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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
85/139

パタつかせてまた無理ゲー

お待たせしました

 

 絹糸に絡め捕られたメアリーは最早、蜘蛛の巣に引っ掛かった羽虫同然だった。


 後は、あのデカい図体でぺしゃんこにでもしてしまえば押し花ならぬ押し鳥が、この巣を彩る事になるというのは想像に難くない。


「このっ、こんな芋虫に私がっ」


 まんまと敵の策に嵌まったメアリーもそれを理解して、星明かりに煌めく絹糸を解こうとするがなかなかどうして上手くいかない御様子。


 さて、そんな危機を俺がこうして呑気に見ているのには二つの理由がある。



「キッシャー」



 せっかくのチャンスであるにも関わらず、芋虫は高らかに勝ち(どき)を挙げるばかりでトドメを刺そうしない事と――



「メアはジョニーがまもるんだからっ!!」



 そんな芋虫の様子に違和感を覚えている内に、我が家の立派なお兄さんが芋虫へと突貫を試みた為だ。一人称にリセットがかかっている所を見ると、なりふり構っていられないのだろう。


 メアリーの十八番が風を使う刺突であるならば、ジョニーの十八番は言わずもがなの脚力を活かした突進だ。


 ジョルト師匠との組手により磨きがかかった突進だ。足下の枝が爆散したかのような勢いの蹴り出しで加速する黄色の体躯は、文字通りの砲弾となって芋虫へと襲い掛かる。



「す、凄いです!! あれなら――」


「まだ、甘いの……」



 クリムの歓声を遮るように響く鈍い着弾音に混ざって、ジョルト師匠の呟きが聞こえた。


 逸らせない視線の先、芋虫の身体にめり込んで見えなくなる程の一撃を見舞ったジョニーが、その呟きと同じ答えを出そうとしている。


 ジョニーよりも遥かに大きな身体を持つ芋虫だが、ジョニーから本気の一撃を受けても尚、微動だにしないのだ。



「フェニス!!」


「解ってるわよ」



 次に起こり得る事態に声を挙げるジョルト師匠より早く、ママ鳥が動く。大きく広げた蒼と碧の両翼は、星明かりを受けて幻想的とも言える光景となり――



「う、わぁぁぁぁっ!?」



 同時に、芋虫の身体から飛び出した黄色の砲弾をキャッチした。おかえりジョニー、ナイスキャッチママ鳥。



「っ……頑張ったわね、ジョニー」


「きゅー……」



 身体を張って受け止めた痛みに顔をしかめながらも、どうやら目を回したらしいジョニーへとママ鳥はどこか誇らしそうな声をかけていた。


 確かに結果はさて置き、メアリーを助ける為に飛び出したジョニーを侮蔑する理由なんてない。それが例え、無策だったとしてもだ。


 二勝目を飾ったことで再びキシャーと鳴き声を挙げる芋虫と、未だに絹糸から抜け出せないメアリーの姿に、俺は一区切り打つように力強く頷く。



 ……さて、と。



「そんな訳でマザー、ふたりの仇打ちにサクッとやっつけてよ」



 今回のバトルはこれにて終了、後は晩飯パートに移るとしようじゃないか。


 しかし、ママ鳥は俺をジッと見るばかりで動かない。おや、どうしたのかな?



「え、あの……ソラ様は戦わないのですか?」


「おやおや、これはクリム殿。わたくしめはかわいらしいペンギンでございますぞ? ははっ、いったい何を言い出すやら」



 まったく、本当にこの子は何を言い出すかと思えば――



「ソラよ、行かぬのか?」


「……ほ、ほら、俺ってあんなに大きな芋虫は食べ切れませんし」


 ミルキーワームなら幾らでもイケるんですけどね。大きいと大味になって美味しくなさそうだもの。



「…………ソラ」


「……頑張ってきます」



 噴火寸前の火山みたいな威圧感を出してくるジョルト師匠を背に、俺は芋虫へと歩き出すしかなかった。


 これ、パワハラじゃないですかね。


 はぁ……まだ、ミルキーワームとカマキリベビーしか倒した事ないのを知ってるだろうに……



「ソラ、これを解くのを手伝って――」


「大人しく待ってろよ。負けぴよ」


「負けぴよ!? ちょっと待て、私は少し油断しただけで――」



 ぺったぺったと、道端のメアリーを通り過がり様にディスる事で少しだけ鬱憤を晴らす。本当、仲良くしたい気持ちはあるのに間の悪いひよこだ。



 そして、ママ鳥程ではないにせよ。近付けば見上げるくらい大きな芋虫と、俺は対峙する。星の瞬く夜空を背に起き上がる芋虫は、芋虫の癖になんだか壮大にも感じる。



「キッシャー?」


「……お前、もしかして本当に温厚なのか?」



 しかし、これほど近付いても、芋虫からは攻撃の意志が感じられない。勝者の余裕か、クリムからの情報通りなのか。


まさか威嚇と思っていた鳴き声だが、もしかして友好的な意味合いの行動なのか。


大きなゼリーのような複眼もどこか知性を携えてるようにも見えてくる。同時に恐らくだが、この大きな目も弱点にはならないだろう。



「キィシャー……」


「成る程。お前もこんな場所まで連れ去られて来て大変だな」

 

「キィー? キシャー」


「あぁ、俺達はちょっとすれ違っていただけなんだな……」


「ソラ、まさかそやつの言葉が解るのか!?」


「まさか、ソラ。遊んでないで早く倒しなさい」



 離れた場所からのジョルト師匠の驚く声に、まさか完全にノリだけで合わせただけと答えることが出来ようか。ママ鳥、正解です。でも素直にそれを伝えても悪ふざけが過ぎるとガチ説教されてしまうかもしれないし……迂闊だったな。



「……キシャー」



 ジョルト師匠の声に釣られ、背中を見せた俺に、芋虫はどこか切なげに鳴く。どう見ても隙だらけの背中を見せても攻撃してこない。そんな奴をこれからいただきますだなんて、正直精神的にキツイ。


 ……仕方ない。どうせ戦っても打撃専門の俺に勝機は薄いだろう。ならば毒を食らわば皿まで精神でいくしかない。



 リオーネとまではいかないけど芋虫一匹なら、飼ってみても面白いかもしれないしな。



「おい、お前。ちょっと大人しくしてろよ?」


「キィ?」


「……助けてやるってんだ。お前と、俺をな」



 本当、なんでこんな事になったんだか。

2023/3/9修正

仕事とかお見合いとかお見合い延期とかドタバタしてまして更新出来ずに申し訳ないです。


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