パタつかせて適正鑑定
お待たせしました
適正鑑定とは。
いつの間にか、ごにょもにょとする回数が減ったクリムによると、自分以外の存在が持つ属性への相性を視る事が出来るというものらしい。
「実際にスキルとして取得していなくても相性の良い属性だと取得しやすかったり、逆に取得したい属性のスキルと相性が悪い場合は諦めがついたりと……絶対ではありませんが、指標のひとつになればと……」
コミュ障にしては、やけに饒舌に喋るな……と失礼な事を考えながら、恐らく彼女もまた、得意分野には口が回るタイプかとあたりを付ける。同時に、ひとつの疑問が浮かんだ。
「こういう事を訊くのは失礼になるかもだけど、その適正鑑定ってスキル? そもそもそれってどうやって取得したんだ? 実は俺、色んな事を教えて貰ったけど、そういう事とかよく知らなくて……」
さり気なく無知をアピールしながら、駄目押しに小首を可愛らしく傾げてみせる。そう、俺は今、無知で可愛い赤ちゃんペンギンなのだ。ぺーん。可愛いだろ?
「っ……え、えっとですね。その、このスキルは少し……あの、特殊な物で……一応、秘匿としなくちゃ、いけないんです」
ごにょもにょし始めたクリムに可愛いであろう俺は、首をこてんと傾げてみせる。更にキュー?と鳴けばさぞかし可愛い。俺の様子にクリムも視線を釘付けだ。
秘匿としなければならない、ね。キュートな仕草の内面に潜む彼女の何かへの疑心が芽吹き始めている事を自覚する。生憎相手が美少女天使だろうと無造作に胸襟を開く程、気楽な思考はしちゃいない。同時に難儀とも思える思考に辟易する矛盾も抱えているのだが。
兎に角にもまぁ、さて、考えよう。
仮名を使うクリムという少女が明かした適正鑑定というスキル。
秘匿としなければならない。と言うなれば、秘匿とさせる第三者の存在が見えてくる。ただし現在、第三者についてどういう存在かはさて置くとしよう。
ならば、秘匿とすべきスキルを見ず知らずの俺達に明かす事によるメリットはなんであるか。
そう、メリットとデメリットが肝心だ。
「その適正鑑定? について色々と訊きたいんだけど……訊いても大丈夫?」
「え、あ、はい。私に答えられる事なら……答えられる範囲で……」
直接的な問い掛けを避けつつも、クリムが恐々とした声を返しながらも視線を外さない事に、どうやら後ろ暗い何かは薄いと考える。これで尚も嘘を吐けるような彼女ではないという前提が必要ではあるが。
「ありがとう。それじゃ、適正鑑定は……って、俺の顔に何かついてる? その、なんだ、そこまで見つめられると逆に話しづらいんだけど」
「も、申し訳ありません。えっと……ソラ様の仕草が、なんと申しますか……胸の内が締め付けられるようで……それと、ありがとう、と言われたのはいつ以来だったか……と」
「……質問を続けても?」
ようやく視線を逸らしてくれた訳だが、頬を染めてもじもじするクリムの方が見ているだけで萌えるもとい胸がキュンとしてしまった。中身がおっさんのペンギンにはキツいよ、まったく。
「適正鑑定を行うにあたり、スキルを行使するのに必要な条件は?」
「えっと、鑑定を行いますという旨を相手が受諾さえしてもらえれば……」
「受けますって意思が必要なの? 例えば受けますって言いながら心の中で嫌だなって思った場合は?」
「恐らく言動よりも意思が尊重されると思います。確認した訳ではありませんが……」
つまり占いとは違い、生年月日や氏名は不要なわけか。
「次、クリムさんが閲覧……と、そのスキルで見られるのは属性に対する相性のみ。という話だけど、それ以外は本当に判らないのか?」
「……はい。そういった質問はされた事がありますけれど、それが適正鑑定ですという事しか言えません」
少し突っ込み過ぎたか。表情の雲行きが怪しい気がする。お互いに疑心を持ってしまってはよろしくないよな。適当な質問で濁すべきか――
「ソラ様は思慮深いようですね。まるで、なんだか……御兄様のようです」
不意を打つように呟いたクリムの言葉に、ざわりと羽根が震えた。同時に、本能的に思考が警戒と冷汗を促す。なんだ? 今の……
「お、お兄様? クリムさんには兄弟が?」
「……はい。御兄様と御姉様が……二人ともとても優秀な方なのですよ」
そう答えるクリムの表情は少し寂しげで、でも声だけはどこか誇らしげだった。しかし、それも一瞬のことで、改めて俺を見つめる表情は――
「私の事を疑ってますよね? 突然現れた、こんな羽の生えた存在に、メアリー様やジョニー様によく判らないスキルを使われて……無理もありません」
酷く寂しげな微笑みの形。もしかすると、もしかしたら、傷付けたのだろうか。俺が不躾な質問ばかりしたからか。
こんな時、どうやって言葉を返すべきか。ただ、判るのは、ただ、解るのは――
「はっきり言っておけば疑ってないわけじゃない。だけど少なくとも、その綺麗な翼のせいなんかじゃない」
そう、こんな羽というには、白銀の煌めきを見せる翼は綺麗過ぎる事くらいだ。ひとつでも長所を見つけたなら誉めるべしである。
「……メアリー様も、この羽の事を誉めてくれましたけれど。ここに来るまで、そんな方はいませんでした……誰一人として」
どうやら咄嗟とはいえ、俺の言葉はよりにもよって、あの厨二の二番煎じだったらしい。解せぬ。まぁ、それで晴れ間が見られるなら……なんてのは臭すぎるか。
「……適正鑑定が本物だと、証明する方法があります」
「それはスキルを使う事以外、って意味だよな」
「はい。それにソラ様であるなら、恐らくはそれだけで抱えていらっしゃる私への疑問も全て理解して頂けるかと」
どこか吹っ切れたような目でクリムは俺を見つめる。気が付けば、その視線の高さは俺と同じになるように、腰を下ろしていた。座るように言われて椅子を探した彼女が、枝の上とはいえ、地面に腰を下ろしていたのだ。
「但し、可能であれば……時が来るまで他の方には内密にしていて欲しいのです」
いつもの臆病さのない青い瞳が俺を射抜くように見る。条件を提示してくるような強気さに俺の方がたじろぎそうだ。
そしてどこか甘美な響きの言葉に、知らず知らずの内に喉がゴクリと音を立てる。
いつの間にかジョニーは俺達の話を聞くことに飽きたらしく、メアリー達の稽古に混ざっていて俺達から距離がある。つまり、ふたりきり。落ち着け、直ぐに卑猥な方向に妄想するのはもう卒業した筈だ。オッケー? オッケー。落ち着いた。
「な、なんでお、俺にそんな?」
ファッ○、この童貞が。
キョドってしまった俺に、クリムは優しく微笑み返す。攻守が交代したように、しかし状況を覆す手段がない。流れに身を任せるのがうちの流派だから仕方ないよね。
「なんででしょうね……私もこのままではいけないからでしょうか。せっかくフェニス様の御家族と出逢えて、良くしていただいたから……この羽を、誉めてくれたから……」
どこか恥ずかしそうに、少しだけ足早に言葉に並べたクリムは俯きながら、だけど……と呟きを紡ぐ。
「どうか。知っても、変わらずにいてほしいのです。私の事を、気味悪がったりしないで欲しいのです」
血の懇願と形容するような言葉が、小さく翼を震わせる姿が、何かと重なって見えた。
「……わかった。何をするか、判らないけど。約束するよ」
まったく、疑心も警戒も無駄になってしまったじゃないか。これで何かで騙されたなら、俺が悪い。ハニートラップだとしたら賞賛に値するよ、打算と疑心塗れのペンギンを出し抜いたと誇って構わない。
掛け値無しの無条件降伏に、クリムは驚いたように目を見開いて、後に笑顔を見せてくれた。小さくても咲き誇る花のように、暖かい笑顔を――
「アンロック ステータス リリース」
桜色の唇が紡ぎ合わせた言葉に、俺の脳裏にそれが映し出された。
名前:アマルテア=ルシフル
種族:天魔(ユニーク個体)
レベル:2
心 C
技 F
体 C
魔 A
アビリティ
【天魔の加護】
【サバイバル】
スペル
【天術 序<T>】
【適正鑑定】
称号
【魔王の娘】
【奇跡の存在】
【魔族の忌み子】
【飛べない翼】
【腹減り娘】
【魔王選抜候補】
……なるほど、確かに色々理解した。
うわぁ。なんか、うわぁ。
2023/3/9修正
クリムステータス追加
クリムは魔王の娘だったんだ(バーン)
な、なんだってー(ドーン)
ここまでお読み頂きありがとうございます。今年も僅か、今後ともよろしくお願いします。




