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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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年明けペン生2017 パタつかせて酉年

あ、明けましておめでとうございます((震え))


遅れましたが今回は特別編……いや、特別ペンとなります。



 ある日、俺のもとにジョニーがトコトコやってきた。うんうん唸り首を傾げながら近づき始めた時点で俺としては、また始まったか……心中で嘆息する。



『ソラ。おしょうがつ、ってなに?』


『はいはい、おしょうがつ、ね……』



 まったく、俺は辞書じゃないんだが。ただのペンギン、でもねぇな。まぁ、精神年長者としての務めを果た……うん?



『おしょう、がつ……?』


『うん。メアがね? なんか……あけたら、なんかすごいって!! おめでとー、って!!』



 あけたら凄い? あぁ、もしかして新年の? というか、またあいつの差し金か。


 きらきらとした目を向けるジョニーから一度視線を外し、事の発端である阿呆鳥(メアリー)を見れば案の定、質問責めに耐えきれずぐったりと倒れ伏していた。止せばいいのに学習能力のない奴め。



『ソラは、おしょうがつしってる?』



 ここで力任せにアイドンノゥと豪語してしまうのも一つの手だろう。



 が、しかしだ。だが、しかしだ。



 それを言ってしまえば、この異世界でお正月を彼に伝承出来るものはいない。つまりジョニーを悲しませてしまうかも知れない。それは俺としても避けたい事態だ。



『ふっ、ジョニー。俺を誰だと思っている?』


『うん? ソラはソラだよね、違うの?』


『……いや、そうなんだけど、そうなんだけどね?』



 流石にこういった(くだり)は、まだジョニーには早かったか。メアリーあたりは打てば響くから楽なんだけど……それはともかくとして、俺は気を取り直すように咳払いをひとつ――




『俺は、お正月の……達人だ』


『っ!?』



 こうして俺はジョニーの為に、お正月というものを教える羽目になった。



 ◇ ◇



 お正月と言えば何か。



『そういうわけで、先ずは食べ物だな。お正月には、みんなで餅という物を食べるんだ』


『もち!! もちってなに? おいしいの?』


『まぁ、話は最後まで聞け。餅は旨いが、ここには……ない』


『うまいの、ないのっ!?』 


 がーん!!と古典的な衝撃を受けるジョニーに、まぁ待てと翼で制する。まったく、まだまだ慌てる時間でもなかろうに……



『食べる事が目的ではなく、むしろ供え……えっと……そう、お願いをするんだ!!』


 おい、メアリー。そんな目で俺を見るな。元はといえばお前がだな……


『おねがいするの……?』


『あぁ、その為には先ずは……おーい、キィル!! ちょっと来てくれ!!』



 少し遠くで残念天使ことクリムと糸巻きしているキィルを呼び寄せる。クリムも両腕に絹糸を巻いたまま寄ってくるが……まぁ、いいか。



「シャー?」


『悪いんだけど、ちょっとそこで丸まって寝ててくれないか?』


「ソラ様。私は何をしたらよいです――」


『クリムは……続けてていいよ』


「……はい」


 しょぼん顔で糸を巻き巻きするクリムに心中で詫び、俺はキィルの様子を見た。


 白く、艶というか張りのある芋虫キィルは俺の言うことを理解して素直に丸まってくれている。



『うん、やっぱり……"ぽい"な』


『……あぁ、なるほど』


 いつの間にか隣に立つメアリーが、俺の狙いに気付いたように頷く。



『そして、俺が……っと、すまんなキィル』


「キシャッ!?」



 ぶよぶよとしたキィルの身体によじ登り、同じように丸くなる。


 白い楕円状になるキィルの上で同じく丸くなる白い羽毛の俺。多少バランスは悪いがご愛嬌だろう。



『ジョニーよ。これが餅のなかでも願いを叶える凄い餅……鏡餅だ!! さぁ、願え!!』


『かがみもち!? おねがいしていいの!?』



 上段餅に徹する俺からは見られないが、ジョニーの喜びに満ちた叫びが聞こえる。最初はなぜかご立腹らしかった下段餅のキィルも納得したのか大人しくしてくれた。うむ、ミッションコンプリートだ。



『あれ……? 鏡餅なら、上にみかんを乗せないのか?』


『みかん?』


「メアリー様。みかんというのは……」



 何やら余計な外野(メアリー)がクレームを入れているようだが、生憎フェニスさんちの鏡餅はこれがデフォルトなんだよ。


『それじゃ、おねがいできないの?』


『あ、いや……そういうわけでは――』



 ほらみろ、がっかりメアリーが。


「そ、それなら、なにか代わりになる物を用意してはいかがでしょう?」


『う、うむ。名案だぞクリム!! えっと……』


『メア!! みかんってなに!? どんなの!?』


 しかしながらキィルは良い弾力をしていらっしゃる。低反発ベッドのような心地よさと程良い温もり。このまま寝てしまうというのもありか。



『形は丸くて……そうだな、色は丁度ジョニーに似てて……』


『おれさまみかん!?』


「あっ!! ジョニー様!?」



 うつらうつらと睡魔に誘われる俺を余所になにやら話声が――



 ぎゅむ!!



 直後、俺の身体は上空から落ちてきた何者かによってキィルの身体へと埋没した。



 ◇ ◇



『……ねぇ、ソラ。おこってる?』


『……えぇ、とっても』



 キィルの弾力によって救われた面もあるが、それにしても俺の機嫌は悪かった。非常に、真に以て遺憾であった。



『その、ソラ? やはり私が悪かったのだろうか』


『それ以外の選択肢があったら是非とも御教授くださいな、残念ひよこさんよぉ?』


「あ、あのソラ様。メアリー様も悪気があったわけじゃ――」


『これでも優しい方なんだがな。下手すれば圧死で新年早々転生してるところだったというのに。ネチネチ責め立てるくらいで済むなら――』



『おねがい、かなわなかった……』



『……ジョニー?』


 なぜかしょんぼりしたままのジョニーから聞こえた呟きに、全員の視線が集まる。



『みんな、なかよく。たのしくって……』



 続けて紡がれた言葉に、誰も、何も言えなくなった。



 ……まったく、ズルいよな。そういうの。



『おい、残念ひよこ』


『謝罪を受け入れてくれるなら、何でもしよう……その、本当にごめんなさい……』



 やれやれ、本当に……ズルいよな。



『おいジョニー、お前はお正月ってのを知ってるか?』


 これじゃ、まるで道化だわな。



『え? えっと……かがみもち?』


『鏡餅だけじゃねぇよ。お正月にはまだまだ楽しい事があるんだ』



 ジョニーの円らな瞳はまだまだ俺の言葉を理解しきってはいないようだった。それとも、最後まで言わせるつもりなのか。



『だから――』


「そ、それでは次はそれをみんなでやりましょう!! ソラ様!! 教えてくださ痛いっ!?」



 本当にどいつもこいつも……!!



『そういう事だ。ジョニー』


『うん!! やりたい!! おしえてソラ!!』



 凧揚げはオチが見えてるから、羽根突きあたりか……なんて考えるあたり、俺もそれなりにお人好しか。


『任せろ。なんたって俺は正月の達人だからな!!』


 さぁ、始めようかね。俺達のお正月はまだまだ始まったばかりなのだから。

なんときれいなおわりかただろう(棒読み)

次回から本編の続きとなります。


さらに本編の1話と2話を軽く改稿しました。大筋は変わりませんので、お暇があれば是非どうぞ。少し流れをマイルドにしたかったですが上手くいったか……



それでは皆様、今年もよろしくお願いいたします!!ペンペン!!

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