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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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パタつかせて流転

 

 グリアルド拳闘術

 【流転】

 発動条件 【集中】発動時、物の流れを理解し、身体を使い、その勢いを利用する。



 ひとしきり感動を分かち合った俺達は、一旦走り込みを再開する前に言葉を交わし合う。と、いうのも師匠がこんな事を告げたからである。



「ソラよ。散々喜ばせておいてなんだがな。先に伝えておく、恐らくはお前の流転だが、まだ儂の流転の足元にも及ばぬであろう」



 今更ながらと気まずそうに話すジョルト師匠の言葉に、俺は少なからず落胆したけど、この世界の仕様を思えば納得だ。


 スキルを覚えて使うのではなく、スキルを使えるようになって覚えるという、ある意味当然な事なのだが、この世界はいったいどうなっているのか。


何はともあれ、つまりは流転という名前が同じとはいえども、俺がいきなりジョルト師匠の使う流転と同じレベルの事が出来るということではないらしい。まぁそんな気はしていたけど。



「ちなみに恐らく、と念置きしたのはどういう事です?」


 ただ、一縷(いちる)の望みではないが、気にかかった言葉を問いかけるとジョルト師匠の顔が曇った。



「その、なんだ……お前達のような者のなかには、そういった道理が利かぬ者が、な?」


「成る程、少なくとも俺やメアリーと違った輩ですね」



 つまりはチートな転生者特権か。俺には無い仕様だが、メアリーはどうなのか。少なくともそこまで楽な仕様には思えない気がするんだけど。



「そう、か。まぁ、きっかけは掴んだのだ。後は活かすも殺すもお前次第だ。ただ、道は外さぬよう」


「はい。確かに継ぎました」



 なんにせよ。ジョルト師匠が磨き上げた技の一端なんだと俺は神妙な面持ちで頷く。簡単に誰かを傷付ける力ではないにせよ、間違えないようにしないとな。



「ふっ、変なところで生真面目な奴よの。諭す手間が省けるが……少しくらいは手をかけさせてくれよ? その方が嬉しいのだからの。儂も、フェニスも」


 ぐりぐりと少し強めに頭を撫でられて、またやってしまったかと嫌悪が心に影を伸ばそうとする。でも、せめてこんな嬉しい時には合わないと呑み込み。俺はただ小さく頷いた。




 そうして、後に再開された走り込みだが……結果は、やはり散々な物だった。



 ◇ ◇



「ソラよ、今日はここまでにしよう。昼からは少し休んでおるといい」


「ありがとう、ございました……」



 ジョルト師匠の声が堅く感じるのは、流転を継いだ時とのギャップからだろうか。それとも、いくら流転を覚えたからといって、結局未だに走り込みを完遂させる事が出来ない俺に対する落胆か。


 躁鬱(そううつ)が激しいせいか、心身ともに疲弊は激しく感じる。乱れた息を整え、気持ちを切り替えるべく頬を叩く。こんな時はうまい飯でも食って英気を養うに限る。よし、切り替えおっけー!!



「お疲れ様。今日は随分と激しくやり合っていたね。聞こえていたよ、ジョルトお爺ちゃんの技を覚えたって、おめでとう……でいいのかな?」


「あぁ、ありがとう。メアリー達は何をしてたんだ?」



 ぴよぴよと近寄るメアリーに苦笑しつつ、俺は問い返す。そう言えば走ってる時に他のみんなは集まって何かしてたようにも見えたけど……



「お、お疲れ様でした。ソラ様、すごかったですね!!こう、びしばしって!!」


「ソラ、おつー!!」


 メアリーが問いに答えるより先に、クリムがジョニーに乗ってきた。なんというか、黄色と白銀の羽がごっちゃになってて凄い光景だ。


 労いの言葉に声を返しつつ、先の質問の答えを求めるべくメアリーを見やる。何故かぴより、意気揚々と鼻を鳴らされた。可愛いけどメアリーだと腹立たしさもあるから不思議である。



「クリムに適正を見てもらっていたんだ」


「そうか、よかったな」



 聞くだけ聞いたし……さて、昼ご(ミミズ)のストックはあっただろうか。今朝は色々忙しかったし、もしかすると自分で穫らなければならないのか――



「クリムに適正を見てもらっていたんだ」


「……そうか」



 わざわざ視界の真ん中に回り込んで来て再び言葉を放つメアリーに、少しの頭痛と多大な面倒を感じる。何だよ、飯が食いたいってのに。



「ほぅ、クリム殿は適正鑑定が出来るのか。それでメアリーはどうだったんじゃ?」



 おそらくメアリーが欲しいであろう質問(こたえ)を出したのは、俺ではなくジョルト師匠だった。その声にメアリーの視線はあっさり俺から俺の背後から来るお人好し爺ちゃんへと向き、たたっと駆け寄っていく。去り際にべぇっと舌を出された。にゃろう。



「ジョルトお爺ちゃん!! 聞いて聞いて!! 私……ごほん、どうやら私は風と炎に適正があるらしいんだ。暴風と猛火だって!」


「へっ、今更何を取り繕う必要があるのやら……」


 そんな騒がしい声に思わずぼそりと呟いた直後、視界の外から刺さるような視線を感じた。へいへい、お邪魔虫は退散しますよっと。



「ソラ、だいじょぶ?」


「あぁ、すまない。少しダメだったな」



 つぶらな瞳のジョニーから心配する声をかけられ、初めて自分の心が思ったよりささくれ立っている事に気が付いた。まったく子供じゃあるまいし、少し思い通りにならなかっただけで不機嫌になるとか……



 眉間にシワでも寄ってないかと、両翼の先で顔面を揉みながら、今度こそと気持ちを切り替える。



「あははっ。ソラ、へんなかおー」


「なんだとぅ? そんな事を言う奴は、こうだ!!」



 成長著しいとはいえ、まだまだひよこなジョニーの顔を両翼でうりうりと押し潰してやると、ふわふわな手触りのジョニーフェイスは面白いくらいに歪む。それがくすぐったいのかは定かではないが、ぴよぴよと騒ぎ声を上げてジョニーは首を振る。



「やー、ソラ、やめてー」


「うりうり、こいつめ。こいつめぇ」



 笑いながら俺の翼から逃れようとするが、生憎これほどのふわふわもふもふを俺が逃す筈もない。


 うむ、今日もジョニーの羽はどんな羽毛布団さえも適わない至高のさわり心地だ。誰だ羽毛布団なんていった奴は、ジョニーを羽毛布団にしようなんて言う輩は残虐非道の限りを尽くしてでも――



「ふふっ、仲がよろしいのですね?」



「っ……まぁ、兄弟だからね」



 しまった。ジョニーの上にいるクリムの事をすっかり忘れてた。完全に素の状態を見られた恥ずかしさに顔が熱を持つ。くそっ、迂闊だった。この恨みはジョニーで晴らす!! うりうりー。



「兄弟だから、ですか……」


「やー、ソラ、やめてー」


「あぁ、そういえば適正鑑定? って、なんなの?」



 ぴたりと翼を止めて、それでもまだクリムを直視するだけの余裕はない俺は、ジョニーの顔を見ながら訊いてみることにした。


「てきせー? ジョ、おれはだいちとたいじゅとようこう!! って、なに?」


 いや、ジョニーに聞いた訳じゃないんだが……土と大樹と陽光か。大地と大樹はなんとなく解るけど、陽光ねぇ。


メアリーも炎って言ってたな、それと風。少ねぇでやんの。そんなこと思ったら俺の方が酷くなりそうだからやめとこ。



「うーんとな。ほら、ジョニー。まずは湖にあったひんやりした地面が大地、大樹は俺たちの家みたいに大きな木だ。陽光っていうのが……ほら、空の上でぴかーって、してるだろ?」


 ジョニーになに? と訊かれれば答える他あるまいと、俺は輝く太陽を指し示す。示された方を真面目に追いかけて目を焼かれるジョニーに苦笑しながら言葉を紡ぐ。


「あれがジョニーの適正。ジョニーに似合ってる、って話」


「ジョニー、あんなにぴかぴかして……おれ、ぴかぴかしてない」


「ははっ。まぁ、いつか解るさ」



 まだまだジョニーは俺と言うのに慣れないらしい、それもまた可愛いものだ。ぴかぴかはしてないけど、ぴよぴよはいつもしてるよな。それを見て俺は、によによする。


 というか、土木はさておき陽光って凄く主人公っぽいな。俺はどうなんだろうか。



「むー、それメアもいったー。いつかって、いつなのー?」


「それは……また今度な?」



 いかにも子供らしい発言をするジョニーに、俺はふと昔の自分を重ねた。前世の、まだ子供だった頃を。



 "いつか"が解ったのは、いつだったか。


 いつも来ない、いつかばかりだった気がするけど。



「ソラ様は、博識なのですね」


「ん? あ、あぁ……」



 不意に頭上から降るクリムの視線に、俺は冷や汗を流した。熱かったり、冷や汗を掻いたり忙しいったらありゃしない。



「それで、適正鑑定って結局なんなの?」



 ここは話題をずらして誤魔化すべし、今度はきちんとクリムを見上げて訊くことにした。その下ではまだ納得いかないジョニーがぴよぴよ唸ってるけど。

2023/3/9修正

メアリー属性に暴風、猛火

ジョニー属性を大地、大樹、陽光

へ変更


だらだらとした会話になりそうなので一旦ここいらで切ります。


ここまでお読み頂き感謝ペン激!!


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