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俺と甘党と新たな辛党

誤字脱字たまに言葉間違ってます。

あと今回ちょっと話の筋がおかしいしかもしれないし急展開過ぎてついてこれないかも…気をつけます!!

温かい目で見てやってください。

あと二十回近くデータ消し飛ばして心折れかけました。

更新遅くなりすみません!!

甘原少女の朝は早い。

俺も毎日朝五時半に起きるという比較的健康的な生活習慣があるのだが、甘原少女はそれよりも早い朝五時ちょうどに起きて、複数の新聞社から受け取っている朝刊たちをペラペラとめくりながら俺を出迎える。

朝日差し込むリビングで朝日に照らされながら朝刊をめくる甘原少女の姿は、甘原少女が持つ幼さが残りつつもどこか大人びた、むしろ人間離れした美貌も手伝いまるでどこぞの宗教の宗教画、もしくは絵画か何かのようだと寝ぼけた頭で考えた。

「おはよう。蜂蜜コーヒー」

「朝一番の開口一番が俺の名前じゃなくて蜂蜜コーヒーの要求ですか…」

まるで『おはよう田中』とでも言うかのような自然さで朝の一杯を要求しないで欲しい。

寝起きなのも相まって自分の名前は『蜂蜜コーヒー』だったかと真面目に考えてしまった。

まあとりあえず素直にキッチンに立って、二人分のコーヒー豆を挽く。

焙煎は定期的に一定量を煎っているので鮮度はいい。

キッチンにはサイフォン式やら手動ミルやら小洒落たものが置いてあるが、洗うのが面倒くさいし、俺は速さ効率を重視する人間なので単なる置物と化してしまっている。

ネルドリップで二人分のコーヒーをいれて蜂蜜をいれてティースプーンでグルグルと掻き混ぜる。

以前蜂蜜紅茶を出してからというもの、甘原少女は随分と蜂蜜にはまっている。

まあ頭おかしい量の砂糖をどぼどぼと突っ込んで飲まれるよりは、まだ健康的なので許容範囲内だ。

蜂蜜コーヒーのカップを甘原少女に手渡し、もう片方のコーヒーはブラックのままグイっと一息であおって頭の覚醒を促す。

頭が冴えてきたところで朝食作りに取りかかる。

食材は何が残っていただろうかと考えながら冷蔵庫を開ける。

…見事なまでにスッカラカン。

やばい買い出しをすっかり忘れていた。

仕方ないので残っているものでどうにかするしかない。最悪また今度好きな料理でもスイーツでも好きなものを作るということで納得してもらおう。

色々と試行錯誤しつつ作った朝食の内容は、

・玉ねぎの中華風スープ

・エビチリ

・サラダ

・ご飯

という朝から何とも中華な朝食が出来上がった。

甘原少女の前に膳を置くと、文句ひとつ言わずに素直に「いただきます」言って食べ始めた。

少し意外に思いつつもその様子を見ていると、甘原少女は料理の感想を一品ごとに幸せそうに口にし始めた。その感想の最後には必ず「美味しい」と「ありがとう」がついた。

料理する側としてはとてつもなく嬉しい。

「さてエビチリは」

…………ぱたり。

あれ?倒れた。というか失神した。なんだろう、デジャヴ。

何か辛いもの入れたっけ?

エビチリってそんなに辛くない料理なんだけど。

何を使ったか自分でもよく覚えていないので、とりあえずキッチンを見回してみる。

・刻まれた玉ねぎ、その他各種野菜

・取られた海老の殻とワタ

・刻まれた鷹の爪(唐辛子)

あれ?おかしいなあ。なんで鷹の爪なんか刻んであるんだ?

「使ったんだよっ!!!!」

阿呆極まりない自分の思考に盛大にセルフ突っ込みをいれつつ甘原少女に駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

「殺す気かあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

「あ、起きた」

ゼーハーゼーハーと肩で息をしながら殺意がガンガンにこもった眼で睨みつけられる。

なんでだろうか、甘原少女相手なのに、睨まれただけで命の危機を感じた。

「よく常人でも悶絶するような劇物を私に食べさせようと思ったね!?」

甘原少女の高音のわりによく通るソプラノボイスが耳横で炸裂し、両手で両肩を掴まれ前後左右上下にぐわんぐわんと激しく揺さぶられる。

耳と脳への同時攻撃。ごめんなさい俺のヒットポイントはもう0です。

「あー…耳があああああ…」

二人してまともに会話ができないような状態に陥ってしまったため、一時休戦で甘原少女は呼吸を整え、俺はひたすら耳鳴りや平衡感覚異常が去るのを待つ。

しばらくしてから、俺は口を開いた。

「すみません。つい習慣で。というか劇物って、作ってる農家さんに失礼ですよ。」

「今しれっと恐ろしいことを言わなかった!?」

「まあその話は置いといて」

「ド真ん中に置いてくれるかなあ?」

「食べるまで気づかないなんて珍しいですね。

最近は山椒の匂いだけでも過剰反応してたのに。」

「誰かさんのおかげでね…今回はこれ見て考え事してたからだよ」

ずい、と目の前に複数の新聞社から取っている朝刊すべてを突きつけられる。

そこには大見出しに黒々としたゴシック体でこう書いてあった。

【××海岸で謎の大波大渦 行方不明者多数】

【学者「原因不明」急ぐ解明】

【謎の大渦 漁船転覆】

【漁師語る「山のような影」】

つけられた題名は違うものの、それらは全て同じ海のことをとりあげていた。

「ほれ」

甘原少女がリモコンを手に取ってぽちっとチャンネルボタンを押すと、一体何インチあるんだよと突っ込みたくなるような大きなテレビ画面に、ニュース番組が映し出された。

有名な全国テレビ番組なのだが、現地からの生中継で大々的にそのニュースを取り扱っている。

今も波や渦はひいていないらしく、海は荒れに荒れまくり、持ち主に置いていかれたビーチボールやシートやパラソルが寂しく残っている。

「…これは」

「短期間に一気にこんなのがおこったうえに大半が原因不明…絶好のネタでしょ?

だからこんなことになってるの」

あっけにとられている俺に分かりやすいように、静かに甘原少女が解説を挟んだ。

「原因不明…でも、これって」

「あからさますぎて笑えるレベルでしょ?」

甘原少女が苦笑気味に言った。

そう。初心者の俺でも分かるような、露骨すぎる妖怪絡み。

「大半の子は私みたいな裏探偵に気づかれないように、ちっちゃい無害なことをちまちまやるだけだからほっとくし、大きな騒ぎにもならないんだけど…よっぽど自信があるか、おつむが弱い子みたいだねえ」

やれやれと言わんばかりに甘原少女が肩をすくめて、黒い笑みを浮かべた。

「さて仕事に戻りますか」

そう言うと甘原少女は仕事机に向き直って、書類の上に万年筆を滑らせ始めた。

「え、ちょ!?解決しに行かなくていいんですか!?」

慌てながら俺がそう言うと、甘原少女が右手をひらひらさせながらこう言った。

「いーのいーの。他の誰かが依頼されるはずだし。なにより、忘れてるかもしれないけど一応ビジネスだからねこれ。」

そう言えばそうだった。

そう考えている間にも再び甘原少女は仕事に没頭している。

さてどうするかと思ったところで、とある音が耳に飛びこんできた

RERERERERERERERERERERERERERERERERERERERERERERERERE!

「うおあああああああああああああああああああああああ!?」

備え付けの黒電話による、昔ながら故の情け容赦のないベルの音に、コメディアンのような大袈裟なリアクションをしてしまった。

甘原少女のほうに目を向けてみたが、無心に書類を処理していっている。

電話に出るつもりはさらさらないようだ。

仕方がないので俺が受話器を取った。

「もしもし、甘原探偵社です」

《おや?甘原探偵ではないのかい?彼女が人を雇うなんて珍しいこともあるものだね。明日は槍でも降るのかな?》

口調や声質その他諸々から察するに、落ち着いた成人男性。

しかし、全くと言っていいほど本題からかけ離れているであろう返答をされてしまった。

「あの、ご用件は」

《おっとすまないね。ついつい…用件は至極単純。とある事件…いや現象かな?それの調査と推理をお願いしたいんだよ。詳しくは現地で。場所は××海岸。頼んだよ。》

「え!?あの、ちょっと!」

俺の声かけも虚しく、耳元で電話の切れた音だけが響く。

俺まだ甘原少女(一応上司)にどうするか聞いてないんですけどっ!!

どうしよう、と涙目になりながら甘原少女のほうを向くと、下を向いて右手を額に当てて、」これでもかというほど盛大に、なおかつとてつもなく深く長く、はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、とため息をつかれた。

そしてしばらくそのまま固まったかと思うと、急にガタっ!と椅子から立ち上がり、俺がいるにも関わらずブレザーに着替え始めた。

「相手は落ち着いた感じの成人男性、依頼内容はとある現象の調査と推理。場所は××海岸。何か違う?」

手で目を覆っていた俺にそう投げかけてきた。

「え?あ、はい。その通りです」

「行くよ」

青を通り越して紺というよりもはや黒に近い海。

黒い雲。

見えない空。

灰色に近い砂浜。

…本当に来ちゃったよ、件の海岸。

なんだろう、今夏のはずなのに肌寒いんだけど。

そんな不安を抱えている俺は綺麗にフルスルーして、甘原少女は一人の警察の男性と情報共有、報酬確認その他諸々を淡々と進めている。

「ちょっと待って報酬がいつもの半分なんですが」

「ごめんね。今回は君含め探偵二人に依頼したものだから余裕がないんだ」

「はい…?ふた、り…?」

“二人”という単語を聞いた瞬間に、まるでリトマス試験紙か何かのように、さあああ、と甘原少女の顔色が青くなる。

そしてそのまま流れるようにその場から立ち去ろうとし始めたので、とりあえず捕獲&ホールド。

「離せええええええええええええええええええええええええッ!!!!」

じたばたじたばたと力の限り暴れられるが、俺も甘原少女よりも一応年上、しかも男。

びくともしないのでホールドを続行する。

「離せ!あの赤い悪魔がここに来る前に私を離せえ!!」

なんだその某木馬の某最終兵器みたいなの。

「誰が悪魔だこの味覚異常者がああああああああああああああああああああああああッ!」

まったく聞き覚えのない声が鼓膜を揺らした。

なかなかの声量(俺は甘原少女で慣れているが、普通の人からしたらあり得ない声量)。

さて声の主はどこにいるのかとあたりを見回すと、俺たちのいる砂浜よりも少しだけ高い堤防の上に、随分顔の整った赤髪短髪の少年が髪と同色のつり目に怒りの炎を宿して仁王立ちしていた。

「…ッチ、もう来たか行動の早い…やっほー、ちーちゃん」

ドゴンッ!!!!!!

「っ痛!?」

鈍い音がした瞬間に、甘原少女が頭を抱えてうずくまった。

甘原少女のせいでやたらと鍛えられている動体視力のおかげでどうにかとらえることができた。

ちーちゃん、と呼ばれた瞬間に、赤髪の少年が凄まじい勢いで甘原少女に接近し、容赦のないグーパンで甘原少女の頭に拳骨を叩き込んだのだ。

「お前なぁ…人に向かって舌打ちすんな!あとその呼び方やめろッつッただろうが!

いい加減覚えろ【甘党探偵】!」

おおおお、自分の言いたいことを一気に言って甘原少女の反論を封じる…なんだろう、彼から俺と同じ甘原少女で苦労してる人のオーラが出てる気がする

そんなことを考えているが、状況からは完全においてけぼり状態。

いかがしたものかと思っていると、赤髪の少年がようやく俺の存在に気がついたようで、俺に向かってとても優しげな笑顔を浮かべて名刺を手渡してしてきた。

「初対面の方がいるとは知らず失礼いたしました。私こういうものです」

手渡された名刺には、大きな字で【裏探偵 千里辛牙】と書いてあった。

「えっと…せんりしんが?さん?」

あてずっぽうでそう読んでみると、甘原少女と赤髪の少年がそろってやれやれと肩をすくめた。

「やっぱりそう読むよな…」

あれ違うのか?と思ったところで、甘原少女が口をはさんだ。

「ちさとこうが、って読むんだよ。ちなみに両親本人そろって辛党だったから『辛』の字を入れたかったらしいんだけど、辛い人生は送ってほしくないから、読みだけでも幸せから貰おうってことで『こう』って読むんだって。なかなかの難読氏名だよねー」

「説明ご苦労」

「感謝して頭を垂れてくれても構わないよ?」

「断固拒否する」

なんだろう、この二人随分お互いについて熟知してるな。仲良いみたいだし。

「仲良いですね」

「「どこをどう見てその結論に至ったのかが理解不能な発言は控えて」」

見事にハモッた。凄いシンクロ率だな。

仲が良いと言われたのがそんなに不服だったのか、むすっとむくれている甘原少女の頬をつついて辛牙少年が甘原少女に全力で殴られている。

甘原少女が年相応の行動と態度をとっている相手は、俺以外で初めて見た。

二人はしばらくそんなやり取りをしていたが片方が仕事にとりかかると流れるようにもう片方も仕事を始め、二人がかりで仕事をハイスピードで進めていく。

転覆した漁船を隅から隅までなめるように見て、聞き取りや海の様子の観察などテキパキとすすめ、一通り終わったかと思ったら、今度は二人して堤防に腰かけ、『考える人』のポーズで停止してしまった。

「大方分かったんだよねぇ…」

「十中八九アイツだよな…」

「でもどうやって接触すれば…」

「この状況で漁に出るうえに俺達に協力してくれる漁船なんて滅多に…」

交互にブツブツブツブツと念仏か何かのように呟き続けている。怖い。

俺に何かできることはないか、そう考えたとき出てくるのは一つ。

ご飯を作る。

腹がすいては戦もできまい。とりあえず材料調達しに市へと向かい、店にいた恰幅のいい漁師さんにできるだけ鮮度の高い奴をお願いします、と無茶ぶりをすると、無言で漁師さんが立ち上がって、ついて来いと歩き始めた。

訳が分からぬままついていくと、どっこいしょと漁船に乗ってエンジンをかけ始めた。

「えええええちょっとおおおおおおおおお!?」

「あ?どうした兄ちゃん?」

「なんで漁船出そうとしてるんですか!?」

「できる限り鮮度が良い奴が欲しいんだろ?」

「確かにそう言いましたけど!!」

さも当然と言わんばかりに俺たった一人のために船を出しちゃ駄目だろう。よりにもよってこんな天候の日に。絶対利益より支出が勝つ。

「スーパーじゃなくて市で買おうとしてくれる若者がいるのが嬉しくてな」

いやそれでも駄目でしょう!!

どうしよう、とワタワタしていると、甘原少女と辛牙少年が走り寄ってきて、漁師さんに状況説明と協力してもらえないかと願い出た。

漁師さんは

「俺らのために危険冒して調べようとしてくれてんだ、もちろん協力するよ」

と快諾してくれた。

多分今までで初めて俺が役に立った瞬間から数分後。

漁船は、俺と甘原少女と辛牙少年と漁師さんと、山積みの柄杓を乗せて海を進んでいた。

なんでこんなに柄杓が要るんだろう。しかも全部底が抜けてるし、役に立つとは思えないんだけど。

しかもさっきからずっと二人とも海を凝視し続けて、まともに質問に答えてくれないし。

何か変わったものでもあるのだろうか、と海面を覗き込んだ瞬間に漁船が激しく揺れだした。

「「来た!」」

「うお!?」

慌てて屈み、振り落とされないように鉄柱にしがみつく。

この状況で一番不安なのは甘原少女だ。

一番体重が軽いうえに力がない。十中八九振り落とされてしまうだろう。

俺が保護しなければ!と甘原少女のほうを見てみると、甘原少女は辛牙少年によって壁に固定されて難を逃れていた。

…そう。俗に言う壁ドンをされて壁に固定されているのだ。

しかも二人ともシレっとしているし超真顔だ。

年頃の男女がそれでいいのだろうか?

そう思っていると、さらに揺れが激しくなった。全力で鉄柱を握る。もはや動けもしないこの状況、鉄柱を離してしまえば即アウトだ。

なんとか持ちこたえていると、風船でも入っているかのように、むくむくと目の前の海面が盛り上がり始めた。

山のようなサイズまで大きくなると、その盛り上がった海水(と言っていいのかは謎)の中央に、ぎょろりと巨大なサイズの一つ目が現れた。

「ひっ!?」

蛇に睨まれた蛙をそのまま体感した。

圧とか恐怖とかが強すぎて数秒動けなかった。(数秒で済んでる時点で俺もだいぶ普通じゃない)

その山のような何かが盛り上がり終わると、激しい揺れは収まった。

《杓をくれえぇ…杓をくれえぇ》

地の底から響くような声でギョロ目のそれがそう言った。

「杓?杓って柄杓のこと?」

とりあえずちゃんと底が付いている柄杓を目の前のギョロ目に向かって投げようとすると、甘原少女が俺の手から柄杓を奪った。

「海坊主、この場合は通称杓くれ坊主。

漁船を見つけると杓をくれと要求してくる。漁師さんの間で語り継がれる海の暴れ者。

丸暗記ね。美術のテストに出るよ」

「数ある教科の中でよりによって美術ですか」

というかなんで柄杓を奪われたんだろう。柄杓が欲しいくて出てきたならあげればいいだろうに。こんなにいっぱいあるんだし(奪われたの以外全部底抜けてるけど)ケチケチしなくていいと思うのだが。

「あー…別にお前がそいつに柄杓やりたいならやってもいいけどさ。代わりに船沈むまで海水注がれるぞ」

辛牙少年がシレっと恐ろしいことを言った。

「そうなんですか!?ならもっと早く言ってくださいよ!というかそれが駄目ならいったいどうすればいいんですか!?」

危うく自滅するところだった。

なぜか底抜けの柄杓を手に持ってこちらにやってきた辛牙少年は、俺より数歩前に出て大きく振りかぶった。

「こうするんだよッ!」

野球のボールのようにぶん投げられた柄杓は、高速で海坊主の頭上を通過すると、そのままはるか彼方へ飛んでいった。…なんという剛腕。

すると海坊主が柄杓を追って同じくはるか彼方に走って(?)行く。

「岸まで引き返してください!速く!!」

甘原少女が漁師さんに向かって鋭く叫んだ。

漁師さんが高速で旋回し、岸へと全速力で引き返し始める。

旋回速度が予想以上に速かったためよろけて転びそうになった甘原少女を、流れるように辛牙少年が掴んで転倒を阻止する。

…ほんとに慣れてるな。こうなるの予想してたみたいだし。

「…お前もそろそろ自分の管理くらい自分でできるようになってくれよ…頼むから」

「…返す言葉もございません」

そこから岸に帰るまでは機械のように同じ作業が繰り返された。

海坊主が返ってくる

→柄杓の底が抜けていることに気づいて怒る

→辛牙少年が底抜けの柄杓を投げる

→馬鹿正直に海坊主がそれを追う

これの繰り返し。

岸に着くと甘原少女はブツブツブツブツと超高速で何かを呟き始め、どこか近寄りがたい…というか近寄ったらヤバイことになりそうなオーラを放ちだした。

そんなことを全く知らずに海坊主が岸へと近づいてきたので、なんとなくこの先の展開を察して両手を合わせておく。

またもや柄杓を持った辛牙少年が大きく振りかぶる。

「最後は直球ドストレートド真ん中だああああああああああああああッ!!!!」

超高速の剛速球で、底抜け柄杓の“柄のほう”が、一切減速することなく、海坊主のギョロ目にそれはもう気持ちがいいほど深々と突き刺さった。

《ぎいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!???》

目を押さえて海坊主がのたうちまわる。

ああああああああああああああああああアレは痛い!絶対に痛い!!

「これが俺の妖怪退治(物理)だ!」

よりによって物理ですか!?もう可哀そうというより哀れなレベルで痛がってるよ!?

突っ込みを入れるべく口を開いた瞬間に、海坊主の周辺に菱形の何かが浮かんで四散したかと思えば、不思議な膜?壁?のようなものを出して海坊主を捕獲、隔離してしまった。

「なんだこれ!?」

思ったことをそのまま口に出すと、辛牙少年がひょこひょこと寄ってきて「ああ、これのことか?」と壁のようなものに隔離された海坊主を指差した。

こくこくと頷くと、意外そうな顔をされる。

「お前、『術式』一回も見たことなかったのか?」

「一回もないどころか存在すら知りませんでした」

事実なので素直に肯定すると、「アイツ本当に必要最低限のことしか教えてないんだな…」とボソッと呟いてから、辛牙少年は懇切丁寧に解説してくれた。

「妖怪とかを見るときには体内に蓄積され続けてる霊的な力を無意識に使ってるってのは教わってるよな?

その中でも特にそーいった力が強くて多い奴はああやって一定の順序を踏んだ上で体外放出することで陰陽術やらなんやらの術式を使って妖怪に強制的かつ普通不可能な干渉ができるんだよ」

後半の知識全部初耳なんですが。

「そのなかでもアイツが使うのは完全に我流の密教系。今回は捕縛結界だな。

お前はまだ見たり聞いたりも安定して出来てないみたいだから好奇心で真似したりすんなよ?そういう奴が失敗したらよくて昏睡悪くて落命だから」

「怖ッ!?」

「当たり前だろ。人外相手に科学からかけ離れたもんで対抗するんだから。

いい機会だし目に焼きつけといたほうがいいと思うぞ」

ほれ、と首を思い切り回される

「いだだだだだだだだだだだだだ!?」

自分で向き直ってその摩訶不思議な光景を凝視する。

甘原少女が何かを呟くたびに中の海坊主ごと結界が小さくなって、手のひらサイズになってしまった。

海坊主(スモールサイズ)は、しばらくバタバタと甘原少女の手のひらの上で暴れていたが、自分の力ではもうどうしようもないと察したらしく、しゅんとおとなしくなった。

「二人とも」

ちょいちょいと手招きされたので素直に近寄る。

すっかりおとなしくなった海坊主を静かになでてみるとめっちゃ不思議そうな顔をされた。なんだこの生き物かわいい。

「もう悪さしないってさ」

「原因なんだったんだよ?今までここの海坊主って人間を助けることはあっても迷惑かけることなんてなかっただろ」

「反抗期だって」

「周囲の物にあたるアレか」

どうやらこれで事件(?)解決らしい。海坊主にも反抗期ってあるんだなあ。

そして甘原少女は海坊主を通常サイズに戻して解放してやり、辛牙少年は海坊主に底抜けの柄杓を渡して固い握手を交わしていた。友情が芽生えたらしい。

ぶんぶんと手を振りながら海坊主は海へと帰って行った。

「あのー」

「ん?」「お?」

「晩ご飯に好きな料理作るので妖怪とかについて色々教えてください!!」

「ちょっ!?おま!?」

「おー、別にいいぞー?」

俺はこの時知らなかった。類は友を呼ぶ。彼もまた同じ穴の狢ということを。

本日のラインナップ

・純和食&パフェ

・純和食

・真っ赤な激辛冷やし中華(唐辛子で作った氷入り)

名が体を表しまくっている。

甘原少女が病的な甘党なら、辛牙少年は病的な辛党。

「俺この料理好きだわ」

あれ?もしかして俺今胃袋掴んじゃった?

…時すでに遅し。今は三人でほのぼのした食事を楽しもう。


To 母さん

俺の高頻度買い足しの食品に砂糖の次は唐辛子その他の香辛料が追加されました。

今のバイトはまだまだ奥深く学ぶことが多そうです。

From 息子

「次回!

田中、死す!?デュエーーーーー」

「「帰れこの大嘘つきがッ!!」」


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