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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第二章 ペンずる者は掬われる
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ペンずるより産むがやすし 10

お待たせしました。

 


 ――まったく世話の焼ける姉サマだよ。



 ぶっちゃけトークに発狂もといプチギレしたメアリーと、ひとしきりじゃれ合う程度の戯れに興じた後に笑い合う。まるで青春漫画のようだなんて頭の片隅で感じながら、転がされた俺は、さて……と起き上がる。



「帰る、か……おい、そんな露骨に嫌そうな顔をするなよ。いい加減覚悟を決めろ」


「そ、そうは言ってもだな。気持ちの整理がまだ付かないんだ……だって、その、ほら……ぶちまけてしまったというのもまだ尾を引きずってだな」


「その件に関しては開き直っておけ、本人も気に止めてない。引きずってるなら尚更だ」


「理論派は嫌いだぁ」



 もじもじと身を捩るひよこ姿は可愛らしいが見慣れた身としては、甘い事を言う気なんてない。ばつが悪いってのは何となく解るが、それはそれだ。



「ったく……あと5分だけだぞ?」


「……助かる」



 まぁ、結局、甘やかしてしまう訳だが……


 謎の岩オブジェを前に座り込み安堵の息を漏らすメアリーに、まったくと溜め息を零しながら俺は適当に辺りを見る。


 本当に静かで良い場所だ。熱くもなければ寒くもなく、湿度もちょうど良い。何処からさざ波のような音と共にゆっくりと吹き抜ける風がクチバシを撫でて――



「メアリー、5分だけ待ってやると言ったな?」


「え、それがなんだい?」


視線は顔ごと首ごと変えることすらせずに、俺の思考は回転のギアを上げる。


「あれは嘘だ」


「ふぁっ!?」



 そう言うや否や、俺は全力で(もっ)てメアリーの身体を押して走る。勿論、拒否なんてさせない。



「くぁwせdrftgyふじこlp」


「バグってる所悪いんだが、こればっかりは本気だ!! いいから振り返らず走れ!!」



 何かよくわからない言語でピヨるメアリーに活を入れて俺は一瞬だけ振り返り、今見たものを改めて見た。



 木々の向こうに垣間見える緑色の枝らしき存在がシャカシャカと音を立てて俺達に向かってくるのを、だ。



「ひぎぃ、やっぱり見間違いじゃねぇ!!」


「ひぎぃとはこれまた、いったい何が――」



 喉の奥からせり上がって零れた悲鳴にメアリーも振り返り、見た。



 木々の向こうから迫る緑色の枝……のように見えるがその正体は小さなカマキリ。それが俺達を追い掛けて来ているのだ。



 数え切れない程の数で。



「ひぎぃ」


「オラオラさっさとダッシュだ!! なんならお前を餌にして置いてっていいんだぞ!?」


 黄色い顔を青ざめさせる器用な真似を見せながらも足を止めなかったのは誉めてやるべき所か。生き残れたら誉めてやろう。


 俺も生き残れたらジョルト師匠に感謝だな。走り込みだろうともっと真面目に打ち込もう。だから、神様助けてください。



 ◇ ◇



「フェニス様!! 大変です!!」


「ヒメモリ……?」



 湖の和やかな昼下がりは一変、突然野鳥達が湖に声を上げながら大挙してきた事に、私は先頭に立つ彼の言葉を待つ。余程急いで来たのか、身体全体で息をする彼に嫌な予感を覚えながら――



「こ、黒岩付近にてキラーマンティスの幼体と思しき大群を発見!! メアリー様達が追われて――」



「フェニス、先に行くぞっ!!」


「おじい!! ジョニーもいく!!」



 私が飛び出すより先に、森のなかへと疾走するふたりの姿に一瞬だけ安堵し、冷静になれた。



「フェニス、キュウヨウ?」


「キュウヨウ?」


「えぇ、"せっかく来てくれたのに"悪いわね」



 そのおかげで、今し方遊びに来た彼女の事を忘れずにいたのだから――



「悪いけど手伝ってくれるかしら? ネージュ」


「イイヨー!!」



 氷の妖精王は、私の頼みに軽ろやかに声を返した。



 ◇ ◇



「ダラッシャァッ!!」



 すぺん!! と鳴る音と共に潰れる小枝サイズのカマキリ達。切り傷に痛む身体を気にしなくなってどれだけ経っただろうか。


「クソッ、経験値にならねぇとか辛いぞ」


「産まれたてだからか……でも私の方は多少入ってるようですけ、どっ!!」



 黄色い翼が薙払(なぎはら)われる度に巻き起こる風の斬撃が何体もの子カマキリを切り刻む。それでもその穴は埋められる訳だが……


 結局、湖に着くより先に追い付かれた俺達は緑の絨毯(じゅうたん)と化したカマキリの群れに囲まれてしまったわけだが――



「ソラさん。悪い知らせと良い知らせ。どちらが聞きたいです?」



 厨二している余裕すらなくなったメアリーが、そんな問いを背中越しにかけてくる。同時に飛びかかる子カマキリを翼で打ち払いながら俺は鼻で笑ってみせた。



「悪い知らせからで頼む。それと追加注文でいつもの口調で頼むぜ姉サマ。調子が狂うんだよ」


「ふふっ……実はもう風が私の翼にあまり応えてくれないんだ。これがMP切れというやつかね、愉快っ!!」


「そりゃ、愉快だねっ!!っと、良い知らせは?」



 肩に突き抜ける痛みに、子カマキリの鎌が突き立てられている事に気がつき、クチバシでひっこ抜く。御陰様で真っ白な羽毛が血で台無しだ。



「遠くに援軍が見える。カマキリのね……恐らくその方角に親玉がいるのだろう」


「高みの見物か……ファッ○ン」


「あれを倒せば引いてくれたりはしないだろうか?」


「ありがちだけど、それはさせてくれそうにないな」



 つまり、どっちも悪い知らせじゃねぇか。


 しかしこれだけの数がいて尚、カマキリ団子状態にして来ないかと思ったら、どうやら性格のねじ曲がった司令塔がいるらしい。その御陰で今も元気に死にそうなわけだが。



「とにかく、俺達はヒメモリさんの活躍に期待だな」


「ヒメ……あぁ、ハトの偵察隊長か。あれから一時間くらいはしたかい?」


「さてね。もう一日中戦ってる気がしてきたよ」



 逃走中に運良く発見されて援軍を要請したけど、多分まだかも知れない。緑の絨毯が目印なんだがね。



 と、不意に全方位から子カマキリが飛び交って――


「メアリー、飛べっ!!」


「承知!!」



 背中越しに感じる気配の消失に、俺は痛む身体を引き絞る。さながらペンギンの雑巾絞り状態か。



 十全(じゅうぜん)たる捻転(ねんてん)から繰り出される両翼の回転が、俺達を屠ろうとする子カマキリを一掃する。


 逆水平チョップスキルツリーがひとつ。【アラウンドワールド】である。



 コマのように回りながら蹴散らす事には成功したが、如何(いかん)せん目が回る。選択を誤ったか。着地するメアリーがついでに翼で討ち漏らしの子カマキリを両断する。



「隊長。周囲一帯まだまだカマキリだらけでした。どうぞ」


「偵察乙。知りたくありませんし知ってます。どうぞ」



 まだ冗談を言える余裕があるのか。自棄なのか。少なくとも俺達の危機はまだまだこれからなようだ。打ち切りはよ。



「初めての共闘だけど、なんとかなるものだね。まだまだいけそうだ」


「そうだな。まぁ最初で最後にならんように……いや、あまり後ろ向きな発言はやめようか」



 実は先程から右翼の感覚が鈍いけども、モチベーションを下げる訳にはいかない。何か気の利いた言葉は、そうだな……



「この戦いが終わったらゆっくり飲み交わそうぜ」


「死亡フラグ臭いんでやめてくれませんかね!?」



 解せぬ。せっかくコミュ障の為に歩み寄ろうとしてるのに。



「よし、メアリー。あれだ、覚醒しろ。そういうの好きだろ? いつでもいいぞ」


「無茶振りっ!! そりゃ私も大好きですが!!」



 声を掛け合いながら、身体が重くなってくるのが解る。まるで沼に沈んでいくように、反応も一瞬だけ遅れている気がする。


 恐らく、メアリーも限界が近い。背中にかかる重さが次第に強くなっているようで、まだ……生きてるよな。



「……メアリー?」


「……私はまだ、謝ってないんです」



 血濡れで、汗塗れで、泥塗れで、俺達はそれでも言葉を交わす。しかし、メアリーの声に震えが混じっていた。



「お母さんに、ジョニーに、お爺さんに、ごめんなさいって……だから、だからこんな所で、死にたくない……!!」


「……だよな」



 懺悔にも似た声を背中に聞きながら、不意に後悔にも似た気持ちが浮かんだ。


 こんな事なら、神様に楯突いて反チートじみた能力の称号を与えられなければ良かったのかも知れない、と……


 つまらないプライドで、メアリーが死ぬくらいなら。俺は――



「……クソ食らえ、だ」



 ウンザリするほど執拗(しつよう)に飛びかかるしか能のない子カマキリへ、八つ当たり気味に感覚のない翼を叩きつける。いつからか小さな鎌が刺さったままの翼は真っ赤に濡れ、乾きすらしてる。



「ソラ、さん……?」



 都合が悪くなったら、神様頼みか。まったくお笑い草だ。もしも、たられば、なんて弱気になってる場合じゃない。今ある物で勝負しなきゃいけないんだから。



「メアリー。まだ走れるか?」


「うん。だけど……」



 取り巻く子カマキリ達が俺達を威嚇するなかで、俺は初めて攻勢に移る。



「いちにのさんで行くからな。もしもここを突き抜けても、振り返るなよ」


「ソラさん。いったい何を――」


「いいから走れ。とにかく、お前は走れ」



 まったく、出来の悪い物語になったな。俺のペン生ってやつは。たったひとり、救えるかどうかも判らないってか。


「いち、にの……」



 踏みしめる一歩に意識を強めれば強めるだけ身体が痛みに、鳴き声を上げる。先走って迫る緑色の(ことごと)くを打ち払いながら――



「さんっ!!」



 俺達の両脇を、青の軌跡が通り抜けた。本能的な恐怖に身体が硬直し、おかげで前のめりに倒れる身体。その上にメアリーがつんのめって倒れ込んできた。



「メアーッ!! ソラーッ!!」



 両サイドから感じる寒気に唖然とする俺の耳に聞こえた声は、間違えようもないあの元気な声は――



「私達。助かった、の……?」


「そうみたいだな」



 肩透かしもいい所だが、贅沢を言ってる場合じゃないのも確かだ。


 俺達を取り巻く半透明なドーム状の何か……恐らくママ鳥の障壁(バリア)に包まれながら、ようやくの援軍に身体から力が抜けていく。



「すまん。遅くなった……が、まだ終わっておらんよな?」


「もちろんです。師匠、あとは頼んでも?」


 老体に鞭を打つレベルだろうに、全力で走って来てくれたのか。身体から湯気を立ち上らせても尚、力強い笑みを向けてくれるジョルト師匠に俺は翼で軽い敬礼をしてみせる。



「あぁ、任せ――」


「お、お爺さん!!」



 行こうとする背中へかかる声に、ジョルト師匠の肩がピクリと揺れた。しかし、振り返らず立ち止まる師匠へと――



「あの、助けに来てくれて……ありがとう、ございます。それと……ごめんなさい」


「儂は、儂も……その、散歩に来ただけじゃ!! 勘違いするでないわ!!」



 そう言うや否や害虫駆逐に走り出すジョルト師匠。その余りにも酷い照れ隠しに俺の中での師匠株が再び暴落を始めた。本当に酷い。底値が見えねぇよ。



「ツンデレなんだ。頼むから気にしないで欲しい」


「……初めてツンデレを生で見た」



 俺の上で関心したように呟くメアリーが気にしてなくて良かったと思う。




 あと、いい加減退いてくれませんかね。


メアリー派、紳士様よりレビュー頂きました!!

ありがとうございます!!



御陰様でブクマが増えたよ、やったね!!←


本当に閑話レベルの長さじゃなくなった件について。


読んでくださってる皆様に感謝!!

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