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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせてふたり

 

 まったく、どうしてこうなったか。


 相変わらずどこまでも広い巣の真ん中で、俺とメアリーは向かい合う。


 パッと見た感じだけでも、ジョニーと戦った疲労感がぬけ切れていないメアリーだがやる気だけは十二分にあるらしく、鋭い目で開始の声を待っているようだ。



「先程も確認したが、過度に互いを傷付けぬよう。これは喧嘩ではない。よいな? 無意味に力ばかりを振るう醜態を晒さぬように」


「……はい」



 いつルールを説明していたのか、割と最初からしっかり聞いていなかった俺を見越したかのように確認してくれたジョルト師匠に頷き返す。すいませんね。


 つまり、俺の奥義とかは封印か。思えば先程のメアリーも風を矢ではなく礫のようにして飛ばしていたもんな。



「ソラ。正々堂々、悔いのない戦いにしよう」


「…………」



 礼儀正しく翼で握手を求めるメアリーに対して、俺は無言のままそれに応じる。


 俺は、どうすべきなのか。


魔王選抜でここを訪れているクリムが見ているなか、果たして俺はどうすべきなのか。正直、そんな物に俺が、俺達が巻き込まれるなんて冗談じゃない。


 ならばいっそのこと馬鹿でもやらかして模擬戦ごと――



「……"ソラさん"」



 悶々とするなか、不意に聞こえた声の響きに意識が反応する。俺をそんな風に呼ぶ奴なんていない……いや、ひとりだけいる。



「わざと負けたりなんかしないでくださいね?」



 小さく呟いた言葉、それを最後に彼女は振り返って距離を取った。普段は面倒な癖に、変なところでもっと面倒な奴だなんて……



 あぁ、もう。うじうじ迷ってる自分が馬鹿馬鹿しい。



 メアリーよ。負けた時の言い訳をやられるまでに考えておくんだな。




 ◇ ◇



 模擬戦第二戦目の開始を告げる言葉が響き渡ると同時、ジョルトは口元に抑えきれない笑みを漏らした。


 先の一戦では遠距離から風の弾を打ち出す事で牽制を図ってばかりいたメアリーが、ソラへと駆け出したのだ。それは、まるでジョニーのように。


 そして、それを知ってか知らずか、ソラもまた巣を駆ける。メアリーの風術に恐れはないのか、ただ最短で真っ直ぐに。



 だが、早々に接近戦を思わせる動きよりもジョルトの心を躍らせたのは、両者の目……そこに宿る気持ちの強さが垣間見えたからだ。



 ――こいつら、人の話をまったく聞かんのぅ。



 自身にしてみれば囁かであれど、皮膚から感じる空気の緊張。鍛錬というには些かに鋭い気配。間違いなくふたりからは、これが模擬戦だということは念頭にないのであろう。


 同時に、先程のような尻拭い程度ならば幾らでもしてやると心中で檄を飛ばす。願わくば、多くを学べと――



 少なくとも、ソラは知らないであろう事が起きる。



 愛弟子の欠点に、ジョルトは少しばかり痛い目を見るべきと笑みを浮かべる口元を更に歪めた。



 ◇ ◇



 撃ってこないのか?


 開始と同時に駆け出すという展開に一瞬だけ面食らいながらも、それはそれで好都合だと俺もまた距離を詰めるべく駆け出す。


 ジョニーほど勢いはないが、滑らかな足運びで巣を走るメアリーがいったい何をするのか。ジョニーとの戦いでは見せなかったが、あの足は気を付けるべきだ。頭がそう警告を送るなか、互いの距離はどんどん狭まり――



 接近戦というには、まだ少し足りない距離。先手を打ったのはメアリーだった。両翼を翻し、交差させた直後、その軌跡をなぞるように緑色に染まる風の刃が俺へと襲いかかる。



 ――風術っ!! 嫌なタイミングで……!!


 接近戦で来ると思わせておいて、これだ。しかも、その後ろでぴったり追随しているあたり、一発で終わらせるつもりはないらしい。


 跳んで避ける事は出来る。だが、ここは敢えて――



「だらっしゃぁぁっ!!」



 両翼を交差させて顔を覆いながら、俺は迷わず前へと跳んだ。


[アクションによるアンロック、【逆水平チョップスキルツリー】派生、【フライングクロスチョップ】を取得しました]


 果たしてこれは逆水平チョップの仲間に入るのか。久し振りに聞いた脳内アナウンスに疑問はあるが、翼からの刺すような痛みでそれはふっとんだ。疑問はふっとんだけど、身体は風の刃の向こう側へと――




 そこにいる筈のメアリーの姿がない事に、思考が一拍の空白を生じさせた。



「†エアリアル=クロー†」



 声は頭上から、直後に背中へと鋭い痛みが走り、俺は巣へと叩き付けられた。



「やはり予想外だよ。キミという奴は」


「ぐっ……」



 踏みつけたまま足の爪で掴んでいるのか、痛みに耐えながらメアリーにこんな力があったのかと驚く反面、メアリーにこんな屈辱的な仕打ちを受けている事に腹が立つ。


 どうにか抜け出せないかと、じたばたと足掻くが背中が痛むばかりでなかなか上手くいかない。と、不意に背中の圧力が弱まり、ここぞとばかりに立ち上がって体勢を立て直す。



「なんの真似だ……?」



 ホールドしたままクチバシで攻撃するなり出来た筈なのに、意図的に逃がされるとは余裕か? 随分と舐められたものだ。



「あぁ、勘違いして欲しくはないんだが――」



 睨み付けた先、メアリーもまた俺を睨んでいた。



「本気で来て貰わないとね、ソラ。あんな程度じゃないだろう?」



 そんなテンプレな煽りで俺がキレるとでも思ってるのか。





 絶対に滅茶苦茶に泣かしてやろう。




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