ペンずるより産むがやすし 4
ジョニーは落ち込むメアリーを元気づける為に、俺はメアリーとジョルト師匠の仲を改善する為の計画を実行する。
日が変われども、ふたりがお互いを避けているのは一目見ただけでわかる。メアリーは可能な限り距離を置き、ジョルト師匠は一歩でも距離を縮める事を出来ないでいる。
やはり、メアリーから歩み寄らなければ何事も始まらない……と、簡単に考える事は出来るが――
「さぁ、みんな準備はいい?」
家族のプライベートジェットと化したママ鳥がみんなに声をかける。
ちなみにママ鳥には計画の概要説明をしている。勿論、ジョニーと話をした全てを明かすのは彼女にとっても残酷な問題があるので一部割愛させて頂いたが……
ママ鳥としても娘と戦友の不仲は頭を悩ませる問題だったらしく、こちらの誘いに快諾。ただ、可能な限り首を突っ込むべきではないと穏健派な意見を頂いた。
「……お母さん、どこに行くの?」
前回のピクニックとは違い、乗り気ではないのか、なかなか起きてくれなかったメアリーがテンションの低い声色で問いを投げかけていた。改めてその様子を見るが、まさか付いて来ないのではないかと思う程に凹んでいる。早速、計画の破綻が垣間見えた俺は肝を冷やす。
勿論ジョニーは計画に関係なくピクニックに賛同するし、俺なら諸手を上げて賛同する。だって修行が休みなんだからな。毎日がピクニックならいいのに。
「妖精の様子を見に湖に行くのよ。メアリー、妖精好きでしょ?」
「……うん」
少しでもメアリーの興味を引かせるように話すママ鳥は楽しげだ。たまの休養を家族と過ごせる喜びに声を弾ませながら――
「妖精じゃと!?」
投げ込んだ餌に食い付いたのは爺、もといジョルト師匠だ。なぜか頭が痛くなった。どうしてあんたが釣れるんだ。
「よもや再び妖精を見られる日が来るとはな。フェニスよっ!! そやつは強いのか!? 精霊とまではいかぬからそうでもないか」
「えっと、産まれたばかりだから――」
ジョルト師匠には計画の事を触りだけ伝えたが、出だしからポンコツっぷりを見せられると思わなかった。しかも、戦闘凶かよ。せっかく寄ってきたメアリーが引いてしまったじゃないか。
「師匠。詳しくは道中で、今は――」
「む? しかしだな」
「せっかくなので、師匠の武勇伝も交えて妖精のお話が聞きたかったのに……残念です」
「ほぅ、仕方のない奴だ。そこまでせがまれては話すより他ない。まったく仕方のない奴だ」
残念だ。本当に残念だよジョルト師匠。空気が読めないのは、流れをナントカっていう流派の人には致命的な問題だよね。歳を取りすぎたのか、本当に残念だ。
「どれ。では、先ず何から話そうか。怒りに染まった妖精達その数、なんと10体との戦いの話に――」
道中って言っただろうが。まだ待てだ。ステイ、計画の事がなければハウスまであるぞ。
存外簡単にポンコツ師匠の興味を引く事に成功した俺は、一瞬だけ視線をジョニーへと送る。そっちを頼むと。
「メア、いかないの……?」
「いや、行かないとはまだ――」
「ジョニー、メアとあそびたい。ちゃぷちゃぷしたい……」
「……分かった。分かったからそんな顔しないで」
メアリーも大概ちょろいよな。ジョニーの無自覚な策略が功を制したともいえるが。あれはずるい、俺だって断れん。
「――そもそもの原因はドワーフ達の鉱脈を侵略した人類にあった。弁解させて貰えるならば、その時は人類側にも事情があったのだ……」
「そうだったんですね。大変な時代でしたね……マザー、そろそろ行かない?」
「そう、大変な時代だったんじゃ……あの頃は。私腹を肥やすだけの貴族と、飢える民、思想だけで財力の伴わぬ国……地獄のような時代じゃった」
「そうだったんですね。大変な時代でしたね……」
おい、ママ鳥。まさかこの状況を楽しんでないか? ニヤニヤして見てないで早く出発しようぜ。
「おぉ、分かってくれるか? 最近の若い奴らは耳を傾けようとすらしないのに、まったく嘆かわしい……腐敗にも似た緩やかな平和が誰の手によって作られたのか。先人を敬う事を忘れ、あまつさえ足蹴にしようとは……」
「そうだったんですね。大変な時代でしたね……」
「…………」
ほら、メアリーもこっちを見てる。お爺ちゃん、お話は飛びながらしましょうね?
◇ ◇
「――王国には、苦情の決断だったといえよう。今は道を違えたが、あの頃の儂も若く、全ての民を救えるとひたすらに拳を打つしか能がなかった。武で望めば、武で返される事は必然であったのにな……」
「まさか、そんな事が……なんて大変な時代だったんだ」
長ぇ。まだ続くのかよ。メアリーの比じゃねぇぞお爺。それとママ鳥、絶対ゆっくり飛んでるだろ。俺の目を誤魔化そうとしても無駄だ。
「メア、どうしたの? げんきない?」
「あ、いや……大丈夫」
先程からこちらをチラチラと見るメアリーに心中で詫びる。うちの師匠が五月蠅くしてすまないね。なんか久しく昔話を話せる事が嬉しいらしくてね。ほら、たまにぼっちだった事を仄めかす人だからさ。
「ソラ。聞いておるのか?」
「聞いてますよ? ほら、見てください。師匠達がいたお陰で世界は今もこの姿を保てているのでしょう。有り難い事です」
「そう言って貰えるならば、あの頃の儂達の働きは……ぬ? ここは人の手が入らぬ未開の土地じゃぞ? 儂等の活躍は――」
「師匠。師匠ならお分かりになるでしょう。無作為に人類と魔物達が争いを続けていたならば、ここはありませんでしたでしょう」
「成る程……」
良く回る舌を駆使して、さもそれらしく振る舞う俺にポン師匠もといジョルト師匠は感慨深く頷く。
ごめんね、師匠。本当はだいたい聞き流してるんだ。でも、要所要所聞く限り妖精要素ほとんどなかったな。まぁ、明日からまた修行頑張るから今回はこれで許してください。
「さぁて、もうそろそろ着く頃でしょうか。ねぇ、マザー」
「ふふっ、そうね」
恨みがましさを言葉に載せると、やはりママ鳥はわざとやってたらしい。お茶目が過ぎるわ。




