パタつかせて巡り会うコミュ障
二本目です
悲報。俺氏、寝ぼけてコミュ障に膝枕を求め、甘える姿をジョニーとコミュ障に見られる。
質問は、受け付けない。今の気持ち? クソ食らえだ○ァック。
「あ、メア。おきた」
「あぁ、おはようジョニー。その、お母さんとジョルトお爺ちゃんは、まだ寝ているのかい?」
「うん。おこそうとしたけどおきない」
「そう、か……まぁ、たまには起きるまで待ってるとしようか」
一旦、メアリーは俺へ向けていた視線を切り、ジョニーと言葉を交わす。だが、俺は見てしまった。
視線を逸らす直前、メアリーの俺を見る目が異様なまでに冷ややかだったのを……
そして、一度外された視線は再び返ってきた。
「……で?それで?」
まったく、なんと冷たさを持った視線だろうか。同時に好奇の色が滲んでやがる。
さては弱みでも握ったつもりなのだろう。俺が同じ立場なら絶対にそうする。いや、それ以上にいじくり倒すだろう。
だが、俺がその程度で揺らぐとでも――
「過程は解らないが、判ると言えばソラ君は女の子の膝枕が大好きのようだな。いや、キミも男の子だという事なのだな」
「おう、やめろや。何が望みだ」
金か、文無しなのは知ってるだろうが。
「ソラ。おとこのこ? さいきょうめざす?』
「うん? あぁ、ジョニー。彼を見てはいけない。最強よりも最低な何かを目指しているようだからね」
「やめろってんだよぉっ!! 俺はただ、ただ膝枕が好きなだけなんだよぉぉっ……いいじゃねぇ夢を見たって……」
「あ、あぁ。そう、か……それは、なんだ。すまないね……」
「ソラ。げんきだす」
朝から最悪過ぎて泣ける。まさかの夜に朝にと続けて泣かされるとは思わなかった。理由は大分違うがな。
「え、えっと……わ、私もソラ様に触れられて心地良かったので、そんなに責めないであげてください……」
「いや、これは……別にそういう……というか、様?」
膝を突く俺へ恐る恐るではあるが助け舟を出してくれるクリムに、メアリーはようやく意識が向いたらしい。悟られぬ程度の速度でじりじりと距離を取り、ジョニーの陰に身体を隠した。なんで隠れた。
「なんにせよ、その天使っぽい人は誰だ……?」
「てんしっぽいひと……? クリムのこと?」
「クリム……罪……?」
不躾なまでに訝しげな視線でクリムを見つめて、メアリーは口の中で転がすようにその名前を呟く。
「あ、あの……て、天使というのは……た、大変申し訳ありませんけど、その呼び方はあまり……その、申し訳ありませんが……」
「あ、え……ご、ごめんなさい」
ごにょもにょと呟き程度の言葉を発するクリムのまさかの拒否に、メアリーは素で謝罪した。コミュ障同士仲良くしようぜ。
と、いうか天使っぽいのに天使って呼ばれたくないんだな……なんでだろうか。
「あ、あの――」
気まずい沈黙から先手を打ったのはクリム。だが、口を開いた直後になぜかハッとしたようにジョニーを一瞥して、再びメアリーへ見た。
「……私、クリム、呼んで、ください。その……お、おっけー?」
「あ、はい……えっと? お、おっけー?え、なに?」
なんで突然カタコトなんだ? 微かなメアリーの呟きが風に乗って聞こえるが、ジョニーとのやり取りを知らないと解らないだろう。まぁ、クリムからすればメアリーもジョニーと同じひよこだからな。会話に不安があったのだろう……多分。
とはいえ、クリムが自己紹介をしたのだ。メアリーも改めて挨拶しようと、ジョニーから少しだけ身体を出す。
「……私は、メアリー……です」
「ぷっ、中学英語かよ。アイムメアリーってか」
「あぁ、静かにしてくれないか、膝枕ペンギン。いや、ニーピローペンギンというペンギンは初めて見たよ。ハロー、いやグッドすぎるモーニングはいかがかな?」
ファッ○、まだ言うか。
「あの、その、メアリー様は……メアリー、という名前でよろしかったでしょうか?」
「…………」
どうしてそこでふたりして俺を見る。俺はお前達の翻訳者じゃねぇんだぞ。だいたいがそこのジョニーのせいなんだからな。
「えっとだな。斯く斯く云々……?」
「……?」
「ソラ。時々本で見かける事はあったが、その斯く斯く云々っていうのはどういった意味だったんだ?」
ちっ、ゆとりめ。それともジェネレーションギャップって奴かね。どのみち空気の読めない奴め。
◇ ◇
「……おれ、えらい!!」
大分こじれた話を頑張って解した結果。ジョニー様は非常にご機嫌になった。げっそり。様は偉い、そういうことだ。
「私の事は様付けしなくてもいい。すまないがなんというか、そういうのはあまり慣れないんだ」
なんだよ、呼び方くらい好きにさせたらいいのに……あぁ、だからコミュ障なのか。
「わ、わかりました。それでは何とお呼びしたら……」
「あぁ、ほら……あれだ。祖にして始まっちゃったナントカさんでいいんじゃないっ痛ぇ!!」
素敵な名前だというのに割と鋭い足で、げじっと蹴られた。誠に以て遺憾である。俺の足の爪なんてそんな野蛮な作りじゃないのに、不公平だ。
「ソラ、お互いにそういうのは、もう手打ちにしよう……な?」
「まったく、本当だろうな……判ったよ」
「……えっと」
「あぁ、すまない。メアリーで構わないよ」
「わ、わかりました。え、えっと……メ、メ、メア、メアリー……さん」
「……クリム。私はそう呼ばせてもらうが、構わないか? それと、そちらが楽なら様付けでも良いのだが……?」
「え? あ、はい……ありがとうございます、メアリー様」
「いや、かまわんさ」
突飛なメアリーの提案にクリムは目を瞬かせる。どうやら自分より人付き合いの苦手な存在が目の前にいる事にようやく気付きでもしたのか、メアリーはどこか得意気なピヨ顔になっていた。
うっわ、それは小物のやる事だよメアリーさん。ジョニー、見るんじゃないぞ。お前らの社交性なんてどんぐりの背比べだぞ。
「それで、クリムはどうしてここに? 物見有産に来たわけでもあるまい」
「あ、えっと……それは……」
なぜか偉そうなメアリーの問いかけに、クリムは僅かながら視線を未だに眠るママ鳥へと向ける。そういえばその辺りは聞いてなかったな。
「……えっと、シ、シャカイベンキョウ? という物で来ました」
「ほう、社会勉強か。成る程……」
うんうんと頷くメアリーの姿に、ほっと息をつくクリム。そんな光景を見ながら俺は天を仰ぎ、思う。
クリムという偽名。
あからさまに嘘くさい社会勉強という理由。
少なくとも、楽観的な問題ではなさそうだ、と。誰にも気付かれぬように心中で深い溜め息を吐いたのだった。
2023/3/3修正
メアリーは残念な小物。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
クリムの話し方に思いの外、話のリズムが崩れますがコミュ障が慣れるまでどうぞ長い目で見てあげてくださいますよう御容赦ください。
また、更新ペースですがしばらくは今のような形になります事を合わせて御容赦くださいませ。
重ねて皆々様に感謝を!!ぺぺぺん!!




