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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第二章 ペンずる者は掬われる
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パタつかせて現実

早速、募集にお返事来ました♪

ありがとうございます!

 


 結果として、最期の一撃がジョニーに届くことはなかった。



 間に合わない事を頭のなかで悟りながら、それでも駆け出した俺の視界に映る"幾つもの出来事"が、彼の窮地(きゅうち)を救ったからだ。


 初めに、薄く透明な壁がジョニーの身体を一瞬で覆い隠す。それが氷で、ママ鳥の力に寄る物である事は後に解ったのだが。


 次いで、カマキリの鎌が弾け飛んだ。視認出来た限りでは、一本の枝が投げ槍のように飛び、鎌に触れた瞬間にその鎌諸共(もろとも)、粉微塵に吹き飛んだらしいということ。そんな芸当が出来るのは、ママ鳥以外にひとりしかいない。



 そして、



「やめてぇぇぇぇっ!!」



 悲痛の叫び声が脅威の全て消え去った後に、周囲一帯に風を巻き起こした。


 いや、風だなんて生ぬるいモノではない……暴風だ。


 足を踏ん張るより先に身体を攫う暴風に、身体が遠慮なく転がされる。恐らく、ジョルト師匠が途中で捕獲してくれていなければ、きっと巣から豪快に放り出されて宙を滑空、着地点によっては死んでいたかも知れない。


 というか、ジョルト師匠はこんな暴風でも普通に直立不動出来るんですね。先の強肩といい、まさか人間辞めてませんかね? もしかしてこれが世界水準?



「師匠、ありが――」



 嵐が治まり、ジョルト師匠の腕のなかからいち早く抜け出した俺は、文字通り唖然とする事となった。 



 糸が切れたように倒れ込むメアリー。



その向こう側、彼女の前方から扇状に広がる形で、"何もかもがなくなっていた"。



 カマキリの遺骸も、ママ鳥の巣も、助けるべきジョニーさえも、全てが遠くに吹き散らされていたのだ。



「ッ……ジョニーッ!!」



 遥か彼方の空に透明な球体を俺が見つけるより先にママ鳥は飛翔する。羽ばたく度に加速するママ鳥の姿が見る見るうちに小さくなり、未だに落下していく木枝達の雨のなかを無視してひたすら真っ直ぐにジョニーを目指して飛ぶ。



「これが、凶極鳥の娘の……ひよっこが持つ力じゃと……?」


 大きく(えぐ)られた巣を見ているのだろう、ジョルト師匠の呟きに震えが混じっているのを聞きながらも、ママ鳥がジョニーを救出する姿に安堵の息を漏らした。



 ◇ ◇



「フェニス。その娘は……危険じゃ」



 その夜、未だに目を覚まさないジョニーとメアリーから離れた場所で、ジョルト師匠はそう切り出した。明るい星明かりの下といえども、その表情を(うかが)い知る事は適わない。



 危険。



 どうにもあれから思考がうまく働かない頭で、その言葉だけが反芻(はんすう)する。厨二コミュ障のメアリーが危険? 何を馬鹿な事を……



「お主、本当にメアリーを育てられるのか?」


「…………」


「なんで、何も言わないの? マザー」



 見上げる姿は変わらない筈なのに、なぜか少しだけ……ほんの少しだけ、でも確かにママ鳥の姿は小さく見えた。



 大丈夫、私は出来るわ。なんたって私の子供なんだから。そして私が親なんだから。



 そんな、いつものような根拠のない自信に満ち溢れた声を思うのは、あまりにも簡単なのに。想像より現実のほうが酷く稀薄に見える。



「し、師匠。マザーは驚いてるだけですよ。ほら、俺だって色々と規格外じゃないですか?」



 今、喋っているのは……誰なんだろうか。胸の奥が凄く、冷たい。


 弱々しく響く声に、師匠は目もくれず。ただひたすらにママ鳥を見上げていた。



「……フェニスよ。お前、儂とやりあった時にどれだけの力を出した? 本気であったか?」


「っ……」



 唐突に変わる話に、初めてママ鳥が反応を見せた。本気とか、本気じゃないとか、どうしてそんな話を今するんだ?



「無言は肯定と受け取るぞ? では、どうする? 恐らく、いや確実にメアリーにはスキルが宿ったであろう。身の丈に合わぬスキルによる昏睡から目覚めた後、再びその暴走を止められるのか?」


「解っているわ!! そんな事!!」



 ()えるように叫ぶ声に、俺は驚かされた。突然の激昂だから、ではない。


 あの冷たさを持った殺意を感じた時よりも、それ以上に本気であろうママ鳥の叫び声が、大きいだけで弱々しく聞こえたからだ。



「解っている……誰に言われなくても、私が一番そんな事……!!」



 星明かりにきらきらと輝く水の飛礫を落としながら、ママ鳥は鳴き声を漏らす。初めて聞く声だった。心のどこかでは聞くことはないと思っていた、ママ鳥の泣き声だった。



「師匠。俺にも解るように話して欲しい。そのくらいの時間はあるだろう?」



 ひとり蚊帳の外だなんて御免だと、取り繕う言葉すら煩わしいと俺はふたりの間に入る。そうしてようやく初めて、師匠が俺を見た。視線の高さを合わせることなく見上げる師匠の姿は、なんだか(そび)え立つ大樹を見上げているようだった。



「……儂とフェニスが打ち合ったのを覚えておるな?」



 視線の高さはそのままに、ジョルト師匠はただ淡々とした口調で俺に問いを投げかける。


 俺の記憶へ鮮明に焼き付けられた光景だ、忘れる筈もない。


 ママ鳥が空から撃ち出す氷柱(つらら)に対して、真っ向から立ち向かうジョルト師匠の姿があった。一本でも取り間違えれば、巣に張り付けにされ、滅多刺しになるであろう攻撃に向かう姿に俺は感銘を受けて――




「あの時のフェニスの力を、先のメアリーの力は、遥かに凌駕しておる」



 否定の言葉も、思考も出来なかった。



 なぜなら、ママ鳥の力で撃ち出す氷柱は突き刺さる程度でしかなかったのに……



 メアリーの力の結果が、今も俺の後ろに広がっている大きく抉られた跡なのだ。それは、確かに証明されている事実だった。



おかしいな、コメディ書く筈なのにシリアスになる。

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