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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて馬鹿だから

 


 それは最初、不可解な現象に見えた。



 メアリーがジョニーの身体とぶつかる。


まさにその瞬間、彼女の身体が"真横"へと跳ね飛ばされたのだ。その直後にメアリーがいた場所をジョニーがすり抜けていく。


 いったい何が起きたのか。


 俺の思考は遅れて、ひとつの予想を立てる、というより前世の漫画で見た事がある。メアリーだって知っている可能性は大いにある。



 あれは、そう――



「まさか、咄嗟(とっさ)に風術を自らにぶつけて……!?」



 ……クリムが驚きながらもそれを口にした。べ、別に俺の方が早く気付いたんだからねっ!!



 メアリーは風の力を利用して無理矢理空中での回避に成功したのだ。


だが、流石になりふり構っていられなかったのか着地というより墜落の形で巣の上を転がり、痛みにのた打っている。


結構なダメージを負ってしまったらしい。まぁ、ジョニーの攻撃を受けるよりマシだったのかもだが。


 対するジョニーも、まさか避けられるとは思わなかったらしい。勢い良く飛び上がった身体は着地を考えてなかったのか、ごろごろと転がってピヨーッ!!と叫び声をあげていた。



 うん。酷いなコレは……



 審判役のジョルト師匠の身体から、明らかに怒気のような何かが立ち登ってる。俺知ーらない。


 両者ともに自らが招いた痛みに悶絶し、最初に立ち直したのは、メアリーだった。


 ジョニーから離れた距離のままで翼を振るい、薄い緑色の矢が次々に撃ち出される。風術の矢だな、あれは。翼を振っても出せるようになってたか。


 何発かジョニーを外して巣に当たったところを見るに、その威力は弱められた物だと感じられる。風術の矢というより風術の(つぶて)に近い。


 勿論、そんなものが決定打になるはずもないが、それでもそれなりに痛いらしくピヨピヨと泣き声を上げながらジョニーは体勢を立て直す。


 さぁ、どうするジョニー。俺ならメアリーのMP(バッテリー)切れを待ちながらやり過ごすが――



 これが答えとジョニーの選んだ選択は、再びの突進攻撃。


メアリーの撃ち出す風礫を頭とクチバシで蹴散らしながら進む姿は暴走特急さながらだ。もう少し別の意味で頭を使ってみてはいかがでしょうかね。


 目標の意図を察したメアリーの風術も次第に大きく、強大になっていく。そんな一撃を受けて勢いが削がれ、止まり、吹き飛ばされる。


それでも、ジョニーは立ち上がり、また無策に前へと突き進む。口の中を切ったのか、クチバシの縁から赤い血を滲ませても、どれだけ転がされても、突き進む。距離を置こうとするメアリーには一向に近づけない。



「ジョニー様、どうして……?」



 ぽつりと呟いたクリムに俺は視線を向ける事なく……いや、この光景から目を背けてはいけない。そんな気がする。


 端から見れば無駄な事をしているように見えるだろう。だが、これだけは言える。



「……ジョニーは"男の子"だからな」



「え?」 


「男だからとか、女だからとかっていう差別的な意味合いじゃなくて……ただ、負けたくないんじゃないかな」



 模擬戦だから、実戦じゃないから、もしかしたら勝ちも負けもきっと頭にないのだろう。


 遠くても、例え少しでも、ここから見えるジョニーの顔は、その歩みは決して苦しそうに見えない。悲鳴も泣き言も口にせず、闘志を目に宿し、ただひたすらに前を向く。



「この勝負、ジョニーが勝つ」



 予想ではない確信を持って、俺は彼の姿を見つめる。


 いつか見たママ鳥とジョルト師匠の戦いよりも泥臭い戦いだが、俺は……俺の身体の奥には同じような熱が灯されていた。



 見せてやれ、ジョニー。


 お前の男らしさってヤツを。



「いけぇぇっ!! ジョニィィィィッ!!」



 自分でも驚くような雄叫びにも近い声援は、果たして届いたのか。直後に戦況に変化は起きた。



「――――ッ!!」



 言葉にならない咆哮が周囲に響き渡る。


 俺は……いや、きっとこの場にいた誰もが判らなかっただろう。その声の主がジョニーであると。


 優しくて、穏やかな性格で愛らしいジョニーが挙げるには、あまりにも荒々しく、雄々しい咆哮だった。


 思わずして全身がざわりと粟立つ、それが指し示す意味は――



 突然の出来事に驚く一同を、ジョニーは待つはずもなく、むしろ置き去りにするように……ずどん、と鈍い音ともに巣が震えた。


 巣を踏みしめただけで、その有り様だ。対峙するメアリーも完全に気圧されて微動だにできていない。


何が起きているかは判らないが、この先だけは判る。



 メアリーが大変な事になる。



「それまでぃっ!! ジョニー、止まれ!!」



 ジョルト師匠もそれを察したのか制止の声を挙げるが、ジョニーに反応はない。それどころか――



 これまでの突進で後方へと蹴り散らした物とは比較にならない量の枝が飛び散った。飛び散ったなんて生易しいものじゃない、爆散といっても過言ではない。



 赤身を帯びた黄色の塊が一筋の軌跡を描き、メアリーとの間に立つジョルト師匠へと伸びたように見えた。そう捉えるのがやっとだった。



 ジョルト師匠とジョニーらしき軌跡が衝突した直後、その軌道が直角に曲がる。つられて空を見上げれば、いつの間にかそこにスタンバイしていたママ鳥がキャッチ。あれ、本当にいつの間に飛んでたの? でもナイスだ。



 試合は終了、だろうか。巣に降り立つママ鳥を迎えに一度全員が集合する。ちらりとメアリーを見れば疲労困憊……いや、怯えるように震えているのが判った。



「本当、目が離せない子達よね」


「まったく、末恐ろしいものよ」



 着地と共に開口一番に楽しげな声を挙げるママ鳥に、着流しの袖がボロボロになったジョルト師匠も同意する。そして、ママ鳥は翼に挟めたジョニーを巣へと降ろす……が、ジョニーは気絶しているようだった。


 もしかすると、俺のように何らかのスキルかアビリティの負荷での気絶か。あの動きをしたのならばさもありなん。



「勝敗は……儂から告げるか?」


「いえ、私の負け……です」


「結構、この一戦だけでお前達ふたりには一層みっちり言って聞かせ、しごかねばならんと思わされたぞ? 楽しみにしておれ」

 


 意気消沈しながらも折り合いがついているのか、メアリーは真っ直ぐにジョルト師匠を見て、頭を下げた。


 可哀想に、ふたりとも地獄を見るのか。


「模擬戦だと言っておるのに本気になり過ぎおって、まったく……」


「師匠。言葉と顔がまったく一致してませんが」


 滅茶苦茶いい笑顔してますよこの人。怖いわ。



「メアリー様もジョニー様も凄かったです。私、感動しました!!」


「キシャッ!!」


「そうであろう。真の武とは人の……いや、全ての者の心を打つものじゃ。どうじゃ? ふたりとも、共に武を学んで――」


「師匠。あまり浮気性ですと、こちらにも考えがあります」



 気分上昇中のジョルト師匠の顔が、その言葉に凍り付いた。まったく、本当に弟子に飢え過ぎだっての。褒めた挙げ句にこれとか、俺達じゃ不満かよ。


 心中に溜め込んだ想いを視線にネットリと乗せて送れば、しっかり受け止めたらしい。わざとらしさ全開の咳払いをひとつ――



「では、次じゃ。気を失っておるジョニーは流石に酷であろう。そういうわけでメアリー、まだやれるな?」



 ……うん?



「……大丈夫です」



 一瞬だけ苦虫を噛み潰したメアリーだが、直ぐに鋭い視線で俺を見る。



 ……うん?



「よろしい。では、次はソラとじゃ」



 あぁ、俺か。


 俺とメアリーがやるのか。



 ……マジでやるのか。


 

ここまでお読みいただきありがとうございます!!


ブクマ50件到達!!

皆様に感謝!!お陰で良い年になりました!!



明日は更新出来るか不明なので、これが今年最後になるかもしれません。お年玉ください!!



来年もどうぞペン生をよろしくお願いいたします。ぺぺんぺぺん!!

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