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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第二章 ペンずる者は掬われる
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パタつかせて流派

 


 拳聖グリアルド拳闘流。



 それは戦聖と呼ばれる強者達の中でも拳聖と(うた)われたジョルト師匠が編み出した技、スキルの総称らしい。


 本人曰わく、この流派の理念は『己の体で流れを知り、乗り、掴む』にあるとの事。


 一見、合気道のような受け手のカウンタータイプかと思われるが、そうではない。



 流れを知り、機先を制す事が出来れば先手必勝也。


 流れに乗り、力を借りれば無尽蔵也。


 流れを掴み、支配出来れば常勝也。



 要は、究極の柔よく剛を制す、というヤツなのだろう。



「ちなみに、これを考えるのに50年はかかった。そして、この理念を知ったのはソラ、お前が始めてだ」



 さり気なくぼっち宣言をしたジョルト師匠に涙が禁じ得ない。しかも、自身も未だその境地に至れていない事までぶっちゃけられるとは思わなかった。



 これは、きっと……あれだ。



 ぼく が かんがえた さいきょう の かくとうぎ 。というやつなのだろう。



「ソラよ。こうなれば儂とお前でこの流派を完成させようぞ!!」


「あ、はい」



 熱の入るジョルト師匠に置き去りにされた感のある俺は、気の抜けた炭酸のような返事しかできない。


 まぁ、完成してなくても、だ。話だけだと胡散臭い内容だったとしても、ママ鳥とやり合うまでは到達してるから究極に行き着く事も不可能ではないのだろう。少しモチベーション下がりはしたけど。



「そうだな。では、先ず基本的な拳の握りから入るとしよう。指に力を入れすぎぬように――」


「ししょー!! 手の指がありません!!」


「…………」



 ペンギンだからな。つか翼だからなこれ。ぱたぱた。見る? ほら、ね?



「ごほん。では鋭く伸ばした指先で空気を貫くように――」


「ししょー!! 叩くか羽ばたくくらいしか出来ません!!」


「…………」



 ペンギンだからな。多少は伸び縮みするけど、基本的にぱたぱたさせるだけしか出来ないからな。ぱたぱた。見る? だろ?



「ごほん。素早く腰を捻り、溜めた力を足先で前へ蹴り上げ――」


「ししょー!! 足がこれ以上、上がりません!!」


「…………」



 ペンギンだからな。翼の高さにすら届くか危ういんだぜ。てしてし。見る?ほらぁ。



 俺の動きをしばし眺めて、ジョルト師匠はゆっくり頷き――



「すべて……やれば、できるようになる」


「ならねぇよ」



 根性じゃなくて骨格の問題だっての。ついつい口調もキツくなったけど仕方ないよね。鍛錬にならないのも悪気あっての事じゃないと理解してください。



「むぅ、では、そうだのぅ……」



 ぶつぶつと呟きながら、自身の掌を握ったり閉じたりする。多分どうやって自分(にんげん)の動きを(ペンギン)用として伝えるべきか迷っているのだろう。


 俺なら放り出してるかもしれない。犬猫に芸を教えるというレベルの話じゃないのだから。それほどまで教え伝えたいのか。俺だって教わりたいし、伝えて欲しい。



「師匠。少しよろしいでしょうか?」



 目の前で翼を振り、思考の海を泳ぐジョルト師匠の意識を向けさせると、俺はその翼をしっかりと見せるように前へと出す。



「まずは私と師匠の身体の造り、その違いを実際に把握してはいかがでしょう」


「ふむ、確かに、成る程。随分と違うのだな。で、あるならば……」


「クェッ、し、師匠。そこはくすぐったいです」


「ほほっ、ここが弱点か。成る程のぅ」



 ジョルト師匠による触診プレイ。大の男ふたりが何をやってんだかと思うが仕方ない。師匠の指先が俺の肩へと回される。



「あぁ、そこは気持ちいいですね」


「ここは人と変わらぬのか。どれ、ここはどうかの」



 しばらく身体を(いじ)られ()ねられ、気がつけば触診はマッサージへ。強過ぎず、弱すぎない指圧が眠りへと誘おうと、その魔手を伸ばしてくる。


 抵抗はした。


でも、結果として魔手としっかり握手をした俺だった。


 その後聞くと、ジョルト師匠は指圧のスキルを手に入れたと子供のように喜んでいた。拳聖、それでいいのか。



 ◇ ◇



 日が暮れ始めると、俺達はママ鳥達と合流する。あっちの組はまだ昆虫との戦闘だった。本日の収穫は身体が軽くなった。毎日してもいっこうに構わない。



「ほぅ、デスマンティスの変異体を狩るか。流石はフェニスの子といった所か」



 感心するように声を漏らし、ジョルト師匠の視線は意味ありげにカマキリから俺を見る。俺にはとてもじゃないけど勝てない相手なんだけど、稽古の過程であんな化け物みたいな相手にも勝てるのようになるのだろうか。


 化け物というのも、今回はジョニーの身体の数倍はある大きさはある巨大カマキリだ。いつものようにママ鳥が用意したらしい。


体の節々から体液を滲ませ、幾つか傷を負いながらも代名詞たる武器、鋭い弧を描く鎌は未だ健在、しかもそれが左右に二本ずつあるのだ。


 つまり、巨大な四つ手のカマキリ。果たしてメアリーとジョニーは勝てるのか。固唾を飲んで見守るしかない。いざとなればママ鳥が瞬殺するだろうけど。



「お前ならどうやれる?」


「……あの鎌が厄介ですね。四つ手だから絶え間なく攻撃が来るので距離を取らないと」


「然り、だがしかし見てくれ以上に足捌きも達者だ。普通の徒手で勝つには難しい相手であろうな」



 看取り稽古感覚で考察を述べ、見解を交わす。うーん、勝てないと諦めてるせいか、自分が勝つビジョンが見えてこない。事実としても間合いの外からの攻撃手段も、懐に入り込む鋭さも今の俺にはない。



 一方のメアリーとジョニーのコンビは、ジョニーが前衛、メアリーが遊撃といった所か。伊達に姉弟をやっていないだけあるか、様になってはいる連携を見せている。力のジョニー、技のメアリーか。



「ジョニー、退避っ!!」


「おっけー!!」



 四本の鎌のうち、二本を乱雑に振り回して突撃するカマキリ。その進行方向から左右に飛び退くふたり。その際、メアリーの翼から風の刃が放たれたのだろう。微かにカマキリの身体に切り傷が生まれ、気を引きつけている。



 しかし、果たして上手くやれるか。カマキリに死角はないのだ。複眼による全方位が見えるヤツに後ろを取った所で――



「ジョニー!!」


「どーんっ!!」


 あらかじめ打ち合わせしていたのか。名を叫ぶだけでジョニーも行動を起こす。



 いったい何をするのか。



 最近ますます太く(たくま)しくなった両足でジョニーが強く巣を叩いた直後、"それ"は起きた。


 カマキリの下の地面……いや、巣が前触れもなく陥没したのだ。いったい何をしたのか。バランスを崩したカマキリがそれぞれの鎌を巣に刺して態勢を整えようと――



「【(ウインド)の――」


「ジョニー――」



 作り出した隙をふたりが見逃す筈がなかった。機動力を殺され、攻撃力も半分にされたカマキリの前後へと向けられる一撃。


「――一突き(スナイプ)】!!」


「――あたっく!!」



 メアリーのクチバシから放たれた風の槍が、カマキリの肩の関節を鋭く穿(うが)ち、鎌ごと片腕を宙に飛ばす。空いた空間にねじ込むように跳ね上がったジョニーがそこから体重の乗ったストンピングを腹へと見舞い、押し潰す。


 しかし、カマキリもやられてばかりではない。身体の固定に使っていた鎌を巣から外して転がる事でジョニーを振り解き、直後に鎌を使い巣を引っかきながらメアリーへと殺到する。


 片腕を失い、腹部を潰されて尚迫るその姿は否応無しに恐怖を感じさせた。腹を失っても動く執念の標的にされたメアリーは――


「っ……!?」


 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。彼女は足を引いた。迫り来る狂気に当てられたのか。自分の身と重ねて見ていた俺が声を上げるより先、動く姿があった。



「メアリーを、いじめちゃだめぇぇっ!!」



 飛ぶような勢いで走る一羽のひよこ、ジョニーだ。いったいどんな脚力をしているのか、枝木を蹴散らしながら走る勢いのまま、カマキリを横合いから跳ね飛ばす。


幸いにして一本の鎌が欠損してる側だからだろう、カマキリの迎撃も間に合わなかった。



 こういってはなんだが、不覚にも恰好良かった。ぶるりと身が震えるほどに。



「っ……ナイスアシストだ、ジョニー!!」

「おっけー!!」



 アシストというかメインで大活躍だった訳だが、言わぬが花。メアリーから褒められてジョニーも喜びの声を上げた。


 だから、ジョニーは気付かなかったし、メアリーも反応できる距離じゃなかった。



「まだ終わりじゃない!!」



 咄嗟に叫ぶ俺の声が巣に響き渡る。



 傍らにある無惨なまでに破壊されたカマキリ。腹は潰れ、殆ど関節は折れ曲がり、力無く伏せられた頭部。


 その目が、しっかりと最後の標的(みちづれ)を見ていたのが見えた。



「え……?」



 ゆっくりと振り上げられた死神(カマキリ)の鎌は、ジョニーの身体へと……



 

次回に引きます。


活動報告にて水妖精の名前を募集しますので是非とも御参加くださいませ。

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