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俺と甘党と異常な常識

調子乗って第2話です。

駄作は相変わらずですが、ちょっとだけ妖怪、探偵要素がマシになりました。

良ければ読んで欲しいです。

甘原探偵社の雑用係として雇われた俺の仕事は、『コーヒーらしきもの』を淹れることから始まる。

ドリップ式のコーヒーを格好つけながら淹れて、ぼちゃぼちゃぼちゃぼちゃと角砂糖を四つ放って掻き混ぜて、ミルクを入れてまた混ぜる。

それを彼女のところに持っていくと、甘原少女は喜んでそのコーヒーの良さが99%失われたであろう液体を一気に飲む。

もはやそれが通例となってしまっており、その度に俺は胸焼けしそうなその光景を見て顔を少ししかめる。

それから彼女の朝食兼昼食を作るべくキッチンに立つ。

シックな内装に合わず、キッチンはしっかりとしたシステムキッチンで、とても便利そうだ。

しかし彼女はこれらを全く使わずに過ごして来たらしく、「朝食は何を食べるのか」と聞いたところ、「クレープとシュークリームとエクレア」と答えた。

いくら甘党とはいえ流石にこれはまずいと思って、「俺が作ります」と言い、半ば強制的に栄養管理を行っている。

白米に味噌汁に菜っ葉の漬物、焼き魚に生卵に海苔というThe・和食を作り上げ、彼女のもとに運ぶ。

彼女は病的な甘党ではあるが、甘み以外の味覚はある一点を除いて狂っていないらしく、出されれば素直に朝食を食べる。

そう、ある一点を除いて。

「ーーーーーーーーーーーーーっ!!」

「あ」

声にならない悲鳴をあげて彼女は倒れた。

そう、これがその『ある一点』

「あー、隠し味に山椒使ってみたんですけど、駄目でした?」

彼女はある一定の限度を超えた辛さを感じると、ぶっ倒れて気絶するのだ。

もう慣れて、彼女が許容出来る範囲を模索しているが、3日に4回はひっくり返る。

ぶっ倒れた反動でバサバサと床に錯乱した書類を集めて角を整える。

その時、ある一文が目に留まった。

『極秘事項 15人の児童が一晩で失踪』

これは明らかに警察など公共の機関が対処するべき問題だ。

誰かが彼女に横流ししたのならば、止めなければならないと思い、これは誰からの依頼か聞いた。

「見たら分かるでしょ?警察からだよ。

失踪事件。手掛かりナシ、容疑者ナシ、

本当になーんにもないの。

だからウチに泣きついて来たんだよ。」

ずずずずずっ、と山椒の味を消すべく味噌汁を吸いながらそう答えた。

「そーだ。これとこれとこれとこれ。

シュレッダーかけといて。

あと、ご飯美味しかった。ご馳走様。」

ポイポイポイッと書類を投げられ慌てて受け止める。

書類の内容は様々だったが、どれも興味本位のもので依頼内容は妖怪には一切関係がない。

食器を下げつつ彼女の方は目をやると、棒付き飴を咥えて、物凄い勢いで万年筆を滑らせていた。

最近わかったことだが、彼女はスイッチのオンオフが激しい。

オンが3日間ぶっ続けで続き、寝不足でぶっ倒れることもしばしば。

逆に、3日間オフになりっぱなしでグータラ生活をすることもある。

それを強制的にオンにするのが、この棒付き飴を咥えるというルーティーンなのだ。

彼女の顔を見て悟った。今回は『長い方』だ。

このまま放っておけば三徹した後丸一日死んだように眠るだろう。

成長過程の子供にそんなことは絶対させたくないので、鬼札を切ることにした。

「買い物いきましょう、千里」

千里呼びは彼女が強制してきた。

他は避けられているような感じがして嫌だそうだ。

「え、なんで?ヤダ」

どうでも良いらしく、書類から目を離さずに答えてきた。

「行かないと今日のデザートのプチシューピラミッド作れませんよ?」

「なんでっ!?」

書類からやっと目を離し、今度はかなり本気の『なんで』が返ってきた。

そう、お菓子が絡むとびっくりするほど操りやすい。

「貴方が尋常じゃない速さで砂糖消費するからですよ。

棚見ます?もう砂糖ないですよ。」

「ええええええええええ・・・行く。」

どうにかスーパーへと甘原少女を引きずり出し、カゴに野菜や肉を入れていく。

砂糖は徳用の袋を9つ入れ(割引してもらえる限界の数)、社に無かった果物ナイフを買う。

デザートにちょくちょく果物を使うので、これが無いとかなりキツイ。

その片手間に、甘原少女が入れた菓子を入れた端から棚に戻す。

「なーんーでー!ケチー!ケチー!」

「放っといたら菓子だけでカゴ3つになる流れでしょう?これ。」

「うっ」

図星かい。

あ、ハバネロある。しかも安い。これは

入れとこう。

「何してるの!?元の場所に戻して来なさい!!」

「いや、何ですかその捨て犬拾って来た子供に言う台詞みたいなの。

試しましょうよ、ハバネロ。

毎食微調整しますから。」

「君、9食に4回どころか毎食私を倒れさせる気!?」

結局、「命の危機を感じるからやめてください」と号泣しながら懇願されたので、俺だけが食べると言ってハバネロを買った。

スーパーの袋をぶら下げて外に出ると、ご近所さんらしき男女2人が井戸端会議をしていた。

「まさかボヤがあったその日に大量失踪事件まで起きるなんて・・・。

お祓いするべきなのかしら・・・」

「そうかも知れませんね」

その言葉を聞いた瞬間、甘原少女が裏探偵へと変貌を遂げる。

そして2人に歩み寄ると、何やら近くの噂好きの中学生を装い情報を書き出していた。

そしてこちらに戻ってくるなり真顔になり、聞き出した情報を俺にも伝えてくる。

「女の人の方が上野さん。

先祖代々の花屋の店主。

失踪事件があった日に庭でボヤが起きたらしいよ。あと、失踪した子供達の母親的存在だったらしい。

男の人の方は佐田さん。

こっちも歴史ある庭師。

上野さんの家から延焼しかけたらしい。

それまではボヤに気付いてなかったみたい。

近くに妖怪のいそうな怪しい林もあるみたいだし、行こう」

相変わらず凄い行動力と判断力だな。

正直、今の彼女にかなう人はそうそういない気がする。

森の中にずんずんと入っていく彼女の後ろに慌ててついていく。こちらを振り返ることはせず、彼女は淡々と話し出した。

「多分、今回の失踪事件には2つの妖怪が絡んでる。

あとは術者を特定できる何かがあればどうにでもなる。

そうだ、念のため言っとくけど、その妖か」

「千里?・・・千里ッ!?」

不意に、目の前を歩いていたはずの千里の言葉が途切れ、不思議に思い顔を上げると、忽然と彼女の姿が消えていた。

「妖怪・・・?でも一体何の・・・?」

いつも頼りになる彼女は今いない。

自分で考え、どうにかするしかない。

幸い、この半月で大体の妖怪の知識は叩き込まれた。(方法は出来る限り思い出したくない。スパルタの域を超えていた)

まずはこの妖怪が一体何なのかを推理しなければならない。

夜道、忽然と消える、行く手を阻む、邪魔をする、迷わせる。

「・・・ぬりかべ?」

グニャリ、と空間が歪んだような感覚に襲われる。ビンゴだ。

妖怪が何かは分かった。あとはどうにかして突破しなければならない。

突進・・・いやいや、ぬりかべに力でかなうはずがない。

逆に脅かす・・・妖怪相手に通じるとは思えない。

術でどうにか・・・まず術使えないし。1番現実味がない。

どうするか。

その時、ある会話が頭の中に蘇った。


『はい問題!ぬりかべは一体どんな妖怪でしょうか?』

『壁じゃないんですか?』

『ノンノン!正解は、めちゃくちゃ胴の長い犬と狢の中間みたいな感じ』

『何ですかそのスッゴイ微妙な例え。

なんかやけに具体的だし。

というか、むじな?って?』

『狸だよ。た・ぬ・き!』


・・・思い出した。ついでに打開策も思いついた。

手元には大量の砂糖、果物ナイフ、ハバネロ、菓子。

んで相手は狸っぽい何か。悪いが、これしか思いつかない。

適当にあたりに手を伸ばすと、何もないはずのところに壁らしきものを感じる。

よくよく注意して触ってみると、物凄く微妙にふかふかしている。

そこの毛を果物ナイフで軽く剃る。そしてハバネロを軽く刻んで潰す。

そしてそれを毛を剃った胴に塗る。

その瞬間、犬の遠吠えのような声が響いた。

そして、足元に何かが転がり落ちた。

唐突に後ろの雑用係こと田中君の気配が消えて全てを悟った。

「別々にされたかー」

まあ納得のいく行動だ。私よりも知識も実力もない駆け出しを確実に潰しておく。その判断は正しい。

「普通の雑用係なら、ここでやられるだろうなぁ」

砂糖水を取り出して飲む。糖分補給は大切だ。

彼にはこの半月で叩き込める知識は限界まで叩き込んだ。あとは彼次第だ。

「さてどうするか・・ん?花の香り?」

これは確か、あの花の香りだ。

暫く考えていると、ぬりかべの遠吠えのような声が聞こえた。

どうにか突破したらしい。

急に視界がひらけ、目の前に甘原少女が突然現れる。

無事を確認し砂糖水を取り上げ本人か確認する。

「ちょっと待って今流れるように砂糖水取り上げなかった!?」

どうやら本人のようだ。

無論、砂糖水は没収である。

放置しておくと、彼女の体の60%近くが水でなく砂糖になりそうで怖い。

「どうやってぬりかべを突破したの?」

「毛剃ってハバネロ塗り込みました。

狸みたいなもんだって聞いたんで。」

「リアルかちかち山!?」

「辛子味噌じゃなくてモロ唐辛子でしたけど。言いたいことは分かります。」

「おっそろしいなぁ。鬼か君は!?」

「あ、そういえばこんなの拾ったんですけど。何でしょう、これ。」

大袈裟にブルブルと震えてみせる彼女をフルスルーして、ついさっき足元に転がってきた何かを見せる。

それを見た瞬間に彼女は大袈裟なリアクションを速攻で止め、獲物を見つけた虎のように鋭い目つきになった。

「印籠?どこで拾って・・・ぬりかべから出てきたのね?」

「あ、はい。印籠?これが?」

急に真剣になった彼女に少し戸惑いつつも、その印籠とやらを凝視する。

「うん。江戸時代の携帯用薬入れ。

うん?中に何か・・・」

からからと音が鳴ったため、彼女は問答無用で印籠を開く。

中からは赤い液体が入った小瓶が出てきた。

「ぷっくくくく・・あーっはははっはっはっはっは!!」

彼女は急に笑い出した。何が起きているのか全く分からずに狼狽している俺の肩をバシバシと叩きながら彼女は続ける。

「ナイス!よくやったね!!

あー、こーんな分かりやすい媒介残してくれるなんて・・・ぶはははっ!

ヤバイお腹痛いっ!!」

ついには腹を抱えて笑い出してしまったため、とりあえず背中をさする。

「ひー・・・ありがとー。

これで全部解決だよー。本当にナイス」

狙いすました一閃を放つ直前の虎のように、残虐で恍惚とした眼光を宿した彼女を見て、今彼女にはこの事件の全てが、一枚の絵画のように全て見え、そして理解していることを知った。

「明日決着をつけてあげられるよ」

そう言って、彼女はおもちゃを見つけた子供のように無邪気に笑った。

上野さんと佐田さんを甘原探偵社へと呼び出し、2人がやって来たところで雑用係こと田中君が私に激甘、2人に普通の紅茶を出す。ここら辺の気配りがしっかりとしていて、本当に有能だ。

「今日は。ご足労くださりありがとうございます。失踪事件の真相が分かったものでして。」

いつもの調子でペラペラと喋る。

2人はものの見事にテンプレ通りの反応をしてくれた。

「あのー、お嬢ちゃん?どうしたの?」

だから私も、いつも通りの行動をとる。

もったいぶって立ち上がり、礼をして名乗る。

「大変失礼致しました。

私、甘原探偵社社長 甘原 千里と申します。」

ぽかんと大口を開けたまま呆けている2人を放置して、そのまま続ける。

「今回の事件には2つの妖怪が絡んでおりまして、少しだけ難航致しました。

ぬりかべとえんらえんら。結構有名な妖怪ですね」

くいっとティーカップを傾けて紅茶を煽る。

甘い。しかし体に良さそうな甘さだ。

蜂蜜かこれ。本当にいろんな手を使ってくるなぁ。というかなかなか良いな。ハマりそう。

ちらりと田中君の方を見ると自慢げな顔で、どうだと言わんばかりに、ふふんと鼻で笑って来た。

よし、君、後で覚えてろよ。

カチャリとティーカップを下ろして再び2人の方を向く。そしてまた語り始める。

「そこの雑用係がぬりかべを退けた時、ぬりかべがこんな物を落としていきました。」

コトンと机の上に印籠を置く。

「印籠・・・?」

「そうです。中にはこんな物が。」

その場で印籠を開き、赤い液体が入った小瓶を取り出す。

中に入っているのが血だと気づいたのだろう。2人の雰囲気が硬くなった。

「この血液情報が貴方のものと一致しました。・・・佐田さん」

「「なっ!?」」

全てをガン無視して、話を進める。

普通の探偵なら納得、落ち着くまで待っているのだろうが、生憎私は裏探偵だ。

常識道理の行動を強制されるいわれはない。

「こんなに古いものなら妖怪の1つや2つ、簡単に飛びつくでしょうね。

えんらえんらで火事を起こして、その間に子供を失踪させる。手順はとっても簡単。これから桃の花の匂いもしますしね。」

佐田さんはぶるぶると震えだした。

何をそんなに怒っているのか。

当然の報いだろうに。

「私は・・・私はそんな事をしていない!動機は!!動機はなんだっていうんだ!!」

「予想通りのあたりきりな反応どうもありがとうございます。

当ててあげましょうか?

ズバリ、嫉妬でしょう?経営の。」

「は・・・」

ぐっ、と佐田さんが押し黙る。

図星か。本当に分かりやすいな。

「先祖代々の庭師である貴方の経営は傾いているのに、同じく昔からある花屋の上野さんの経営は成り立っている。

充分な動機になり得ますね」

「あ・・・・。

そう、です。私が、やりました・・・」

仕事完了。

さて、ここからは雑用係に任せよう。

その後佐田さんは出頭。子供達は山奥で全員健康な状態で見つかった。

子供達曰く、優しい人がいっぱい植物について教えてくれてとても楽しかった、とのこと。

トラウマなど心理的な傷も奇跡的に皆無で、元気に過ごしているらしい。

「ざーつーよーうーがーかーりー!

ご飯ー!デザートーーーーッ!!

はーやーくーーーーーーーーっ!!!」

そして何故かさっきからずっと、甘原少女の機嫌が悪い。

「はいはい、何が良いんですか?」

「手作りガトーショコラ。今すぐ。」

「無理言わないでください子供ですか」

「あれくらいで私を出し抜いたと思うなよ小童が」

「俺一応年上」

俺何かしただろうか。

まあ良い、平和で何よりだ。

チョコレートを湯煎しながら、スマホに文を打ち込んでいく。


To 母さん

俺の上司は何だかんだまだ子供で、でも尋常じゃなく頭が切れます。

でも、なんだか理不尽です。

From 息子

読んで頂きありがとうございます。

次からは新キャラ、ちょっとした恋愛要素が追加になります。

良ければ次も読んで欲しいです。

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