ペンずるより産むがやすし 15
雑談を交えながら見ていれば、儀式は思ったより早く終わった。
星明かりを返す湖を背景にネージュリアさんが水の妖精へ向けて、生誕への祝辞とリオーネという名前を授けるだけだったのだ。
そこにファンタジー的な要素であろう光の輝きや光の粒が人の形へと変化する等のエフェクトはなく、ただお偉いさんからの有り難い御言葉的な印象を覚えた。
そんな俺と同じような感想をメアリーも覚えたのだろう。
ネージュリアさんが『ハイ、オシマイ』と唐突に終了の言葉を告げた瞬間、俺と同時に『え? なにが?』みたいな顔をしていた。対照的にママ鳥とジョルト師匠は感慨深げに何度も頷いてみせていた辺り、異文化ならぬ異世界との認識のギャップがあるようだ。
なんというか、あれだ。ジャングルの奥地に住むいかにも先住民族然としている者達が、通信機器を片手に株を売買している姿を見た時のような肩透かし感によく似ている。違うか。
「ンジャ、帰ルネー?」
「えぇ、助かったわ。ネージュ」
そして、儀式が終わるや否や非常に軽い言葉と共にお偉いさんはお帰りになられた。送迎といった物は存在せず、自らの羽根で宙を滑るように飛んでいく。
「えっ、本当に? 今ので終わりなの?」
「なんじゃソラ。何かあったか?」
「いや、何かあったというより、何もなかったというか……」
「ぬぅ? おかしな事を言う奴じゃの。さて、フェニスや。儂等も帰るのじゃろう?」
「えぇ、途中で晩御飯を捕まえていこうかしらね」
「ごはん!! ごはん!! ジョニー、いもむしたべたい!!」
「ふふっ、解ったわ。メアリーも何か食べたい物はあるかしら?」
「あ、いや……うん。何でもいいよ」
「そう? それならメアリーもジャイアントキャタピラーね」
「うむ、ではな。リオーネ、また来るぞい」
「ウン、マタネ、ケンチャン!!」
「ぬぅ……まぁ、よいか」
帰り支度なんてほぼなく、帰りにスーパー寄ろうかくらいの空気感に、俺もこのなんとも歯痒い気持ちを飲み込む事にした。トラブルはごめんだけどね。
こうして各々がママ鳥の背に乗り込み始め、これにてピクニックは終了となった。
結局、今回も魚を食べ損ねたかと思い至りながら俺は、不意にママ鳥の下へ向かう足を止めた。
そういえば、結局のところジョルト師匠とメアリーの仲はまだ改善されてないのでは――
ここへ来た本来の目的を思い出し、何かをしようとするより先に、俺の視線は"それ"を捉える。
「あの、お、お爺さん……?」
ジョルト師匠の背中へと、微かに声を震わせて話しかけるメアリーの後ろ姿だった。
その姿を見て、俺はようやく本当に今回の一件が無事に終わったのだと思えた。これ以上の手助けは不要、返って邪魔になるだろう。
「」ソラ、どうしたの?」
「いや、別になんでもないよ。ジョニー、今日は楽しかったか?」
「うん!! たのしかった!! みんな、なかよし!!」
我が家の太陽も御満足頂けたようだ。恐らく、彼の目から見てもメアリー達は大丈夫だと思えるのだろう。
「ソラ、ありがと」
「……気にすんなよ、お兄ちゃん」
と、ジョニーも今のメアリー達の様子を見て俺と思考が重なっていたらしい。すり寄りながら感謝の言葉を告げる兄ひよこに、俺はそう微笑みかけるのだった。
◇ ◇
「――成る程。確かにそういう見方もあるかの。だが、当時の王家は尊ぶべきを民としておらんかったのだ」
「あの、師匠……?」
「燕雀鴻鵠、という奴か。なぜ力を持つと歪んでしまうのでしょう。力とは、なんなのでしょう?」
「ねぇ、メア……?」
「力、か……それは守るべき者を守る為の物だと、儂はそう思っておったわい。あの時まではな――」
「その時とはいったい……?」
「人魔大戦。そう呼ばれておる戦争の裏側、じゃよ」
「裏、側……!?いったい何が……」
「ソラ。メアがはなしきいてくれない……」
「あぁ、まさかこうなるとはな」
落ち込むジョニーに、俺もどっと疲労感を覚えた。
初めからこうやってジョルト師匠語り役のメアリー聞き手役で配置しておけば、あれこれ画策する必要もなかったのかも知れない。メアリーもこの手のお喋り好きなのだから。
「ほほっ、嬉しいの。ソラの奴はあまり昔の話をキチンと聞いてくれんからの」
げぇ、バレてやがった。
「えぇ、私で良ければ。いつでも、是非に、お爺さん」
「ジョルトと呼ぶがよい、メアリーよ」
「それは有り難いんですけど……その、もし良ければ別の呼び方をしても?」
「ふむ? 構わんが……」
「……ジョルトお爺ちゃん」
風に吹かれながらも確かに、ぴよ。と小さな声で呟いた言葉だが、俺には不思議な事に何かを打ち抜いた銃声に聞こえた。
「ジョルトお爺、ちゃん……フェニス!! 聞いたか!! 儂をジョルトお爺ちゃんと、まるで孫が出来た気分じゃて!! おい、フェニス!! 聞いておるか!?」
「うるさいわね。振り落とすわよ」
「嬉しいのぅ、嬉しいのぅ!!」
年甲斐もなくはしゃぐジョルト師匠の姿を見ながら、俺の時はこんなに喜んだだろうかと思わず嫉妬してしまうのだった。
爺寝取られってジャンルは需要あるのだろうか?
これにて閑話終了となります。
感想でも頂きましたが閑話として二章と並ぶ程の内容量となってしまった事をこの場でもお詫びさせて頂きます。次回はもっと簡潔にします。
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。今後ともペン生を宜しくお願いします!!ペンペン!!
ネタバレになりますが、次の話で誰かが死にます。ヒントは豚。




