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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて捏造

 


「さて、何から話そうか……」



 いつもより遅くなった夕食のミルキーワームを食べながら、俺は隣で寝そべる芋虫の頭をぽむぽむと叩く。程良い弾力を翼に感じながら、大人しくしている芋虫について、ゆっくりとクチバシを開く。



「話すも何も本当に言葉が理解出来るのか?」


「正直、信じがたいわね」


「ですが、リフレクションシルキーワームは未だに生態が解明されていない魔物です。惜しむらくは魔虫類は言語が難解で交友言語を持ち合わせてないことだったんですが……」


「いもむし、つよかった……!!」


「…………」



 そんな俺へと向けられる視線と言葉、半分は端っから信じていない者と、好奇心に目を輝かせる者に二分された。例外としてジョルト師匠は酒を呑みながら沈黙を保っている。


 ある意味では一番気をつけないといけないのが師匠だ。状況次第では明日の稽古……いや、直ぐにでも地獄を見る羽目になりかねない。


 しかし、半信半疑のメアリーはともかく、ママ鳥が信じていないのは俺としては悲しい限りだ。まぁ、実際これから話す事は全て捏造な訳なのだがな。そこは申し訳ないと思うが……



「ソラ。はやくおしえて!!」


「そう急かすなよ。こいつも旅の疲れが残ってるんだ」


「キィ」


 少し前まで元気にカマキリしていた何かの残骸を口から飛ばしながら声を挙げるジョニーに芋虫は一切怯むことなく、しっかり俺の言葉を聞いているように頷く。



 やはり、どうにもこの芋虫には知性があるようだ。ヒアリングの分野では、俺より優れているのではなかろうか。ジョルト師匠もクリムも俺達の言語を話してくれているようだし。



「で? その芋虫の名前はなんだ?生憎キミと違って私は畜生の声を聞いてやれないんだ。諸々の事情も手軽に訊けるだろう? キミならね」


「キィ……!!」


「随分と悪辣な言葉回しだな、この弱小ひよこが……と、コイツは言っている」


「キシャ!?」


 驚いて俺を見る芋虫、言ってなかったか。でもニュアンスは近いだろ? そっか、近くもないかー。



「ほぅ。この私が、弱小……?」


「うむ。赤子の手を捻るより容易く策にかかる様は滑稽と呼ぶより他ない、故に弱小だ……と、コイツは言っている」


「キィ!? キィ!!」


「ぐぬぬ……」



 え、違う? ハハッ、そうだったかー。


 図星を突かれて、あからさまに怒りの炎を燃やすメアリーで遊びながら、頭のなかで着実に設定が出来上がっていく。いや、この芋虫のこれまでの経歴だ。


「さて、いつまでもこんな些末なやり取りをしていても仕方ない。いい加減に話に入ってもいいか?」


「些末、だと……それもコイツが言ってるのか?」


「いや、俺」


「キミという奴は……!!」



 いきり立つメアリーを余所に、俺は再びゆっくりとクチバシを開く。


「コイツの名前だが、今はキィルと名乗っているらしい――」



 さて、果たして俺の話はみんなに通じるだろうか。


「今は……?」


 言葉回しに引っかかりを覚えたママ鳥の問いかけに、心中では微かな罪悪感と共に上手く訊いてくれたと小さな手応えを覚えた。



「あぁ、少し以前の記憶が所々ないようなんだが――」



 ペテンペンギンの称号は伊達じゃないってのを、こんな形で見せる羽目になるとはね。



 ◇ ◇



 気が付けば、俺は森のなかにいた。


 ずんぐりと重たい身体は擦り傷が目立ち、緑色をした草の液と血液らしい体液に汚れている。いったい、どこをどうしたらこんな様になるのやら。


 身体よりも感じる、頭への鋭い痛み。


しかし、それ以上の衝撃が俺のなかに走った。痛みよりも痛ましく、たった一匹で見知らぬ森へ置き去りにされるよりも途方にくれるしかない衝撃――




 俺は、誰だ。




 自分が解らないという空虚感は、どれだけ恐ろしい事なのか、俺は知っていただろうか。


 見渡す限り見果てぬ森のなか、心を削る孤独と恐怖を押し込めて、俺はそれでも思考を続ける。でなければ、何かが壊れてしまうと理解していたからだ。



 真っ白に染まった記憶を手探りで考える。誰で、どこで、なぜ、いつから……しかし、探れども探れども答えに手が届く事はなかった。いつしか沈んだ夕日が時の経過だけを教えてくるだけ、静かに、ただ静かに俺は思考を続けるばかりだった。


 記憶は無くなれども空腹と睡魔は襲ってくる。俺は本能のままに木に登り、枝葉を食らう。そして、眠る。食料と寝床に困る事はないのが救いだった。



 思考に疲れて眠る度に夢を見た。それが自分の失われた記憶なのか、只の妄想なのかは判断出来ないにしても。


 しかし、過去にしても妄想にしても、夢はのなかは地獄だった。



 焼け落ちる木々と自分と同じ形をした黒ずんだナニカ達。


音のない夢はいつも同じだった。いつも俺は、ただひたすらに逃げていた。ズシンと一定の感覚で震える地面から剥がされることのないように、同時に震える地面から一刻も早く遠ざかるように。



 そうでなければ、あの巨大な翼の影は俺を捉え――




 夢が覚める。覚めれば待つのは、空白の思考。いつしか眠る事からも思考からも逃げるように、俺は何かに没頭するようになった。


 ひたすら葉を食らい、一本の木を丸裸にした時は木への申し訳なさから、もう二度と暴食はしないようにと自戒した。


 絹糸を吐けることを知ればひたすら吐き出し何かを捉えた時は、不思議な達成感を覚えたが、獲物を食うつもりはなかったので、ただ逃がして捕まえるを繰り返した。


 丸めた身体で転がる事を覚えれば、ひたすら転がったり……



 抗えない睡魔が意識を奪うまで、俺はただ何かをしていた。気が付けば身体は大きくなり、強くなった……しかし、それでも夢は俺に地獄を見せ続けた。



 そして、気がつく。


いや、気がついていた。



 俺はあの地獄より強くならなければならない、あの地獄を超えられるほど強くならないと……



 ◇ ◇



「そんな強さを求め始めたばかりのコイツだが、流石にマザーの相手は荷が重かったらしい。こうして現在に至るわけだ」



 合間合間で質問を受け付けながらも、俺はようやく長々とした法螺話、もといコイツ……キィルの過去を話し終えた。



「キィ!! キィ!!」


 話の途中で一番反応したのが本人……本虫なのだが、要所要所で補微修正の為に話しかけてくるという体で通した。その甲斐もあってか、みんなの反応はといえば――


「キィル、お前も苦労したのだな。私が勝てなかったのもある意味では当然だったかもしれない」


「キィル、つよくなる。おれさまもがんばる……!!」



 ひよこの年少コンビはどうにかクリア。神妙な面持ちで芋虫を慰めるメアリーと、ふんすと鼻息荒くするジョニーに心中で安堵する。


というよりメアリー、記憶喪失と故郷の危機とか前世の創作物では使い古されている内容のひとつなんですが。専攻するジャンルが違ったのかな?



「巨大な翼を持つ影、まさか……」


「私じゃないわよ。炎は専門外ね」


「そ、そうですよね。フェニス様ではないとは解っていますが、それではやはり――」


 ジョニー並みに釣れるだろう素直なクリムはさて置き、ママ鳥も一応信じたのかな? ママ鳥なら後でネタばらしして口裏を合わせてもらえるかも知れない。



「…………」


うわー。めっちゃこっち見てるよ。


 ジョルト師匠は、終始俺の顔を見て黙っていた。やっぱり、バレてるかな。嘘吐きは地獄行きですか。明らかに纏っている雰囲気が怒っているようにしか見えないんだけど。



「キィ」



 そんな俺達の間に、キィルは割って入った。まるで、俺を守るように。その光景に俺を含めて、全員が沈黙する。



「シャー」



 不意に頭を落とし、さらさらと絹糸を吐き出すキィルの動向が意図するものは……小さなイボのような足で絹糸を器用に纏めて始める姿に、やはり誰も見ているしかできない。


 次第に絹糸は、微かな星明かりさえ艶やかさに返す絹玉となる。それは息を止めるほどに美しく、誰かの感嘆の吐息が聞こえた。



「シャッ」



 白銀色にも琥珀色にも見える絹糸玉を、キィルは器用にジョルト師匠へと差し出す。


「……儂にくれるのか?」


「シャッ」


「…………」



 キィルも、この中ではママ鳥以上にジョルト師匠が自身の行く末を決める存在だと感じていたらしい。カーストを理解し、行動する能力は法螺話よりも説得力があるのかもしれない。



「……友好を示されては、儂がどうこうする問題でもなかろう。のぅ、フェニスよ」


「まったく、家長は私なのに……しっかり世話するのよ?」



 やれやれと疲れたように息を吐くママ鳥に、ひよこコンビとクリムが手放しの歓声を挙げた。まったく、変わり身の早い奴らめ。


「キィ」


「まぁ、そういう事だ。これからよろしくな、キィル」


 ぽむぽむと心地良い弾力の芋虫に、俺はひとまず難を逃れたと人知れず安堵の息を盛らすのだった。




 ◇ ◇



 見たことのない鳥が、身体を叩く。


 優しく、温かい感触。どこか懐かしい。


 里を、故郷を思い出す。


 木漏れ日に花の香りが漂うあの場所を。



忘れるものか。忘れない。



皮を焼く熱を、仲間が爛れて焼けたあの場所を。



忘れるものか。赦すものか。




 しかし恐怖と憤怒は一瞬、優しく叩く感触で取り払われる。


 ここは、良い所だ。そう、本能が告げる。


 ここの方々は、皆優しく、強い。



 ここなら、私は強く育つ事が出来る。




 "魔龍"を。



 故郷を滅ぼしたアイツを倒す程、強くなれる。ならなければならない。



「さて、お前も何か食えよ。しかし芋虫って何食うんだろ? 葉っぱなの?」


「キィ」


「そっか、とにかく逞しく育てよー」



 見知らぬ鳥さん。ありがとう。


 話が通じない私に居場所をくれて。



 でもね?



 私、メスなんだけど。




2023/3/9加筆修正


 名前:キィル(仮名)

 種族:リフレクション シルキー ワーム

 レベル:19

心 B

技 E

体 B

魔 F


 アビリティ

 【もちもちボディⅡ】

 【自然治癒】

 【カリスマ】

 【ヒアリング】

【シンパシー】


 スキル

 【糸術<T>】

 【受け身】

 【転がる】 

 

 

 ◇ ◇


ここまでお読み戴きありがとうございます。

歯医者通い始めました。財布から穴の開いたバケツのように金が流れていく。解せぬ。

思わぬユニットが参入しましたが、今後ともこのニューヒロイン(?)よろしくお願いします。ちなみにキィルの称号は後程明らかになります。


二手三手先を読みながら構想を立てるけど一手目で転ける状態です。


重ね重ね今後ともペン生をよろしくお願いします。



私事ですが、明日お見合いします。

誰か勇気をください。

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