パタつかせて出勤
短めですいません。
ママ鳥は結構、忙しい鳥だ。
伊達に極樹の聖域一帯における一応の領主、というポジションではない。
一応の、という枕言葉が付くのは、領民とされる鳥達への管理体系もなければ収税もない。
他の領域が絡む諍いに対する徴兵も、大体がママ鳥単体でどうにかなるので必要ない。暴力的な意味でワンマンチームといった形である。だが、弱肉強食な世界においての単純明快な理でもある。
では、この領域に巣を置く鳥達が何もしないかと言えばそうではない。鳩のヒメモリ氏を筆頭に、領域内の治安維持や多少の自衛、どうしても自分達の手に負えない事態に対してだけママ鳥への救援を要請する。
ここまでは、これまで過ごして来たなかで解ったのだが、それだけではどうにも不明瞭な部分があった。
それは、領主であるママ鳥からしてみれば領地を持つ事に対してのメリットがない事だ。領民から年貢も納める必要はないと、我が家は自給自足だし、戦力も先の通り。文字通り領主という名前は飾りでしかないのだが、高貴なる者に伴う義務というヤツなのだろうか。貴族というか蛮族に近い生活なのにね。
ともあれ、そんなママ鳥の領主としてのお仕事だが、似たように他の環境にある領主達との会合がメインとなっている。これがママ鳥にとって目の上のたんこぶ、ひたすらに面倒なお仕事らしいのだ。
普通、そんなお偉方の会合なんて年一くらいにするだろうと思うのだが、なんと週2、多くて週4くらいのペースで行われているのだ。
そんなに話し合う必要があるのか、どこかと戦争でも起こすのか、もしくは内乱を起こさないようする牽制なのか。まぁ、俺が関与出来る場でもなければ、する気もないのだが……
「フェニス様。また使者が来ました」
寝坊したせいで、ママ鳥は俺への話は疎か、朝食すらまだな段階であるのにも関わらず、ヒメモリ氏はその言葉と共に巣に現れた。
「……昨日の今日よ?」
「いつもの事ではないですか。今回も、ちゃんと出席して来てくださいね? 育児休暇も毎回使えるネタではないようなので」
とても共感を覚える呟きをひとつ、ヒメモリ氏はお決まりの言葉のように声を返す。どうやら会合をエスケープした事があるらしい。ママ鳥らしいというかなんというか。
そしてヒメモリ氏は育児休暇なんて言葉をどこから聞いてきたのだろう。まさか転生してきたのか。まぁ、それならもっと領域も発展してるか。
「判ったわよ、行けばいいんでしょ」
「おや、随分と素直ですね」
ふるっふーとヒメモリ氏は目を丸くする。確かに返事は遅かったけど、それでも遥かにスムーズと言って良い。腹も減っているだろうに、どういった風の吹き回しか。
「いつまでも駄々を捏ねている私じゃないわよ」
「そう、ですか……」
ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らすママ鳥に俺は、あぁ……と合点がいった。
子供達の前でそんな姿を見せたくないのか、昨日の今日だし。ある意味、割り切ったママ鳥の姿は格好いいけど……いや、これ以上は俺の我が儘でしかないか。
「ソラ、そういう事だから――」
「うん。いってらっしゃい。……母さん」
「っ……えぇ!! 母さん頑張るわよ!!」
蒼と碧の翼をはためかせて仕事に飛び立つママ鳥へと、激励の代わりにちょっとリップサービスをひとつ。恥ずかしいからあまり言えないけどさ。
こうしてジョルト師匠やメアリー、ジョニーも出勤するママ鳥に声をかけ、一家総出でお見送りを済ませる。
「あんなやる気を見せるフェニス様は久し振りです……」
「領主らしくて、とは違うかもしれませんけど……ああいう姿は格好いいですよね」
感慨深げにママ鳥の後ろ姿を見るヒメモリ氏に、俺は少し誇らしげに呟く。その呟きに、ヒメモリ氏も頷き――
「今回は、そのやる気が長続きしてくれるか、ですがね……」
それは、言ってくれるな。
2023/3/4修正
そして、次の豚が死ぬのです
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ちなみに豚は監査が入ってますので出勤してません。この辺りは閑話行きネタですかね。
着々と増えるブクマ、本当に本当にありがとうございます。ペンペペペン!!




