俺と甘党と探偵への道
駄作です。
多分誤字いっぱいです。
探偵要素ほぼないです。
それでもよければ温かい目で暇つぶし程度に読んでいただけると嬉しいです。
俺は、自分で言うのも悲しいが、ごく平凡な高校生。性は田中、名は勝次というなんともありふれた名前の持ち主である。
学力そこそこ、運動もそこそこ、なのに顔は中の下という、多分漫画とかなら一番目立たないモブの立場であろう、普通の日々を送っていた。
だから恨みを買った覚えもまるでなく、誰とでも仲の良い自信がある。
新作のチョコレートをコンビニで買い、ルンルンで一人暮らしの家へと帰る。
そう、誰からも恨みを買った覚えはない。
なのに、なぜ。
俺の家が、赤々と、自分の主人よりも遥かに自己主張激しく燃えているのでしょうか?
「ええええええええええ?!」
火の始末は完璧だったはず。しかもこの火、天井から出てる?!
「けっ警察!110番!!」
慌ててスマホを取り出して110番に電話をかける。しかし、警察が来た時には、なぜか火が消えていた。
悪戯はするなと警察の人に怒られた。
しかしその後も度々不審火が出て、警察を呼べば消えているの繰り返し。
「・・・流石におかしい!」
遅すぎる確信をしてから、スマホで『不審火 消える 天井』で検索。
・・・多分その時の俺は、あまりにも非現実的な出来事に動揺していたんだと思う。
検索結果のトップに出てきた、
『その出来事、妖怪のせいかも!?妖怪専門甘原探偵社』
なーんて、あまりにも不審なサイトにアクセスして、そのサイトに書いてあった住所の建物まで来ちゃってるんだから。
「失礼しまーす・・・」
おずおずと中に入る。
しばらく進むと、使い古されたドアのプレートに『甘原探偵社』の文字。
開ける。中はシックに統一されていて、とてもお洒落な空間に仕上がっている。
部屋の中央の仕事机の、高価そうな椅子にはかなり大きな人形が座らされている。
色白の肌によく映える、限りなく黒に近い焦げ茶色の垂れ目と長髪で、唇は赤く、目の周りを覆うまつ毛は長い。
あまりにも人間離れした美しさを持つその人形を我を忘れて凝視していると、急に声が聞こえた。
「ご用件をお伺いしましょう」
鈴のような声で、どこから聞こえて来たのか一瞬分からなかった。
「ようこそ、甘原探偵社へ」
もう一度声が聞こえた。今度は分かった。
この人形からだ。
否、正しくはこの人形のような少女から発された声だ。
女の子の顔を凝視していたと考えると、かなり恥ずかしかったが、平気なふりをしてやり過ごした。
そして、ここの探偵の娘さんか何かだろうと思い、俺はその子に質問した。
「あのー、ここの探偵さんは今どこにいるの?外出中?」
「?目の前にいますが?」
「え?」
「いえ、だから目の前にいますが?」
女の子と俺との間で?が飛び交う。だって目の前にいるのはこの子だけだ。どこにも探偵らしき人は見えない。
しばらくお互い?を飛ばしていたが、女の子が何かを察したような顔をして立ち上がった。
「ようこそ、甘原探偵社へ。
私が探偵の甘原千理と申します。
ご用件は何でしょうか?」
そう言ってぺこりとお辞儀をした。
「かんばら、せんり?え、探偵?君が?」
「はい」
しれっと答えられた。中学生が探偵やってんの?!あ、もしかしてこの子、もの凄い童顔なだけで実は20そこらとか?
「え、何歳?」
「?見たままの15歳ですが」
・・・嘘だろ。
サイトから怪しいと思ってたけどまさかここまでとは!
しかし、消える不審火など公共の機関に信じてもらえるはずもない。結局、俺に選択肢などないのだ。
「あの、俺の家なんか不審火が天井から出るんです。しかも警察呼んで警察が来る頃には消えて、いなくなったらまた出ての繰り返しで・・・調べて欲しいんです」
そう言うと、女の子は顎に指を当ててしばらく考え込んでからこう言った。
「ふむふむ、不審火ですか。ちょっと調べてみましょうか。あ、料金前払いですけど大丈夫ですか?」
「あ」
料金が必要になる、そんなの当たり前なのにすっかり忘れていた。調査をしてもらえるような大金なんて持って来ていない。
「えっと、その、料金は・・・」
「ビニール袋」
言い淀んだ俺を無視して女の子はそう言った。ビニール袋?このコンビニ袋のことか?中に入ってるのはチョコレートだけのはずだ。中身を見る。うん、まごうことなきチョコレート。
「それ」
「はい?」
目線を上げると、キラキラした目で俺の手の中にあるチョコレートを凝視する女の子。
「ウチの支払いシステムはお菓子による支払いですよ」
はい?・・・幻聴ではないみたいだ。
お菓子?sweets?これで良いのか?
「これで良いなら、どうぞ。」
おずおずとチョコレートをビニール袋ごと差し出すと、ぱあっと女の子の顔が明るく輝いた。
「商談成立ですね!後日また伺います!」
◇
目の前にいる女の子・・・もとい甘原少女は茶色と赤チェックのブレザー、黒のハイソックスに茶色のローファーという制服のような格好で、探偵要素といえば茶色のハンチングくらいのものだ。
やっぱり中学生だなあ、と感じるとともに、なんだか一抹の不安を覚える。
「いやぁ、絶賛大炎上中ですね〜」
そう感嘆の声を漏らす甘原少女。
本当だ。燃えてる。なんだろう、もう慣れた。・・・嫌な慣れだな。
炎を見ていると反射的に喉が乾く。
何か飲むものがないかと考えて鞄を漁ると、甘原少女がにっこりと笑って、「どうぞ!」と飲み物を差し出してくれた。
右、千葉、茨城県民愛飲(偏見)極甘の代名詞、マックスコーヒー。
左、飽和量を超過し、コップに注がれる時にボトリボトリと不穏な音をたてた、砂糖水だったであろうもの。
Dead or die 。
俺はそんな甘いの得意じゃないんですが?
勿論一択。マックスコーヒーである。
それにしても、何であんなモンが鞄に入っているのだろうか。甘党の域を遥かに超えていると思うのだが。
そんなことを考えている俺の目の前で、件の飲み物(?)をグイッとあおっている甘原少女。胸焼け必至なその光景に、つい目を逸らしてしまった。見ているこっちが胸焼けしそうだ。
病的な甘党。彼女を表すならそれが1番適している気がする。
甘原少女はファイルらしきものを取り出した。そこには『交友関係』『家庭環境』など様々なことが書いてあり、推理のための資料だと分かった。
「すみません、少し質問に答えて下さいね。
交友関係や家族環境が特殊だったりしたことはありますか?
イジメとか、虐待とか。」
「いえ、特には」
甘原少女は、ファイルの『交友関係』『家庭環境』にバツをつけると、次の項目を見る。『恋愛関係』。それに迷いなく、そして俺に聞くこともなくバツをつけた。
「ちょっとおおおおおおおおおおおお!?」
「ひゃいっ!?」
速攻で叫んだ俺の声に驚いた彼女は、はー、はー、と肩で息をしながら振り返り、恐る恐るこう言った。
「・・・間違えてました?」
「いや間違えてないよ!?間違えてないけどさぁ!!間違えてないからこそ嫌なんだよおおおおおおおおッ!!」
心からの漢の絶叫にびびってしまったのか、甘原少女はスススッと本当に分からないくらいに距離をとる。
内心傷ついたが仕方ない。彼女の方を見ると、他の項目を手早く埋めていた。俺の言動から推測したのだろうが、あまりにも正確で軽く舌を巻いた。
さっきまでの可愛らしい少女らしさは何処へやら。探偵らしい目つきになっていた。
鞄から棒付きの飴を取り出して咥え、素晴らしい速さで情報を絞り込み始めた。
棒付きの飴を咥えるあの行為は、彼女にとってルーティーンか何かなのか、雰囲気が180度変わっている。
「交友関係、家庭環境、恋愛関係、全て特筆するような異常は無し。
犯罪が周囲で起こったことも無し。
・・・なら何で、霊が憑依してるの?」
「え」
ブツブツと彼女が呟いていた言葉を聞いて絶句した。
霊?憑依?俺の家に?嘘でしょ?
「え、霊、憑依してるの?俺の家に?」
彼女は、しまった、という表情をすると苦虫を噛み潰したような顔をしてこう言った。
「えーと、家にというか、あなたに・・・」
あれ?おかしいなぁ。今日はエイプリルフールじゃないはずなんだけどなぁ?
「えっとね、多分あなたが生まれついての幽霊を引き寄せる性質があるだけだと思うの。だから人為的なものではなくて・・・」
必死にフォローをいれようとする甘原少女。
しかし、それは逆効果だった。
生まれついての幽霊を引き寄せる性質。
つまり、生まれついての幽霊ホイホイ。
どうせ集まるなら美女にして欲しかった。
おおおおお、と葛藤をしている俺をスルーして甘原少女は俺の家に近づく。
そして迷いなく、俺の家を包んでいる炎に手を突っ込んだ。
「・・・やっぱり、熱くない」
側から見ると熱そう、そして痛々しいこと限りない光景だが、当の本人はしれっとしている。
「攻撃するための炎じゃない。つまり、何かを訴えるためのもの、ってことだ。
すみません、家の中入っていいですか?」
彼女の気迫に押されて、家のドアを開ける。
彼女は、赤く燃える炎の中をすたすたと歩いていく。
「来てください。多分、この炎の出所はあなたじゃないと分からない。」
そう言われて、甘原少女の後ろをビクつきながらついていく。時折、「どっちの方が炎強いですか?」と聞かれ、答えると、彼女は炎の強い方に迷いなく進んでいった。
あまりにも異様なその光景に目眩がして、フラリとふらついた俺の手を握った彼女は、何かに驚いたような表情をした。
2階に上がり、1番奥の部屋の扉を開ける。もはやその扉は、あまりにの熱のせいで、蜃気楼のようにうねり捻れ握ることすら難しかった。
「開けますよ!」
甘原少女がそう言って扉を開けると、ゴウと炎が溢れかえってきた。
「この、天井裏から・・・?」
「みたいですね」
淡々と答えると、よっこらせー、となんともオバサンらしい掛け声とともに天井裏に上がって行った。
「大丈夫ー?」
そう叫ぶと、かなりアッサリと答えが返ってきた。
「はい大丈夫ですよー。大人の男性の保健体育の参考書(エロ本)見ても見てないフリしときますからー」
「違うっ!!」
この子のド天然な発言はたまに雰囲気をぶち壊し、そして人を疲れさせるらしい。
そしてしばらくしてから、彼女はタオルに何かを包んで降りてきた。
「え?何これ?」
「踏まないで!!」
怖さ故に足で中身を確認しようとしていた俺を、彼女が叫んで止めた。
慌てて足を空中で止めて、そして見事にすっ転ぶ。目に映る天井は赤とオレンジが入り混じってなんだか幻想的。
・・・あれ?火、無くなってないよ?
それを指摘する間も与えずに、もう一度天井裏に這い上がっていく甘原少女。
数秒後、何かをタオルに巻いて持って降りてきた。そのタオルに巻かれた『何か』からは壮絶な勢いで炎を発しており、甘原少女がぱっと見完全火ダルマ状態だ。
「何それ・・・?」
「見ます?」
ぱらりとタオルがめくられる。
中から出てきたのは、全身から炎を発している、カラカラに干からびた猫のミイラだった。
絶句する。まるで耐性のない光景に目が眩んだ。
しばしの重苦しい静寂を破ったのは、ミイミイという可愛らしい鳴き声だった。
その鳴き声は甘原少女が最初に持って降りてきたタオルの中から聞こえてきている。
甘原少女がもう一方のタオルもめくる。
中から溢れるように子猫が出てきた。
ヨチヨチ歩きの子猫達は、まるで吸い寄せられるように自分達の母親に近づき、その身体を舐め出した。
どうやら怪我をしているため動かないと思っているらしい。
計12匹の子猫達は、俺達がいることを気に留めもせず、ひたすらに母親を舐め続けている。
「母猫はこれを伝えたかったんでしょうね」
胸を鷲掴みにされる様な悲しさを感じるその光景を見ながら、甘原少女がそう呟いた。
確かに、いくら人の住んでいる家だとしても、水も食料もまともにない屋根裏に、獲物をまだまともに狩れもしない子猫だけで生きるなんて十中八九不可能だ。
「俺に子猫達を助けて欲しかったってこと?
でも、それなら何で警察が来た時炎が消えたんだ?
警察に保護して貰えば・・・」
そう何となく呟いたが、甘原少女は間髪いれずに否定した。
「保健所に連れて行かれた動物の大半は殺処分されますよ。
ましてや12匹もいたら全員里親を見つけるのは至難の技でしょうね。」
「つまり、この子達の里親を俺に見つけて欲しかったってこと?」
そう呟いた瞬間に、全ての炎が一瞬で消えた。
「そのようで」
満足げに甘原少女が頷く。
これで俺の異変は解決。肩の荷も降りて気楽になったところで、甘原少女が声をかけて来た。
「学校でバイトは原則禁止ですか?」
「いや?別に比較的自由だけど、どうしたの?」
「甘原探偵社で働きませんか?
貴方のその体質、非常に興味深いです♡
時給これだけ出しますし、もしかしたら体質治るかもしれませんよ?」
ニマーッと悪い笑みを浮かべる甘原少女。
時給の額は物凄いし、体質が治るかもしれないという聞き捨て難い好条件。
これは任意と言う名の強制に近い。
わーいチョコだ〜♡チョコだ〜♡
と楽しそうにステップを踏みながら帰る彼女の後ろ姿を見ながら、スマホのメールにこんな文章を打ち込んだ。
To 母さん
俺の初めての上司は、人間離れした美貌を持った、可愛くて、変人で、甘党な、
妖怪がらみの事件専門の裏探偵のようです。
From 息子
これが、俺の妖怪探偵人生の始まりだった。