗ってきてすぐに僕がここにいることを伝えそびれた時点でもう伝えるのは無理で、これから言い出す勇気はない。
【乗車から19分】
胸について議論をしている二人のギャルは「内緒だよ?」とか「二人だけの秘密だよ?」とか言っていて、彼女達にとって僕は幽霊のようなものではあるが、僕は二人だけの秘密を背負わされた重圧と、僕の右側にいるギャルのバストがHカップだと知ってしまったことによる重圧に押し潰されそうだ。
【乗車から22分】
僕は右側にいるギャルのすぐそばにいて、もうすでに彼女の腕と僕の腕は接触を繰り返していて、もうすでに僕は押し殺したくしゃみを二度放っていて、もうすでに正面にいるギャルの視線と僕の視線はがっつり合っていて、影が薄いだけでは説明がつかない状況にいる。
【乗車から25分】
素人を観察するバラエティ番組のドッキリではないかと思い始めて、一番この状況に合うのはドッキリだと考えていたが、よく考えるとドッキリな訳もなくただの降り遅れで、影が薄くてボーッとしていた僕にほとんどの責任があることを思い知らされた。
【乗車から28分】
ずっと緊張して息もまともに出来なくて気まずくて、おじさんの天敵である若い女性といる密室に疲れはピークに達してしまっていたが、女性ではなくおじさんが乗ってきてもおじさんはおじさんで恐怖だなと思っていて、残りわずかの時間の経過をとにかく待つしかない。
【乗車から30分】
観覧車を降りてすぐに「おじさんバイバイ!」とギャルに言われて、そのあとに、気付いていたが特に気にしておらずスルーしていたということが知らされて、気まずかったのは僕だけだったみたいだが、僕はいい意味で空気という存在に段々と近付いていることを実感した。