ペンずるより産むがやすし 7
わびさび連投2話目
どうしてこうなったのか。
「ルールは簡単。この湖の端から端までを誰が最初に渡りきれるか、という勝負よ」
湖の岸部に並んでママ鳥からのルール説明を聞く俺達。更に周囲には件の事件とは関係ないらしい野鳥達が見学しているようだ。
ちなみに参加者は俺、ジョニー、メアリー、ジョルト師匠の四人……三羽と一人である。
「俺は手堅く拳聖にアプルの実ひとつ――」
「私はあの力強いお身体をされているジョニー様に――」
「分かってないな。メアリー様の翼があれば――」
「体力的にジョニー様が――」
「年の功で拳聖――」
「メアリー様――」
ざわざわと聞こえるトトカルチョの内容に、はて? と俺は疑問を覚える。
「なんだかよくわからないけど、私はソラ様に――」
「やめておけ、言ってはなんだが……あの可愛らしいだけの身体付きでは――」
おぅ、そこの鳥。そのツラ覚えたからな。
誰がプリティオンリーボディだ、ありがとう。というか前に泳いだ時の姿を誰も見てないのか?
その疑問と同時に、今更ながらペンギンというのはこの辺りでは稀少な存在かも知れないという事実に気がつかされた。
種族的にいえば俺はミニペンギーとかいう種族らしいが、やっぱり寒いところにいるのかな。ここら辺は温かいもんな。
「きょうそう!! きょうそう!!」
「明らかに出来レースじゃないか……」
「心してかかってくるが良い……」
いつも通り脳天気気味に楽しげなジョニー、事情を知りすぎて暗くなるメアリー、ラスボス臭を漂わせるだけのジョルト師匠。三者三様に意気込みを口にするのを聞きながら、俺は空を仰ぐ。
あぁ、空が青いなぁ……
「行くわよ。用意……」
明日は、筋肉痛で稽古か。
「はじめっ!!」
ママ鳥の声を聞きながら、俺は湖へと倒れるように身体を投げ出した。
全力、前進……っ!!
◇ ◇
我ながら、勝負事には熱くなってしまう。こればかりは歳を取っても治らん性質らしい。
ひょんな事から始まった競泳会。
昔はよく野山の川辺で"川魚のジョルト"と名を馳せた物だと、懐かしい記憶が蘇る。
改めて見れば驚く透き通る水の中、穏やかな静寂の中、儂はひたすら真っ直ぐ進むように手足を踊らせた。
若き頃よりも肉は落ちたが、だからこそ水を速く進めるようになった気がする。呼吸もまだまだ止められる。まだまだ儂の我が儘に全身が応えてくれる。
そう、拳聖グリアルド拳闘流。我が流派は"流れ"の流派ぞ。
それは水中でも変わりはない。むしろ空気より掴みやすい水であれば、水中こそ真骨頂とも呼べるやも知れぬ。
じゃが、ソラ達相手には流石に大人げなかったかの。気がついた頃には既に湖の半分程まで来ておったが……どれ、小童達はどこまで来ておるか。
あまり視界の効かぬ水中より水面へ顔を出してみれば、やはり黄色い毛玉のような姿がふたつ。儂の半分にも満たぬ所を泳いでおった。
恐らく、背の向こうに派手に水を立てているのがジョニーであろう。メアリーは……風術を使っておる様子。ほほっ、なかなかに賢いな。それに力で対抗するジョニーもまた見事。
しかしながら、はて……ふたりの前にも後ろにも、あの"白き毛玉"は見えぬ。ソラは、いったいどこに――
「そこまでっ!!」
「……あ?」
水面に顔を出していたおかげか。しかし儂が対岸に着くより先に聞こえたフェニスの声は、まったく予想も合点のいかぬものであった。
しかして、声のした方向へと視線を向ければ、見覚えのある白き姿が――
「ソラ、はやい……!!」
「だから、出来レースだと……」
「どういう、ことだ……」
我を失う内に距離を詰められていたのか。メアリーの言葉の意味が解らなかった。
遅れて、野鳥達も驚きの声を上げているのが聞こえる。少なくとも、フェニス達にそれがない事に儂は気付く。
「ほら、ソラさんは水中特化のペンギンですからね。所詮、魚雷相手に適うはず……あっ」
「水中、特化……だと?」
メアリーからの言葉に予感は確信へと変わる。まさか、フェニスはこれを知っていて……?
「え、あの……ジ、ジョニー、行くよ!!」
「メア、まってー、つかれたー」
ざぶざぶと通り過ぎるふたりに、儂はしばしその場で流木のように漂うしかなかった。
かわうおのじょると(笑)
誰もが予想していたであろう展開。だからこそ面白く書くのが難しい。
そして閑話なのに二章を越えそうなボリューム。これ、まだまだ続くんだぜ?
ここまでお読み頂きありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝!!




