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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第二章 ペンずる者は掬われる
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閑話 えがおのかげ

 


 九流芽(くるめ) 亜梨栖(ありす)という女の子の人生は案外、呆気のない終わり方だった。そう、思う。



 運悪く風邪を引き、運悪く肺炎を併発し、運悪く死んだ。 ただ、それだけ。



 彼女の最期に思った事は――



 あぁ、"よかった"。



 ――だった。



 意識と痛みが抜けていく感覚のなかで、それだけは覚えている。



 やっと、終われた。



 お姉ちゃんと違って亜梨栖は――


 

 私を見てくれない両親との関係が終われた。



 亜梨栖って、お姉ちゃんと違って空気読めないよね――



 私を認めない人達との関係が終われた。




 亜梨栖のせいで、私が恥を掻くのよ――




 私と同じ姿をした、私より数分早く産まれただけの人との関係が終われた。



 今にして思えば、ただ少しだけ残念なのは、あの漫画達の続きを見られなくなる事だろうか。


 苦しみしかない世界のなかで唯一、彼女(わたし)を救ってくれた小さな世界の数々をもう少し見たかった。



 努力は必ず報われる世界。眩しいくらい幸せな世界。皮肉な程、素敵な世界。



 叶うなら、そんな本当に世界があったとしたら、生まれ変われるのなら――



 彼女(わたし)をどうか、(アリス)をどうか、救ってほしい。



 ◇ ◇



「う、ん……」


 微かに身体を撫でる風に、私の意識はゆっくりと浮上していく。その時、胸の奥で何かが引き裂かれるような鈍い痛みに、思考が微睡みから抜け出そうとする。



 ――私、は……?



 瑠璃るり色から目覚める澄んだ空が、徐々に私を思い出させる。



 そうだ。私は、もう亜梨栖(わたし)じゃない。



 私はメアリーだ。ひよことして生まれ変わったメアリーだ。"今度こそ"、愛情をくれるお母さんと可愛い弟のお姉ちゃんである――



 鮮明になっていく思考が不意に、意識の消える直前の光景を脳裏に映し出した。



 異様なキラーマンティスの鎌を振り下ろされる、可愛い弟の姿を。



「ジョニーッ!!」



 そうだ。あの子はいったいどうなった。私を助けようとしてくれた優しい弟は。



 飛び起きて辺りを見回すより先に、記憶よりも大きく感じる黄色い真ん丸毛玉がすぐ隣にある事に気がつき、安堵の息が漏れた。


 その身体が微かに上下するのを見届けて、違和感に気がつく。



「やっぱり大きく……いや、これは、成長してる、の?」



 元々私よりも身体の大きな弟のジョニーだったけれど、明らかに私が意識を失う時よりもひと回りは更に大きくなっていた。恐らく、私が乗っても余裕があるくらいには。



「メアリー。目が、覚めたようね……」


「おかあさん!! 見て、ジョニーが大きくなったの!!」



 私の名前を呼ぶ声に、振り返りながら喜びの声で返す。私達の身を案じてくれていたのか、お母さんはすぐそばにいてくれた。お母さん、大きいから一瞬だけ壁かと思っちゃったけれど。



「えぇ、よかったわね」


「うん!! あ、それとありがとう。お母さんでしょ!? ジョニーを助けてくれたのって」



 多分、いや絶対にそうだ。そうに違いない。私もどうかしようとしたけど、凄く強いお母さんならなんとか出来る筈。いや、なんとかしたんだろう。



 そう思う反面、疑問が頭を掠めた。



 私は、何かした……? 私もジョニーを助けよう、と――



「……えぇ、私達がジョニーを助けたのよ」


「達……?」



 その言い回しに、他に誰がいるのかと思考が抱いてた疑問から逸れていく。


 もしかしてソラ、さん……かな。


 私と同じ世界にいたらしい。私より長くあんな世界(じごく)を生きた人で、今はペンギンとして楽しく過ごしている人。だけど、あの人がそんな窮地に何か出来るほど強くは……



 ともすれば、思い当たる節に心が堅くなるのを感じた。



 あの時、ひとりの人間がいた。



 お母さんの友達で、凄く強いお爺さん。お母さんに怪我を負わせた……少し嫌い、いや苦手な人間。私も人間だったけど。だからこそ、どうやって接したらいいか解らなかった人……あの人が?



「目が覚めたか、娘」


「っ……は、はい」



 突然聞こえる声は、まさに今考えていた人の声だった。驚きに身を竦ませて視線を向けると丁度お母さんの身体の陰からこちらに歩いてくる所だった。


 背中に負っている真っ白くてふわふわした何かは……ソラさんか。なんでソラさんが背負われているのか。弟子だとかなんとかそういう話が関係しているのか。あまりにも情報の少ないなかでは察するに難しい。


 しかし、お爺さんは私をちらりと見ただけでお母さんの頭へと視線を向けた。別に関わるつもりもないけど、あからさまな雰囲気を感じて胸がざわつく。



「穴の方はなんとか塞がるようじゃ、流石は極樹といった所か。直す手間がなくて助かるわい」


「そう……」



 何の話をしてるのかな?



「穴……? お母さん、穴ってなに?」


「娘、それはお前――」


「ち、ちょっと私が頑張り過ぎてね!! 加減が難しくて巣が壊れちゃって」



 あぁ、なるほど。お母さんらしいというか。もしかしたら、いつかやるかもとは思っていたけど。



「フェニス……」


「話はソラが起きてからよ。そういう話よね?」



 また、何か話をしてる。ちょっと疎外感。それにしてもジョニーはともかく、巣が壊れたというのにまだ寝てるだなんてソラさんも少し脳天気な所があるなぁ。



 そういえば、昨日の戦いは結局どうなったんだろう。かなり苦戦を強いられたけどトドメはお母さん達が入れちゃったみたいだし……確認してみよう、かな?



「アンロック ステータ――」


「メ、メアリー!! えっと、お腹が空いたんじゃない? ソラ達が起きる前に食べてしまったらどうかしら?」



 不意に待ったをかけるようなお母さんの問いかけに、自分の身体を見下ろす。黄色い綿毛に覆われた身体から空腹を肯定する返事はない。


 ……と、いうかあれ? 私の羽根、伸びた? ぱたぱたと振ってみると、なんだかいつもより強い風の抵抗を感じる。これってもしかして……!!



「お母さん!! 私の翼、大きくなった!? 絶対なってるよね!?」


「え? あぁ、言われてみると……そうね。大きくなったと思うわ」


「むぅ……なんだか、つれない返事。良いもん、自分で確認するから。アンロック――」


「あら、メアリー!! 凄く大きくなってるじゃない!! 流石私の娘よ!! 凄いわ!!」


 

「ちょ、そんな大きな声出さなくても……」


 誰もそこまで大袈裟に誉めて欲しくなんか……でも、凄いって言われた。嬉しい。凄いって、私。えへへ。



 でも、お母さん疲れてるのかな? なんだか、いつもと雰囲気違う気がするけど。気のせいかな?



メアリーは悪い子ちゃいますので、色々思う所のある方は御容赦ください。


文字数10万突破!!

まだまだペン生はこれからだぜ!!

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