6.ヴィリエの動揺
ここ数日、わたくしの胸の辺りに異変が生じております。今までこういったことになったことなど無かったのです。リュドミラ様といる時とは違って、ラーティクなる男がわたくしの傍に仕えるようになってからおかしなことになっている。そう感じております。
「リュドミラ様、わたくしは何か重い病にかかってしまったのかもしれません。こんなこと、初めてなのです。お嬢様をお守りすることこそが、わたくしのお役目ですのに……もし、治ることがない病であればわたくしはお嬢様や旦那様に申し訳が立ちません」
「ヴィリエ? ど、どうしたの? 病って、どこかが痛いと言うの?」
「そ、それが、痛いわけではございません。こう、わたくしの胸の動悸がおさまりが利かない時がございます……これは、こんなことは今まで無かったのでございます……」
「動悸? それはわたしといる時に起こるの? それとも?」
「恐れながら、あの男……ラーティクがいる時に起こるのでございます。奴は何かわたくしめにしたというのでしょうか?」
なんてことなのでしょう。こんなことをお嬢様にご報告しなければならないなんて。しかし、これを良くしていかなければ、きっとお嬢様のお心を煩わせてしまいかねない。それだけはわたくし自身、許されないこと。
「ヴィリエ……あのね、それはきっと……」
「ヴィリエ様、リュドミラ様。紅茶が入りましてございまする」
音も無く、声のする方を見るとラーティクが紅茶を持ちながら、わたくしたちの前に姿を見せていた。この男、やはり油断も隙も無い。このような男を旦那様が寄越すとは、やはりわたくしではお役に立てないことの宣告なのだろうか。
「ラーティク、こちらに来て頂けないかしら? わたし、あなたにお聞きしたいことがあるの」
「何用でございましょうか、リュドミラ様」
「お、お待ちなさい! お嬢様に迂闊に近付くこと、わたくしが許可した覚えはありません」
「ヴィリエ、いいの。わたし、彼とお話してみたいの。だから、ヴィリエはお部屋で休んでていいわ」
「し、しかし……。ラーティク、リュドミラ様に何かしてみなさい。わたくしは全力をもって、あなたという人間を許しませんよ」
「肝に命じましょう」
お嬢様に言われては部屋に戻るしかありません。しかし、心配です。よりにもよって、ラーティクと話がしたいなどとおっしゃるなんて。何かお嬢様は、わたくしの症状の原因をお知りなのでしょうか。
早くこの胸の動悸を治さなければ、お嬢様と安心して外遊へ行くことが叶いませんね……