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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
83/139

パタつかせてオセロ

二本目

 

「あ、あの、私――」



 カットしてやった。



 クリム用のベッドを雨から守る為に屋根を作る計画を立てる俺達に対して、例によってごにょもにょと小賢しい抵抗をし始めたクリム。それを論破させる事など児戯にも等しい事だった。


「せっかく作ったのに、野晒しのままで痛ませてもいいと? 雨風に晒したままなんてなぁ……」


「あ、雨なら私がなんとか天――」


「寝てる間に降ったら?」


「…………寝ません」


「徹夜の経験は?」


「二度ほどなら寝ずに夜を越した事があります!!」


「経験があるのか。だが、それでも――」


「師匠。コイツは素人です、さっさと終わらせましょう」


「……ソラよ。お主は――」


「三日間までは覚えていました。ですが、後は何度太陽が沈み、登ったか……いつの間にか意識は無くなり、目が覚めたのに身体が動かないという経験はもうしたくないですし、させたくもないです」


「「…………」」



 さぁ、始めようか。



 ◇ ◇



 やるからには徹底的にやろうと乗り気になったので――


「ジョニー、この辺りに少しだけ小さめな穴を頼む」


「おっけー!!」


「メアリー、その支柱用のやつを切り揃えたら、屋根用も頼む」


「少なくとも、建設の為に魔法を覚えたかったわけじゃないのだが……」


「ソラ!! できたー!!」


「あいよー。次は、っと……師匠、そちらは結べましたか?」


「うむ、しかし改めてミルキーワームに、このような使い道があるとはな……」


「ロープがあればいいのですが、一応代用品ということで。ジョニーゆっくり引っ張って行ってくれ」


「あいよー!!」


「おいソラ、ジョニーが真似したぞ」


「うっ……すまん」



 いかんな。ついつい作業中は前世の癖が出てしまうようだ。反省せねば。集中集中っと……



「あの、ソラ様。私もなにか……」 


「うーん。クリムは力仕事はダメそうだし、もう枝集めもないしな。まぁ、使えそうな物が出ないか、その辺を掘るという名目で戦力外通告だな」


「ソラ、思考が声になって出てるぞ」


「はっ……いや、あの――」


「いいんです。私、あちらで探してきますね」


「……腹黒いな」


「……腹黒じゃの」


「ソラ、はらぐろってなに?」



 肩と翼を落として去るクリムの背中に届かない翼を伸ばす俺に、誰もフォローしてはくれなかった。


と、思いきやすぐに駆け寄ってくるクリムの手にはまさかのブツが。


「ソラ様!! 縄が、縄が出てきました!!」


「よ、よくやってくれた!! 流石はクリムだな!! 凄いぞ!!」


「えへへ、ありがとうございます」



「白々しい……」


「白々しいの……」


「ソラ、しらじらしい……しらじらしいってなに?」


 やかましい。黒なのか白なのかハッキリしろってんだ。オセロじゃねぇんだよ。



「……ひとまず、今日のところはこんなもんかの」


 気が付けば、空が茜に染まる時間となっていた。午前中からやっていれば、と後悔もあるが概ね予定通りの出来となった。

 

 太い枝で作った四本の支柱の上に、縄とミルキーワームで細い枝を結んだ筏津(いかだ)のような屋根。どう見ても素人臭い出来だが、少なくとも俺達の口からそれが出る事はない。



「ふふっ、なんだろうな。途中から秘密基地を作ったような気持ちになっていたよ」


「ひみつきち?」


「あぁ、私達が作った家……もうひとつの巣みたいなものさ」


「格好良いだろうジョニー。どうだ? 俺達が作ったんだ」


「うーん。うん!! よくわからないけどたのしかった!!」


 ピヨピヨと跳ねるジョニーに俺達は一様に笑む。ジョニーにとっては格好良くはなかったようだ。まぁ、楽しめたならいいか。


「儂も童心に帰ったようじゃったわい」


「……私も、なんだか昔を思い出しました」


「では明日は壁か、流石に女子の寝室なのだからな。男性諸君は立ち入り禁止だ」

 


 ピヨ顔で頷くメアリーに、俺とジョルト師匠はお互いに渋い顔をして見合った。



「師匠。次は師匠の、爺さんの寝床ですかね」


「……なんともやる気の出ぬ響きよの」


 つまり、ジョルト師匠の分はクオリティが更に下がるだろう。



「メア、どういうこと?」


「ジョニーはいつでも歓迎だという事だ。なぁクリム、そうだろ?」


「えぇ、ジョニー様もソラ様もいらしてください。ですが、ジョルト様は……その……」


「…………まぁ、そうじゃの」


 ごにょもにょ、と言葉を逃がすクリムに対し、俺に衝撃が走る。行って良いのか!? 寝室に!! 女子の、しかも見た目は美少女の!!


「ソ、ソラは駄目だぞクリム!! ソラは……ほら、なんだ……」


「メアリー様も言っていたではないですか。ソラ様の触り心地は素晴らしい、と」


「ほう」


「あ、いや。それは……そうだが、そうなんだが……」


「クリムよ。すまないがソラは今、我が流派に身を置いておる。そして我が流派の決まりで一人前になるまでは、女人と添い寝してはならんという決まりがある」


「爺ぃ!! そんな規律聞いたことねぇぞ!! 絶対後付けだろ!!」


「しかしソラよ。儂だけ仲間外れとは寂しいではないか」


「本音を言っても駄目ですー。クリムなんて強引に言われればホイホイ言うこと聞くようなチョロい所がありそうなんだから駄目です!!」


「ソラ、それは私も思ってた。クリムはチョロインだな、と……しかも天然のチョロイン、天チョロだ」


「チョロインってなんですか!? 天チョロってなんですか!? それに私だってそんなに意志が弱い訳では――」



 余程ショックだったのか、初めて騒ぎ立てるクリムはさて置き、やはりメアリーもそう思っていたか。



「あ、ママだ!!」


 賑やかな一同の声にも負けずピヨーと叫び、夕空の一点を見つめるジョニーにつられて、俺達は次第に大きくなるママ鳥の姿を見つけ――



「ぬぅ!? (まず)いの……」


 どこか真剣なジョルト師匠の声が、静かに響いた。なにが拙いのか、まさかママ鳥になにかあったのだろうか。



「フェニスの羽ばたきで起こる風のせいで秘密基地が吹き飛ぶかもしれん」



 一同、沈黙。



 結局、ママ鳥は帰宅直前に家族から静止を促されて酷く落ち込む羽目となった。



2023/3/9修正

ここまでお読み頂きありがとうございます。再び皆様からのブクマが増え始めて安堵と感謝……!!

今後ともペン生を宜しくお願い致します。


そういえば考えると来年は、酉年なんですよね。


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