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恋落ちのシルバーアッシュ  作者: ハルカ カズラ
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4.当主様とわたくしと従僕


「ヴィリエか。我が娘、リュドミラの様子はどうなのだ? 先日の茶会と称した茶番の結末は聞いておるが、我が娘は一切、見ておらぬのだろう?」


「はい。リュドミラ様には眠って頂きまして事なきを得ております。あのような御見苦しい場をお嬢様にお見せしては、健やかなる成長の妨げとなります」


「――そうか」


「はい」


「引き続き、我が娘の傍を離れず、ヴィリエ……お前が守って行くがよい」


「有難きお言葉でございます」


 当主様はわたくしを信頼されておいでだ。わたくしもその期待に応えねばならぬ。しかし、あのような茶番は今後も続いていくはず……当主様はどのような考えをお持ちなのだろうか。


「恐れながら……、此度の茶番は今後も続いていくかと存じ上げます。当主様はどのような……」


 わたくしの言葉を遮るように、当主様は右手を上げて首を左右に軽く振られた。これはわたくしごときが口出ししてはならぬと仰っておられるのか。


「分かっている。ヴィリエ。お前の能力、術にも限りがあることは承知の上だ。引き続き、我が娘はお前が面倒を見ることは決まっている。お前の負担を少しでも軽くすることも考えていた」


「それはどのような……」


「リュドミラはお前が傍にいた方がよい。そして、ヴィリエには我が従僕を仕えさせる」


「――従僕でございますか?」


「うむ。男ではあるが、ヴィリエに仕えても問題ない働きをすると約束しよう」


「で、ですが、わたくしはその様な身分ではございませぬ」


「いや、そうではない。いずれ、ヴィリエには明かすことを誓うが……我が娘にも、そしてヴィリエ。お前の負担を少なくする為の配慮を受け入れてくれぬか」


「勿体無いお言葉にござります……」


「これ、ラーティクをここへ呼んでくれ」


「かしこまりました」


 わたくしに従僕とは……なぜそのようなことをされるのだろうか。決してお嬢様と過ごしていることに疲れや弱音など吐いてはおらぬというのに……当主様はわたくしのこの銀色に変わる何かをご存じだと申すのだろうか。


「――お呼びでしょうか」


「うむ。ラーティクよ、これよりお前はこのヴィリエに仕えるのだ。我が娘の守護者を務めるヴィリエには懸命に仕えることを誓うのだ」


「ははっ。私はラーティク。ヴィリエ様にお仕えすることを誓います」


「……」


 この男……従僕なのか? 隙が無いようにも思える。しかしご当主様直々のめいで遣わされた男。わたくしに仕えるということは常に傍に付いているということ。油断は禁物、ということでしょう。


 ただの従僕か、あるいは……いずれにせよ、わたくしはこれまで以上にお嬢様をお守りするだけ。


「では、わたくしはこれで失礼いたします」


「ではヴィリエ、我が娘を頼んだぞ。ラーティク、お前はヴィリエに尽くせ。よいな」


「勿論でございます」


 ※ ※ ※ ※ ※


「ラーティクと申しましたか? あなたは何故に従僕という立場に留まっておいでか」


「それは最初から決まっているからです。それだけのことです」


「そうではないとお見受けしておりますが……」


「いえ、私はあなた様の従僕に過ぎません。以下であって、以上にはなることはありませんよ」


 どうやらその言い方ではそうではないということを含まれていて、今は口を開かないということなのでしょう。いいでしょう。わたくしもあなたという男を見極めさせていただきます。お嬢様はわたくしがお守りするだけ……。


 

「ヴィリエ! お父様とのお話はもういいの?」


「ええ、問題ありません」


「あら? こちらの御方はどなたなの?」


「私はヴィリエ様仕えのラーティクと申します。リュドミラお嬢様、どうぞお見知りおきを……」


「まぁ! ヴィリエにお仕えするのね。素敵だわ! わたしの想いをお父様は汲んでくれたに違いないわ」


 お嬢様の想い? それは何なのでしょうか。


「リュドミラ様、私はヴィリエ様仕えではありますが、どうぞお嬢様もご自由にお使い頂きたく存じます」


「いいの?」


「当然です。その為に生きているのですから」


「嬉しいわ! ねえ、ヴィリエもそう思うでしょう? わたし、ラーティクとも仲良くしたいわ」


「え、ええ」


 この男……すぐにお嬢様の心を掴んだ。油断出来ません。従僕以上の何かを隠しているに違いありません。純粋な従僕となるのかあるいは、何か得体の知れぬことを思っているのか……。


 いずれにしても、わたくしはお嬢様を。そしてこの者はわたくしの傍にいることが使命となった。我が身はリュドミラ様だけのものでは無くなったということでしょう。


「では、ラーティク。これよりお屋敷に帰ります。外の様子に気を付けながら付いて来て下さいますか?」


「かしこまりました」


「待って、ヴィリエ。ラーティクも馬車の中に入れてあげないの?」


「お嬢様。従僕とはそのような者なのです。ですから……」


「そ、そうなのね。で、でも、せめて今日だけはヴィリエの隣に座らせてあげて欲しいの。いい?」


 くっ……お嬢様のお願いを拒むわけには。し、しかしわたくしの隣にこの男を座らせるなど……。


「わ、わかりましてございます。お嬢様、今回限りです。よろしいですか?」


「ふふっ、それでいいわ」


 何故か嬉しそうにわたくしとラーティクを見つめているのは何故なのでしょうか?


「お優しいお嬢様ですね。よろしく、ヴィリエ様」


「ラーティク。お嬢様には丁寧に接しなさい。しかし、わたくしに対してはあなたの”普通”をお見せしなさい。よろしいですね?」


「では、あなたとふたりきりの時にはそう致しますよ。ヴィリエ様」


「……では、戻りましょう」


 ご当主様にご報告を致しただけだったのに、何故わたくしに仕えの男が付いたのか。何かのめいでわたくしを見張っているのか分かりませんが、わたくしは変わらぬ忠誠と油断なくお嬢様をお守りするしかありませんね。ただの従僕であることを祈りながら、お屋敷への帰途を楽しむとしましょう――

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