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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
81/139

パタつかせて残念娘

二本目

 


[適正鑑定]

対象者の受諾により、対象の属性相性を観ることが出来る。



ステータスを見せてもらって確認したが、これがクリムの言いたかった事だろう。


それ以外のラインナップが強すぎて見ることも拒否して俺は頭を抑えた。


「驚かせて申し訳ありません」


「いや、こちらこそ。なんというか……ごほん。口調は正した方が宜しいでしょうか?」


「…………」



 めっちゃ悲しそうな顔された。やれやれまったく、なんだってこんなお偉いさんと知り合う事になるやら。魔王の親族とか貴族じゃなくて王族か。権力やばい。



「それで、今更散々疑っていた訳だが、適正鑑定を頼んでもいいかな?」


「……いいんですか?」


「質問を質問で返すんじゃないよ。答えは、はいか判った、だけだ。オッケー?」


「それって同じ意味ですよね? あっ……ふふっ、申し訳ありません。私、馬鹿なのでまた同じ事……」


 思いの外ツボに入ったらしい。じわじわと笑いが込み上げたように俯き肩をぷるぷると震わせるクリムに、先ほどの悲壮感はなさそうだ。うむ、美少女は笑ってなんぼだからな。


「まぁ、腹も減ったし。サクッと頼むわ」


「わかりました。でも適正鑑定をするのにそんな風に軽く頼まれる方は初めてです。あっ、ジョニー様以来ですね」


 それはそれでなんだかね。ジョニー兄さんは基本的に楽天家だから。


 笑い過ぎたのか目尻に溜まった涙を指先で拭うクリムの姿に、少しだけ胸キュンさせられた俺は乾いた笑みで返すのだった。



 ◇ ◇



「なぁ、ソラもやってもらったんだろう?」


 いつもより遅くなった昼食時、厨二ひよこが例に漏れない台詞を吐きながら俺に近付いてきた。


彼女は、もしかすると間の悪いというか、運が悪いのかも知れない。なぜなら話しかけるタイミングが結構な頻度で俺の機嫌の悪い時とブッキングするのだ。


「その様子から察するに、結果はあまり良くなかったのか? もしよければ私が相談に乗っても……」


 それを察してくれるなら、そっとしておいて欲しいのだが。事情を知るクリムは勿論、ジョニーもジョルト師匠ですら俺から漂う陰鬱(どんより)ムードに触れず、飯を食ってるというのに。



「……相性の良い属性がなかったんだよ」



 メアリーを傷付けないよう、努めて平坦さを心掛けた言葉は、囁き程度の声量でこぼれ落ちた。沈黙が波紋のように辺りに広がり……



「あ、え……あの……クリム!! どういう事だ!!」


「え、あ、申し訳ありません!!ただこんな事、私も初めてで……」


「これメアリー、クリムを責めるでない」


「……ソラ、げんきだして?」



 三者三様に賑わう様子を眺めながら、俺はゆっくりと息を吐いた。


 クリムの適正鑑定の結果を正しくいえば、"不明"だった。ただ判るのは、火に関する属性に対する相性が壊滅的に悪い事くらいだ。


 関する属性とは、属性は妖精と同じように多岐に渡って存在する。火であれば、炎、炎熱、焔火等々……


唯一の救いは光と炎熱の混合属性である陽光、大地と炎熱の混合属性である地熱やマグマは他の属性が混ざっている為に比較的影響しないとの事。これは言わずもがなだ。ぽかぽか陽気は生前同様に好きなのだから。マグマとか該当こそしなくとも相性良いとは思えないし、大体皆苦手だろう。


 ……と、ここまで考え、何故こんな事になっているかの理由も浮かんできた。


 例の称号だ。忌々しくも受け入れる他ない筋肉神からの贈り物。その内にある効果の全補正の低下率増大と、ママ鳥の称号による効果で火属性耐性劣化がコンボをきめちゃってるのだろう。他の補正の増加は無効化。相変わらずペン生がハチャメチャ過ぎるのを再認識できた。



「ありがとうジョニー、大丈夫だよ。ほら、俺には師匠からの技があるから」


「うむ。それでこそ我が弟子よ。魔術に頼らずとも儂の流派は――」


「そういえばジョルトお爺ちゃんの適正はどうなの? 後でソラと一緒に教えるって……」


「…………」


 メアリーさん。空気読めなかったね。


 再び沈黙する場をどうにかする事が出来るのは、悲しい事に俺しかいないようだ。



「師匠。御自身の適正判るんですね?」


「あぁ、昔な。志願兵の試験を受けた時に見てもらった……」



 勿論、話がそれだけで終わるなんて許されなかった。俺が水を向けたという事もあってか、観念したように細く長い息を漏らしてジョルト師匠は言葉を続ける。


「そよ風と水流じゃよ。同期には嵐風(テンペスト)、焔火……それに雷光なんていうのもおった。儂も昔は属性で散々にこき下ろされたものよ」


「雷光……まさか、人魔大戦期に不死族団をナズール湿地帯で退けたという……確か、雷光騎士スメラギ、と」


 ジョルト師匠の言葉に、意外にもクリムが反応した。有名人だったのだろうか。雷光騎士とか凄くアレな響きだな。メアリーさんもそわそわしてますよ。ライトニングナイトさんか。



「左様、かの【不死(ノーデット)不滅覇王(フォールキングス)】ヴァルガス率いる一団に一矢報いた人類軍の光……そうか、そちら側でも奴は名を残せていたのだな。惜しむべくはヴァルガスを討てなかった事か……と、今の儂にはそれも過ぎた言葉だがな」


 遠く、空を仰ぎ見ながらジョルト師匠は杯を傾けた。


「……はい。ヴァルガス様も生きていらした頃に仰っていたのを聞いたことがありました。あの時は不死の死を垣間見た、と……」


「……そうか。奴も逝ったのだな。案外あの世でやり合ってるのかもな」


「……あぁ!! い、いえ。いえいえ!! ヴァルガス様が亡くなられた事は人類に知られてはならない秘匿事項でして――」



 クリムがポンコツな件について。ジョルト師匠がまだ人類軍とやらに在籍してれば、とんだスクープだろう。ソースは魔王の娘、逆にビップ過ぎて誰も信じないか。どうやって知り合ったとかで疑われそうだし。取り敢えず話は逸れたけどさ――



「そ、そういえば。適正をされたのがお若い頃であるというのなら、今の適正もまた変わっているのでは」



 結論、クリムも空気が読めなかった。


 なんなのこいつら。結局また適正の話かよ。その癖に私、名案が浮かびましたって面するなよ。話逸らしたいだけなのに、こっちにまた被弾するような話じゃねぇか。


「いや、やめておこう。どうせ老い先短い身だ。それに今更適正を知って変える程、軟派な拳ではない。それに儂は戦に疲れ、人から離れた身、余計な話は広めたりせぬ。そよ風も流水も確かに我が身に在る。それだけだ」


「そ、そうですか……」


 露骨に安心するクリムにジョルト師匠も穏やかに笑む。本当に格好いい人だと弟子である俺も誇らしくなる。



「しかし、クリムは人魔大戦の魔族側での事に詳しいようだな。しかも秘匿事項を知っているくらいに」


「え、あ、う……そ、そんな事ありませんよ? 魔王軍に関わる者ならわかってますよ」


 自分も話に混ざりたかったらしいメアリーに、クリムは目を泳がせながら弁解し始めた。まだメアリーには自分が魔王の娘だと明かさないらしい。別に悪い奴ではないんだけどね。



「成る程。定番所として、もとい私の見立てでは、もしやクリムは魔王軍でも重要なポストの存在かと思っていたが、うっかり秘匿事項を漏らすようなクリムだものな。そんな筈もなかったか。いや、疑っていてすまない」


「え、あは、あはは……メアリー様は想像力が豊かですね、はは……」



 何を思っていたのか、偉そうにぴよぴよ頷くメアリーに、クリムも頬を引きつらせながら笑うしかないようだ。



 メアリーよ。想像通りに定番所だぞ。魔王の娘、つまりは魔王軍のお姫様だ。


 それを知ったならこのコミュ障(メアリー)は手の平クルーしそうなので、俺はクリムとの約束通り秘密を守る事にした。


 

2023/3/9修正

ジョルトの属性 そよ風と水流


うっかり天使と残念ひよこは書いててによによします。

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