辺境育ちの実力者~勇者パーティの孫、英雄に憧れ最強を目指すがすでに最強~
かつて邪神から世界を救った4人の偉大な英雄がいた。
剣の奥義を極めし『剣聖』
魔道の真髄へと至った『賢者』
神聖なる癒しを与える『聖女』
そして、真なる英雄『勇者』
彼らの逸話は数多あり、誰もがその偉業を称える。
世界は彼らに救われ、平和な時代が訪れた。
――そして、時は過ぎる。
争いのない平和な時代に、彼ら英雄の力は異端であった。
全盛期を過ぎてなお、彼らの持つ力はあまりにも強大だったのだ。
悪しき意思を持つ者に利用されないよう、やがてひっそりと辺境の山奥に身を隠し、穏やかな余生を送るようになった4人の英雄。
――そんな彼らは今。
かつてない強敵と対峙していた。
「うおぉぉっ!」
老いを微塵も感じさせない裂帛の雄叫びを上げるのは『剣聖』ヘクトル。
力強い踏み込みとともに、渾身の力で剣を振り下ろす。
その剣が振り下ろされるのは――アルトという名の少年。
アルトはその振り下ろしに即座に反応し、自らの握る剣で受けた。
「難なく防ぐかっ!?」
「甘いよ!」
アルトは軽口を言ってから、ニヤリと笑う。
そして、攻めに転ずる。
苛烈な剣戟を幾度も叩き込むと、剣聖ヘクトルはあっという間に防戦一方となる。
鋭く容赦のない斬撃の数々に、ヘクトルは焦るが、対照的にアルトの表情には余裕があった。
「ふん、やるじゃねぇか。だが……婆さん!」
「はいよっ、と!」
ヘクトルに声を掛けられたのは、『賢者』アイシス。
本来、魔法を行使するには詠唱が不可欠。
しかし、アイシスは何食わぬ顔で魔法を無詠唱にて発動する。
それだけで、彼女が賢者と呼ばれるに値する魔導士だと分かる。
アイシスの周囲に展開された魔法陣から迸る魔力を見て、アルトは防御魔法の発動準備を進めると同時に、無詠唱で攻撃魔法を発動する。
【光の矢】がその名の通り光の速さを伴って、アイシスめがけて飛来する。
しかしその矢は、直撃の前に弾かれた。
「まだまだね、アル坊」
聖なる癒しと守りの担い手である『聖女』ミリアが発動した防御魔法だ。
アルトの攻撃魔法は、ミリアの発動したその魔法の前に霧散することになった。
「……防がれたか」
そう呟いた後、アルトは自らに向かって放たれようとするアイシスの魔法のことに意識を向け、防御魔法を発動した。
「どきな、爺さん!」
「分かってらぁ!」
アイシスの言葉に応じるヘクトルは、素早くその場を離脱。
完成した攻撃魔法【龍の咆哮】。
それは、間違いなく最上位の攻撃魔法。
魔道を極めた賢者アイシスにしか発動すら許されない、最大最強の魔力によって生み出された炎の龍。
その龍が魔法陣から召喚された。
炎の龍は意志を持ったようにアルトへと向かい、咢を開いて彼を飲み込んだ。
瞬間、起こる爆発。
周囲を灰燼へと化すその威力に、離脱をしていたヘクトルは目を細めた。
――そして、爆炎が晴れる。
その奥から出てくるのは、黒焦げになったアルトの死体……
「こんなもんじゃ、俺の防御魔法を突破することなんて出来ない!」
などではなかった。
世界最強の一角、賢者アイシスが放った本気の攻撃魔法を受けてたアルトは、感嘆すべきことに、無傷だった。
その圧倒的な強さと魔法の技量に『剣聖』も『聖女』も『賢者』も、思考の停止を余儀なくされ、身動きを取ることができなくなっていた。
「……お前さんなら、防ぐと信じておったぞ!」
しかし、ただ一人。
他の英雄が思考停止する中ですら、逡巡することなく飛び出す男がいた。
真打登場。
この男こそが、神殺しの『勇者』ジーク。
聖剣を握るジークは、その能力を全開放した。
かつて世界を破滅へと誘った邪神すら屠った、頂点の一撃。
その一撃を勇者は、躊躇うことなくアルトへと振り下ろす。
「これでしまいじゃ、アルトォォォォオオオ!」
聖剣から解き放たれる光。
【龍の咆哮】すら上回る破壊の奔流。
常人が絶望してしかるべきその一撃を正面から受けるアルトはその時……。
好戦的に嗤ってた。
「……やったか?」
光に呑まれたアルトを見た四人のうちの誰かが、そう呟いた。
邪神すら打倒した一撃、ただの人間に防げる道理はない。
常識的に考えれば、そのはずだ。
だが――
「やっぱり、一番重い一撃を持ってるのはジーク爺さんだよな。防御魔法に専念していなかったら、ちょっと危なかったかもしれないな」
かつて世界を救った4人の英雄は、その言葉を聞いて目を見開いた。
この世で最大最強の一撃すら、無傷で対処するアルト。
それはまさに、強さの次元が違う。
最強の英雄4人が、1人の少年の強さを測る物差しにもならない。
その事実に、全員が言葉を失った。
「それじゃ、爺さん、婆さん。こっからは俺のターンだ!」
最強を体現する少年は、楽しそうに笑い、そして戦場を踊る――。
☆
「参った、わしらの負けじゃよ」
ボロボロになったジークはほとほと困り果てたように、もろ手を挙げて情けなく降参した。
その言葉を聞いたアルトは、
「やった―! これで俺も魔法学院の試験を受けることができるぞっ!」
無邪気な笑顔を浮かべて喜んだ。
ジークは、その無邪気な笑顔を見て思う。
(やれやれ、ワシら勇者パーティの孫で、全員の才能を受け継いで技術を教えられたからといって、流石にこれは強くなりすぎじゃないかのう……)
そう、この圧倒的強さを持つ少年アルトは――英雄4人の孫であった。
幼少期より英雄たちに剣と魔法の英才教育を受け、いつしか当然のように師匠である英雄たちの実力を追い越した、史上最強の少年なのだ。
それについて、4人は不満があるわけではなかった。
孫の成長は、素直に喜ばしいことだ。
それに、アルトは純粋で、優しい子だ。
自らの力に溺れ、間違った力の使い方は決してしないと確信している。
……それでも、彼らには悩みがあった。
「これまでずっと田舎の山奥で、爺さん婆さんに鍛えられるだけだったけど。これからは魔法学院でもっとすごい魔法を学べる……! 俺はそこで頑張って、絵本で見た勇者パーティを超える、最強の英雄になってやる!」
あまりにも強すぎる自分たちの力を世間に利用されないために、辺境の山奥でひっそりと暮らしていた4人は、今日まで自分たちの正体をアルトに伝えてこなかった。
……ちなみに、絵本について。
孫に尊敬の念を抱いてもらいたいがために、勇者パーティの話が書かれた絵本を家において、彼らはアルトに読ませていたのだ。
本来であれば、適当な時期にアルトに正体を明かすつもりだった。
当初の予定では「ええ、爺ちゃんたちが英雄だったの? すっげー!」となるはずだったのだ。
――悲しいかな。
現状、「俺に負けるような田舎の爺さん婆さんが英雄のわけないだろ?」と言われかねない。
……どうしてこうなった!?
勇者パーティの4人の英雄は、それぞれ同時にそう思った。
「……アルト。やはり、考えを改める気はないか?」
困り果てた様子のヘクトルが言った。それはもちろん、アルトを慮っての発言だ。
なぜなら、4人の英雄を超える最強のアルトに魔法や剣を教えられる人間は、この世界のどこにもいないのだ。
魔法学院に行っても、アルトががっかりするだけだ。
「何だよ、ヘクトル爺さん。俺一人でみんなとの勝負に勝ったら、魔法学院の入学試験を受けても良いっていう話だったろ!?」
しかし、アルトも素直に「はい、そうですね」とは言えない。
なぜなら、自分は田舎の爺さんと婆さんより強いくらいの、普通の人間だと思い込んでいるからだ。
純粋で素直なアルトの、数少ない欠点。
それは、世間知らずが故に自己評価が低すぎることだった。
困ったもんだよ、トホホ……、と。年老いた英雄たちは困惑を浮かべる。
「それは、そうだが……」
「いいかい、アル坊。良く聞いてほしいんだ。あんたの目標は勇者パーティの英雄を超える『最強の英雄』になることだろう?」
困り顔のヘクトルに助け舟を出したアイシス。
彼女の言葉に、「うん」と首肯したアルト。
「それなら、何も問題はないわよ。アルトはもう、勇者パーティの誰よりも、ずっと強いのだから」
とうとう、ミリアが真実を伝えた。
他の英雄たちは、ミリアに「よくぞ言った!」と称賛の眼差しを送っている。
そして、肝心のアルトはというと……。
「はぁ……」
と、大きく溜め息を吐いた。
「辺境の山奥で爺さん婆さんに剣と魔法を教えてもらっただけの俺が? そんなわけないだろ。俺に自信を持たせようと励ましてくれるのは嬉しい。だけど、俺はもっと成長しないと……最強の英雄にはなれないんだ!」
真剣な表情で力説するアルト。
もう成長しないでも良いんだよ? ぶっちぎりで世界最強だよ?
アルト以外のこの場にいる全員が、同時に思った。
「なぁ、アルト。……その勇者パーティの英雄が、ワシらだって言ったら――信じるかの?」
「俺みたいなガキに負けるような爺さんたちが、世界を救った英雄なわけないだろ」
「……そうじゃよねー」
ジークに向かって、胡乱気な視線を向けるアルト。
彼は間違ったことは言っていない。
だけど、信じられないのもまた当然ではあった。
故に、規格外の強さを身に着けてしまった最愛の孫に、4人は苦笑を浮かるしかなかった。
そしてアルトはというと――。
(どうして、爺さんと婆さんは俺の言葉を真面目に聞いてくれないんだ)
俯いて、悲観的に嘆いていた。
……しかし、はたと気づく。
「そっか。爺さんも婆さんも。俺がいなくなったら……そりゃ寂しいよな」
その言葉に、4人は揃って顔を合わせた。
「そう、だよな。こんな辺境の山奥で四人だけ。孫の俺が出て行ったら、張り合いなくなっちゃうよな……」
唇を噛みしめるアルト。
優しい少年だ。
残される祖父母を思い、胸を痛めているのだろう。
「でも俺……。憧れをあきらめたくない! この辺境で初めて目にした英雄譚! 全てがキラキラで、眩しくて。俺もいつか絶対英雄になりたいって、そう思ったんだ! 同年代の仲間を作って、切磋琢磨して、『最強の英雄』に、俺はなりたいんだ! お願いだ、爺さん、婆さん! 俺に、魔法学院の入学試験を受ける許可をくれ!」
切実な表情で叫ぶアルトに、4人は言葉を失う。
そう、剣と魔法を教えてきた彼らだが、「同年代の仲間」を作ってやることは、出来なかったからだ。
(わしらがどれだけ剣や魔法を教えても、愛情を注いでも、友人を作ってやることは出来んよな……)
もう一度、ジークは他の三人と視線を合わせる、
全員が同じ気持ちであることを、長い付き合いである彼らは一瞬で分かった。
「分かった。それならば、もうこれ以上お前さんを引き留めはしない」
「……本当に、良いの?」
ジークの言葉を聞いたアルトは、不安気に確認した。
「ああ、もちろんじゃ。儂は、お前さんが仲間を得て、広い世界を見て、そして成長することを願っておる。……なに、心配はしておらん、儂らが教えられることは、すべて教えたからのう」
「やった……やったー!」
その言葉を聞いて、アルトは無邪気に喜んだ。
4人の英雄は……いや。
ただの孫想いの爺と婆は、優し気な目でアルトを見た。
アルトは、まだ見ぬ魔法学院への期待に、胸を躍らせていた。
「……これで、本格的に魔法が学べる。魔法学院の魔法は、どれくらいすごいんだろうか? ああ、今からとっても楽しみだ!」
……すまないね、アルト。
魔法学院で学べるような魔法なら、あんたもう全部扱えるよ……。
賢者アイシスは俯きながら気まずそうに頬を掻いた。
「それに、剣も! 魔法学院には、魔法騎士を目指す騎士科もあるって聞いた! そいつらと手合わせをして、自分の実力を試そう!」
すまんアルト。
……というか、すまんアルトの同期生となる騎士科の生徒たち。
将来有望な生徒たちが、アルトとの手合わせで自信を無くさないか、今から不安で仕方ない。
剣聖ヘクトルは冷汗だらだらだった。
「そう言えば、防御魔法も学んでみたい! どんな攻撃魔法だって守れる、最高の盾を使えるようになりたい!」
ごめんねアルト。
聖剣の一撃を普通に防ぐ魔法を使うあなたに守れないものはないと思うの……。
聖女ミリアはアルトの顔を直視することができない。
「それで、色々なことを学んで、伝説の勇者パーティの誰にも負けない最強の英雄に、俺はなるんだ!」
すまぬの、アルト。
憧れの勇者パーティが束になっても、お前さんには手も足も出んかったわい……。
勇者ジークが心中で涙を流して叫んでいる。
「魔法学院の入学試験は、実力を測る試験だって聞いたけど……楽しみだな。辺境育ちの俺が、一体どこまで通用するのか……それが分かるんだから!」
自分の両手を握って、ワクワクした表情を隠せないアルト。
かつて最強と謳われ、世界を救い、今なお一人の例外を除いて人類頂点の実力を持つ勇者パーティの『剣聖』ヘクトル、『賢者』アイシス、『聖女』ミリア、そして『勇者』ジークの四人は。
最愛の孫であるアルトの無邪気な言葉を聞いて、全く同時に思うのだった。
世界を救った英雄で実力を測る物差しにもならなかったんだよなぁ……と。
苦渋の表情を浮かべる4人に気づき、アルトはきょとん、とした顔で尋ねた。
「……あれ、どうしたの爺さん、婆さん? 俺なんかおかしなこと言っちゃった?」
☆
これは、純粋で無垢でちょっとだけ思い込みの激しい少年が、英雄に憧れ最強を目指し、やがて真の英雄へと至る物語――なのかもしれない。
やっほー、【世界一】とにかく可愛い超巨乳美少女JK郷矢愛花24歳【可愛い】です♡
最後まで読んでくれて、ありがとっ(≧◇≦)
愛花、とっても嬉しいです(*'ω'*)!
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