7.恋に落ちるは、我が不徳
あの男、ラーティク。わたくしは何故、あのような従僕に話しかけられただけで胸が締め付けられているのでしょうか。今までこんなことになった経験がありません。お嬢様、わたくしはどうすればよいのでしょう?
そして今頃は、リュドミラ様とラーティクだけが部屋で何かのお話をされている時。こんな時、わたくしの心の拠り所はお嬢様だけだというのに、どうすればいいのでしょう。
「ヴィリエ、開けていい?」
「は、はい。わたくしから開けます。お嬢様はそちらでお待ちを」
「うん、待ってるね」
ラーティクと何をお話されたのでしょうか。いえ、そんなことはどうでもよいのです。お嬢様がわたくしをお呼びになられた。それだけでわたくしの心は満たされているのですから。
「入ります」
「ヴィリエ、わたし気付いたの」
「はい、それは何でしょうか?」
「あなた、ここにいるラーティクに恋をしたの」
「な、何を?」
「恋に落ちたということなの。だから、ヴィリエの胸が苦しくなったり、彼を見るだけで動悸が激しくなったりしていると思うの。そんな経験なんてしていないでしょう? わたし、あなたには恋をして欲しい、知って欲しいな、なんて想い描いていたの。だからこれはきっと、お父様が彼を寄越したことを喜ぶべきだと感じたわ」
「リュドミラ様……そんなことありません」
「ううん、わたしはヴィリエの幸せを願っているの。あなたの綺麗な髪色は、わたしを守って、守り続けたからこその銀色なのだけれど、いつかそれはあなたの体を蝕むことになりかねないと彼は教えてくれたの。だから、ラーティクを知って、彼と一緒にわたしの傍にいて欲しいの。ヴィリエはわたしの大切な人だから」
「そ、そんな勿体無いお言葉……ですが、お嬢様。わたくしはラーティクに心を落とすことなど、認めたくありません」
「ヴィリエ……」
これを認めてしまえば、わたくしは世間に恥を晒してしまうことになるでしょう。銀色のヴィリエが恋に落ちたなどと、あってはならないことです。
「ふぅ……ヴィリエ様。俺は、あんたと恋をしたつもりなんてない。主人がそれを望んでいるから近付いたに過ぎない。ですが、あなたの症状を進行させるわけには行かないのでね。あなたが恋に落ちようがそうでなかろうが、あなたの傍を離れるわけには行かないのですよ。だから、ヴィリエ。俺に落ちろ」
「な、なんてこと……その様な下らないことをご主人様は望まれていると言うのですか。そして、お嬢様もそれをわたくしに望まれているだなんて。わたくしはどうすれば……」
「認めたくないだろうが、ヴィリエは俺に、俺の強さに惚れたんだ。従僕の俺にな。リュドミラ様の為に、俺の傍にいて、銀色の進行を鈍らせるしかないだろう。認めたくなくとも、俺がお前を守ってやるよ」
「な――!?」
不意を突かれたわたくしは、よりにもよってお嬢様の目の前でラーティクに抱き寄せられ、そのまま口を奪われてしまった。だからといって、わたくしの心まで奪われるわけにはいきません。それでも、その行為によって、認めるしかないようです。
「ふふっ、ヴィリエとラーティクとでわたしをこれからも守ってね。あなたたちの恋の行方も見守りたいの! わたしの大切なヴィリエのことをお願いね、ラーティク」
「お任せください、リュドミラ様」
「リュドミラ様がそうおっしゃるのでしたら……不徳の致すところではございますが、わたくしとラーティクとで、これからもお嬢様をお守り致します」