表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第二章 ペンずる者は掬われる
50/139

ペンずるより産むがやすし 2

○ロ描写がありますのでご注意ください

 


 走るジョニーの背に乗るメアリーを羨ましく思う俺だったが、その思考を中断せざるを得ない事態が訪れた。



 ぽたりとひと粒、鼻先を打つ水の一滴。


 おや? と思えばまた一粒、一粒。



「むぅ、ついに降り出しおったか」


「そのようですね」



 次第に数を増やし、ぱらぱらと静かに巣を打ち付け始めた雨に、俺も師匠も曇天を見上げた。


 恐らくこの降り方、通り雨……ではなさそうだ。


 前世での経験則が役立つかはさておき、雨である。



「な、なんかきたっ!! つめたい!!」


「落ち着けジョニー!! これは雨といって――」



 そういえば、ジョニーは産まれて初めての雨だったか。驚くのも無理はない。


しかし、余程びっくりしているらしくバタバタと走り回る様は、まさにロデオ。上から下へ前後左右に身を振るジョニーに振り回されるのは、言うまでもなく上に乗ってるメアリーだ。



「ジョ、ニー。 お願、だか、とま――」


「なにこれ!! なにこれ!!」



 鞍は元より両翼でジョニーの首もとにしがみつくだけのメアリーは見るも無惨という訳だ。下手に近付こう物ならジョニーに跳ね飛ばされるし、どうしたものか。



「まったく、骨の折れる……」


「師匠……?」



 身を打つ雨のなか、濡れる身体を(いと)わずにロデオジョニーのもとへと歩み出す。枯れ木のような背中だが、大きく見えたのは気のせいなんかじゃない。


「だれ、か……たすけ……」



 いよいよ力尽きようとしているのか、暴れるジョニーの首からメアリーの翼が離れようと――



「ふんっ!!」



 重く響き渡る気勢と共に巣が震える。単に師匠が巣を強く踏みしめただけだったのだが、老体が出来る芸当でない事だけは確かだ。



「ぴぎっ!?」



 パニックを起こしたジョニーも、この突発的な振動に驚きを上書きされたのか。びくりと身を竦ませて、一瞬だけその動きが止まる。


 それだけで、その一瞬だけで、事は終わった。



「……無事か?」


 踏み込みから一息に跳躍して、ジョニーの上からメアリーを颯爽と(さら)ったジョルト師匠はそう呟く。ヤバい、ジョルト師匠超カッコイイ……!! あんな漫画みたいな真似をするだなんて最高にクールだぜ……!!


 これはコミュメアリーもイチコロだろう。少なくとも俺は、もうイチコロだ。



「もう、ダメ……」



 ジョルト師匠の肩に担がれるメアリーが掠れた声で呟く。あぁ、やっぱりジョルト師匠の勇姿にやられたか。無理はない、俺だって――



 ごぱっ。



 メアリーの口から放たれた音と共に吐き出された物体が、ジョルト師匠の背中を伝って落ちる。


 ごっぱごっぱと一通りのブツを吐き出し終えたメアリーは、眠るように気絶した。



「…………」


「…………」



 未だに騒ぐジョニーの声と雨の音をBGMに、俺は果実の極彩色に染まるジョルト師匠の背中を見ているしか出来なかった。


 まぁ、あれだ。


 雨降ってて良かったっすね。洗う手間、省けてさ。


 俺だったらそこからパワーボムでも仕掛ける所を、ジョルト師匠はただただ立ち尽くすだけだった。



 ◇ ◇



「そう、そんな事があったの……」



 未だに止まぬ雨のなか、メアリーがヒロインではなくゲロインになった直後に帰ってきたママ鳥は、事の顛末(てんまつ)を聞き終えてそう口にした。


 今はすっかり落ち着いたジョニーと、眠るメアリーはママ鳥の大きな翼で雨宿り。


 裸族ペンギンの俺は、今は裸族人間のジョルト師匠の隣で大自然のシャワーを浴びている。ペンギンだから濡れても大丈夫だし、愚姉の不始末に対する戒めでもある。酸っぱい匂いの着流しを洗うという苦行の真っ最中なのだ。



「あの、師匠。しつこいようですが、怒ってます、か……?」


「何度も訊くな。怒ってなどおらぬ」



 手で撫でるように自分の身体を洗うジョルト師匠が言うように、何回目かの同じ問いを投げる。


 怒ってないと言いながらも漂う雰囲気は明らかに怒っている。こういう時はどうすべきか。師匠、師匠の身体って枯れ木みたいですけど……へへっ、そこは大木なんですね。却下。間違いなく殺される。



「私からも、悪かったわねジョルト。どうしたら機嫌を治してくれるかしら?」



 ママ鳥でさえ、ジョルト師匠の機嫌が解るのだ。いや、ママ鳥が鈍感という訳でもないが……



「儂は、怒ってなど……」



 繰り返される言葉が、不意に途切れた。曇天を見上げたまま、ジョルト師匠は濡れた前髪を掻き上げて、そこで深い息を吐いた。ヤダ、イケメン。



「怒っておるのは、浅はかな自分に……かの」


「師匠……?」



 自嘲混じりにも聞こえる言葉の意味が、俺にはよく解らない。そんな心中の疑問に答えを出すように、師匠の口から言葉が紡がれ始めた。



「好みを与えれば、危機を救えば、恩を与えれば、人は……子は懐く。そう、思っておった。しかし、どうじゃ? 打算的な心のまま動いた結果、儂は打算にまみれた飯の吐瀉物(としゃぶつ)を引っ掛けられた」



 そこまで深い話じゃないんだけど、突っ込める雰囲気ではなさそうなので俺は形だけ神妙な面持ちで次の言葉を待つ。



「子育ては難しいの。フェニスよ、儂はそれを改めて知らされたぞ」


「えぇ、簡単にはいかないのよ。殺し合いなんかより余程、ね」



 あっ、はい……え、それで終わり?



「見よ、ソラ。雨が終わるぞ」


「ウワァ、キレイダナー」



 雨雲を裂くように差し込める日の光が、森へと降り注ぐ。確かに感動的な光景なのだが、なぜだろう。綺麗に終わらせた的な空気をひしひしと感じる俺は素直にその光景を見ることが出来なかった。

50話目にメアリーがゲロインとかry

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ