ところ変われば
午後は伯母・鞠絵の買い出しを手伝うために、長峰の運転する車で近所でも一番大きなスーパーへ出かけた。
このとき、花蓮は長峰が運転免許を持っていたことを初めて知ったのである。たしかに大型のキャンバスをアトリエに運び込む必要もあるだから、免許を持っていてもおかしくない。しかし、伯母の邸を出なければ気づなかった彼に関する情報はとても新鮮だった。
後部座席から見る運転中の長峰は、これまでに見たことない横顔だった。
(助手席のほうがよかったかも……)
そんなことを考えた自分に慌てて花蓮は言い訳した。
彼の運転での外出なんて二度とないかもしれないからだ、たまには変わったシチュエーションを経験しておくと面白いからだ、とか。
気恥ずかしくて、とにかく自分を納得させる理由を探してしまう。
「ひとりじゃ、お買得商品の数が限定されちゃうから助かるわぁ~!」
頭数が多いぶん割引商品を購入できるとキッチンの主は大喜びだ。持参したメモ書きを確認しながら、普段ひとりでは消費できない食材や調味料を次々に買い物カゴに放り込んでいく。
この夏、食糧の調達はほとんど伯母まかせだったので、どれほどの食材が必要なのかを把握しているのは鞠絵だけだ。花蓮と長峰は、鞠絵の指示されたとおりに各商品を陳列コーナーから探し出し指定された数だけ、彼女が押す買い物カートまで運ぶ。
これだけの食糧をひとりで買い込んでいたのかと花蓮、そして長峰も圧倒され、同時に鞠絵に対して感謝した。普段はその働きをひけらかしたりもせず、食事の準備を難なくこなしているのだから二人は頭が上がらない。
指示を出す伯母は、買い物カートを押すだけでご機嫌だった。
「伯母さんはカートを押すだけ?」
「私があちこち見てまわったら、要らないものまで買い込んで無駄遣いになるの! まだわからないかもしれないけど、あなたたちに必要なものだけ持ってきてもらうほうが効率的なのよ!」
久々に三~四人前の料理を作るため、気合いが入りすぎてどの食材を使うか目移りしてしまうらしい。
予算オーバーを回避するため、車への積み込みも手を借りたい、花蓮たちにお呼びがかかったのも頷ける。
長峰は大人しく鞠絵の指示に従っていた。彼のことだから絵を描くことを最優先にしていると思っていたが、鞠絵の頼みは断れないらしい。
「なんか意外……長峰さんって鞠絵伯母さんには逆らえないの?」
「身内のお前たちとちがって、俺は他人だからな。居候させてもらってるのに、タダ食いもできないだろう。貢献できるときは協力しておかないとな」
もっともな言い分に花蓮は頷く。彼には妙に義理堅いところがあるようだ。
「でも、伯母さんって時々羽目を外すっていうか、無茶言うこともあるってウチのお母さん言ってたよ?」
「……かもな」
長峰の声音には諦めともとれるものが滲み出ている。
お互いに、鞠絵から言われて手にとってきた食材を見遣り小さな溜息をついた。
しかし、伯母との外出は食材の買い出しだけでは済まなかった。
「折角みんなのお出かけだもの、色々見てまわりましょう?」と隣町のショッピングモールまで移動し、夏のバーゲンセールにつきあう羽目になったのだ。