ペンずるより産むがやすし 12
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夕焼け色の空を映す湖畔を前に、俺達一同はようやくのひと心地をつけていた。
「本当に、良く無事でいてくれたわね」
毎度お馴染みとなっているママ鳥による癒やしの涼風を全身に浴びながら、安堵溢れる声の主を見上げる。冷感の伴う風が痛みを文字通りに飛ばしてくれるなかで考えた。
先日はジョルト師匠に全身ボッコボコに殴られたが、今回は子カマキリに全身ザックザクである。どうしてこんなに頻繁に命の危機を迎えねばならぬのか。誠にもって遺憾である。
「メア、ソラ、だいじょうぶ?」
「あぁ、心配をかけたねジョニー……本当、色々とすまなかった」
「本当によく生き延びれたって感じだよな」
「くっ、久方振りの奥義がここまで身体に来るとは……」
俺の隣では同じく子カマキリ達の襲撃で怪我をしたメアリーと、奥義の反動で肩を痛めたらしいジョルト師匠が並んでママ鳥の風を受けていた。ちょっとした野戦病院である。
「ミンナ、ドウシタノ?」
「ヨワイカラネ、イカシタカ……イシカタナタイ!!」
「イシカタナタイ!! イタシタカナイ!!」
頭上をふよふよと浮く水妖精の光と、自分で言ったよく分からない言葉にケタケタと笑うフリージングなんとかさん。
先程、ママ鳥から受けた説明では仕事の同僚で氷精霊の女王様らしい。精霊と妖精の違いは多分強さ的なモノなのかな。さらに女王ときた。まぁ、底の全く見えない力の一端を見せつけられれば納得である。
「それにしても結局、親玉には逃げられたかぁ……」
ジョルト師匠達が俺達の救助に走っている間に、ママ鳥を始めヒメモリさん達は空から子カマキリ達の親であるキラーマンティス変異体とやらを捜索していたそうだ。
子カマキリ達を目印に辿っていき発見するまでは容易かったらしいが、ママ鳥の身体の大きさと森林では相性が悪かったらしい。手傷を負わせる事に成功したようだが、領域の外まで追い詰めて、そこで逃げられたようだ。
星はキラーマンティス変異種、四つ手カマキリの牝であり、最早ほぼ死に体である事、周辺警備強化を以て決着としたそうな。
あぁ、別に俺はこれに関して文句を言うつもりはない。助けてもらった身でもあるからそんな筋合いはない事くらい判っている。
「ソラ、なんだか不服そうね。それに、メアリーも」
「え?」
少しくらい空気を醸し出していたが、まさか俺と追加で名前が挙がるのがマザコンメアリーだとは誰が思うだろうか。面白い物が見られると野次馬根性が顔を出してしまうのは仕方のないことだろう。
「ち、違う。そんな顔してない!!ただ……」
「……ただ?」
訥々と声を漏らすメアリーに俺やママ鳥だけでなく、みんながそれとなく注目していた。
しばしの静寂、メアリーはどうやら注目の的になっている事に気がついていないのか。俯き気味に視線を逸らして――
「お母さんが助けに来てくれなくて、それだけ……ちょっと残念かな、って……」
「ヒメモリィィッ!! 今すぐ追撃部隊を用意なさい!! いや、私だけでいいわ!! 他領域だろうとなんだって構わない!! 愛しのメアリーに報いる為にあのファッ○○カマキリの○○を*の穴にファ××してクソ△△してやるんだから!!」
「こらフェニス!! お前、子供がいる所でなんて事を言うんじゃ!! お前達も聞いてはいかん!!」
初めて血の涙ってヤツを見たな。せっかく水洗いした身体に飛ばさないでもらってもいいですか?
「ねぇねぇメア。ファッ○ってなに――」
「ほれ見たことかフェニスゥゥッ!!」
「あっ、いや。違うの!!」
「忘れるんだジョニー。キミは何も聞いていない。良い子だから、ね?」
「えー、でも……うん、わかった……」
「くっ、私が発端とは言えこんな事になるだなんて……」
阿鼻叫喚である。完全に外野だった妖精精霊コンビだけが傍観に徹していた。
と、思いきや青白い氷精霊さんがハーイと手を挙げる。はい、なんでしょうか。
「ソンナコトヨリ、フェニス。ワタシガココニ来タ理由、忘レテナイヨネ」
「そんな事ですって!?」
「そんな事じゃと!?」
「あぁもう、ふたりとももう黙れ!!」
泥沼化するばかりで生産性のない会話に終止符を打つべく、俺は可愛らしいペンギンには似つかわしくない怒声を張り上げた。
◇ ◇
「契約の儀式、ねぇ……」
氷精霊の女王ネージュさんが言うには、この湖で生まれたばかりの水妖精をキチンと育てるにあたって、幾つかの儀式が必要なのだそうだ。妖精の育て方云々という話を確か前にしてたな。
少なくとも最初の儀式さえしてしまえば、ある程度の妖精に育つらしい。 しかし、契約の手順を間違えてしまったりすると、良くて消滅、悪くて自然災害を招いたりするらしい。なにそれ怖いんですけど。
「その昔、人が統治する国で妖精が猛威を振るったという言い伝えが幾つもあるが……そういう事か」
「魔族領の一部も似たようなモノよ。全く嘆かわしい事に」
とはそれぞれの歴史を知る人物の嘆きだ。悪いやつは種族関係なくいるようで……
「ネージュ様、質問をしても宜しいでしょうか?」
「イイヨ、メアチャン」
「メアちゃ……ゴホン、儀式を行わないとどうなります?」
ちゃん付けに思う所があるのか。それでも気になる点を訊く姿勢を貫くメアリーに、日和見が好きな前世の国民性を見た気がした。まぁ、メアリーが聞かなければ俺が聞いてた。流石は知りたがり民族の同郷だな。
「最近ノ若イ子二ソウイウ子ガ多イケド……タイテイハ教養? ッテノガ足リナイ……ソウ!!馬鹿ニナルヨ?」
曰く、自尊心が先んじて甘い話に嵌ったり、考えること自体を嫌って好き放題して周囲に迷惑をかける。らしい。
「「あぁ……」」
きっとメアリーも脳裏に俺と同じ言葉が浮かんだのだろう。酷く納得したような声が同時に響いた。
ゆとり、か。
どうやら妖精の世界にもゆとり世代問題が存在しているらしい。
「ソラ、メア……なかよし?」
俺達のそんな様子にジョニーがひょこひょこ顔を覗かせる。そういえば俺とメアリーの事も心配してたんだっけか。
「うん? あぁ、最初から仲良しだぞ。なぁ、メアリー」
「……あぁ、そうだな。もちろんジョニーも仲良しだろう?」
「うん、なかよし!!」
一瞬だけ察しの悪さが見えたが、概ね満点の解答をしたであろう。おかげで我が家の太陽は輝きを取り戻してくれたようだ。よきかなよきかな。毛玉の押しくら饅頭状態とか、至高のもふもふだな。仲良しが一番だよ。
「それで、話を戻させて貰うとして……最初の儀式というのは?」
俺達の仲良しっぷりに釣られるように微笑むママ鳥が、ネージュリアさんにそう問いかける。
「ワタシガオオマカニヤッチャウカラ……名前ヲ、コノコニ"名前"ヲツケテアゲテ」
名付けか。以外に簡単だな。ママ鳥は少しアレな所があるし、ここはひとつ俺が考えて――
「「…………」」
不意にぶつかる視線。
そこにある熱意は計り知れない。だが、それは俺とて同じ。
どうやら仲良し関係は短かったようだな、メアリー。
あと1~2話で終われそう。
本当はこの名前付けだけの予定だったのにね。不思議だね。
活動報告にも挙げさせて頂きましたが、更新速度を上げてお送りさせて頂きます。
お読み頂きまして感謝!! ぺんぺん!!




