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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて勝者と敗者

 

「ッシャァッ!!」



 間合いは十分。余裕綽々のメアリーへと繰り出すは渾身の逆水平チョップ。単純明快な力がその身体へと――


「あまいっ!!」


 横凪に打ち出した翼はメアリーの身体を捉えるより先に、すくい上げるように払われる。勢いのまま軌道が逸らされ――



「それは、見飽きるほど見てきたよ」



 冷たさを帯びた言葉と共にがら空きとなった腹部。それを見逃すほどメアリーは間抜けではなかった。



「エアリアル――」


「っ!?」


 緑色の風を纏う足で放つ後ろ回し蹴りが弧を描いて腹に直撃し、鈍い痛みと衝撃が身体中に走る。


心中で自身の失態を恨みつつも、俺は勢いに負けじと耐え――



「ダンスッ!!」



 メアリーの目に笑みが浮かぶのを見た。続く失態と感じたが、何もかも遅い。


既に相手は追撃の態勢を整えて……否、既に打ち出していた。


 後ろ回し蹴りの勢いをそのままに回り、続いて風を纏う翼が振るわれる。勿論、風術による翼撃が見た目通りの威力ではない事は先の蹴りで十二分に知っている。



 肩口へと袈裟切りに振り下ろされる翼をどうにか対処せねば、脳が身体へと指示を飛ばす……だが、思った以上に先の一撃が効いてしまったのか、身体の反応が付いて来ない。



 二発目。鋭く打たれる翼撃に、身体は素直にこちらの意図を()むよりも痛みばかりを伝えてくる。



 ――ならば、ここは一旦距離を取って。



 離れて、その一瞬、思考が、止まった。



 メアリーと目が合う。変わらぬ喜色を浮かべた目をしていた。



 開かれたクチバシ、そこに生まれていた緑色が意味する事に、全身が冷たくなる。



 脳裏を過ぎった光景があった。



 いつか、ジョニーをカマキリから守る為に放った風術。守るべきジョニーや周囲諸共を吹き飛ばしたあの風術。



 ――あれを使えるようになっていたのか!?



「――けんな……!!」



 痛みと竦む身体と、恐怖に竦む心を奮い起こし、迎え撃つべく構える。まともな反撃ひとつも出来ずに負けられるかよ。



 そして、緑色の暴風が吹き放たれる。



 ◇ ◇




「勝者!! メアリー!!」



 はい、負けました。惨敗です。


 圧倒的なまでの風の暴力に俺は為す術もなく、広大な巣から吹っ飛ばされ、ママ鳥に救出されました。


 なんだよあれ、前よりも弱体化しているのは巣の被害を見る限り明らかだけど、完全に初見殺しだぞ。範囲攻撃とかずっこい!!



「ふふっ、強くなったわね。メアリー」


「えへへ、うん……ありがとう、おかあさん」


「メア、すごかった……!!」



 むくれる俺を余所に、メアリーはママ鳥と、いつの間にか目を覚ましたジョニーからお褒めの言葉を頂いて御満悦の様子。


 ただ、連戦からの大技を放った代償か、ジョニーの隣で一緒にぐったりと座り込んで羽根を休めている。


 そんな仲睦まじい光景を離れた所から見ていると、無性に胸が苦しくなる。喉の奥が吐き出せない熱を帯びている感じに、俺はきつく目を閉じた。



「ソラ様……その、大丈夫ですか?」


「シャ……」



 黒の視界の外、その声を聞いても俺は動かない。


 ――つまらない同情なんてしてくれるな。あっちに混ざっていればいいだろ。


 思考が声を挙げるが、喉は焼け付いてしまったように言葉として出ていく事はなかった。



 畜生……また、負けたよ。



 気持ちがずぶずぶと暗い沼に沈んでいく、どうして自分はこんなに弱いのか。どうして、どうして――



「ソラよ。目を開けるんだ」


「…………」 



 不意に聞こえるジョルト師匠の声に、俺はそれでも目を開けない。開けたくない。


「……悔しいか? 続けざまで疲弊したメアリーに良いようにあしらわれて」


「ジ、ジョルト様……そんな言い方――」


「クリム、黙っておれ。儂はソラに話をしているのだ。のぅ、ソラよ……お前は負けたのだ」



「……師匠、発破をかけるつもりなのは判ったんで、少しだけ気持ちの整理をつけさせてください」



 神経を逆撫でする物言いに、怒りを覚えないでもない。いや、正直ぶん殴れるならどれだけ良いだろう。だけど、それは八つ当たりでしかない……



「ぬ、そうか……」



 まったく、ひとが落ち込んでるってのに少しは配慮して欲しいものだ。不器用な人なのは判るが、悪役になるには無理してるのが見え見えなんだっての。



 深く息を吐き出して、吸い込む。



 ほら、こんな程度で腐るなよ。少なくとも前世でもこんな事よくあったろう。飽きるほど傷付いたし、それこそ腐るほど経験してきたじゃないか。



「あ゛ー、負けた。負けた……くそったれが」



 天を仰いで目を開けば、微かに滲む青色が映り込む。ぐしぐしと些か乱暴に顔を拭って、ぺぺんと頬を叩く。



「もう、大丈夫か……?」


「ん、大丈夫です。さて、飯にしましょうかね?」


「お、おぅ……」



 切り替え切り替え、と視線を向ければ、なにやら不可思議なものでも見るような目を向けるジョルト師匠がいた。なんです? 顔になんかついてます?



「師匠、飯が終わったらちょっと稽古に付き合ってください」


「う、うむ。それは構わんが……肩透かしを食らったというか、なんというべきか」



 よく判らない事を呟くジョルト師匠は置いておくとして、お昼にしよう。なんだか、腹が減って仕方ない。さぁ、やけ食いだ。



「ソラ様。ご飯にするならば、その……お手伝いを……」


「キシャー」



 流石にまだいたのか。とは少し思ったけど、しかし軽く存在を忘れそうになっていたクリムとキィルに足を止める。


 クリムには色々思う所があるけども、あまり邪険にも出来ないか。と、振り向き……



「あの、お聞きしたい事もあって、その……」



 (うつむ)き、怖ず怖ずと呟きに近い言葉を並べる姿は、まるで初めて会った時に近い……というかコミュ障が再発してる気がする。なんで?



「もしや、何か私に至らない所が、その……あったんでしょうか?」


「……シャー」


 萎縮するクリムの隣では、頭を起こすキィルが俺を睨んでいる……ような気がした。だからなんで?


 あの、俺……お腹空いたんですけど。

ここまでお読み頂きありがとうございます


初のソラVSメアリーでしたが、内容がないy(殴

あまり長くしてもくどくなるのであっさりにしました。レベル差もありますからね。


次回はクリム回だぜー。

お楽しみに!!ペン!!

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