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蓮実の思うところ(1)

「終わったぁ~~!」


 蓮実はすみは小学校の校舎から出ると傘をさしたまま大きな伸びをした。明け方から不安定な天気で傘が手放せない。

 なぜ夏休みの途中に登校日が設定されているのだろう。新学期とちがい宿題を提出するわけでもないので登校日そのものが必要あるとは思えなかった。

 一説には教員の給料が現金手渡しだった頃の名残だと父親から聞いたことがある。

 果たして本当なのか?と首を傾げる。

 事実なら、大人の都合に振り回されているだけだ。


(振り回されると言えば……)


 今年の夏は、伯母の鞠絵まりえにすっかり振り回されている。

 姉が絵のモデルの件も、姉が真面目に宿題に取り組んでくれたら見張りもせずに済んだのに。

 父親から言いつけられた仕事は思ったほど神経を尖らせる必要はなかった。長峰にことの経緯を話したことで宿題に費やす時間を設けてくれたのだ。

 それに伯父や従兄いとこの書棚にある本が読み放題というのも、伯母の家に滞在するメリットだった。

 蓮実の実際の仕事といえば、夕方から姉・花蓮かれんが宿題をサボらないように見張るくらいだ。日頃母親から料理を教わっていたから、伯母の夕飯の支度を手伝うこともできた。

 最も重要なのは、花蓮の絵を描く長峰ながみねが信用に足りる人物なのか確かめることだった。両親とも口に出して言わないが、一番に気にしていることくらい子供の蓮実でもわかる。


 作家志望の蓮実には、創造性の高い作業を生業にしている長峰に対して親近感を覚える一方、掴みどころのない部分も多かった。

 伯母の口ぶりでは、絵の制作に徹底している人物かと思っていたが、それほどストイックな人間ではないようだ。感情をストレートに顔に出すタイプでもない。

 目に見えない独特の魅力に興味を掻き立てられる。彼がどういった本性を隠しているのか確かめてみたい気もする。

 だが、蓮実は姉のことを考えた。


(お姉ちゃんはどう思ってるのかな?)


 姉は女子校に通っているだけあって、若い男性に警戒しているようだったが、今では長峰との会話も弾んでいる――もっとも、花蓮が一方的に自分のことを話す場面が多いようだ。

 たしかなのは、姉の生活に長峰の存在が馴染みつつあることだ。

 ふと逆の立場でも同じことが言えるのか、疑問に思った。


(長峰さんにとって、お姉ちゃんってどんな風に見えてるんだろうなぁ……)


「明日は着替えと、本かな……」


 ここで考えていても仕方がない。気分を切り替えるとしよう。

 まずは自宅に帰って愛犬・ロミオと遊んでやろう。しばらくかまってあげられなかったぶん、可愛がってあげなければ。

 今晩は自宅でぐっすり眠って、明日には伯母の家に戻ろうと蓮実はわが家へ急いだ。



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