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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第一章 ペン里の道も一歩から
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閑話休題 知らぬはペンギンばかりかな

 


 凶極鳥フェニス。



 彼女は難しい話が好きではない。特に、たいして進展もなく、意味も持たない癖に時間ばかりを浪費する会議なんかは嫌いである。誰もがそうかも知れない話ではあるが、彼女の場合の嫌いは態度が顕著に判る。



「おいおい、誰だ豚の氷像増やした奴はー? 先生怒らないから正直に言いなさい?」



 ほんの数分前には、会議で威勢のいい声を上げていた生き物で、今は誰よりも静かな氷の塊を前にして、黒い騎士甲冑は呆れ半分疲労半分やる気なしの声を上げる。


 自身がちょっと席を外した間に起きた殺人事件……殺豚事件は最早定例化しつつあり、どんな迷探偵であっても解決できるベリーイージーな仕様となっていた。


「会議を円滑に進める為の致し方ない犠牲よ」


「……それだけ?」


「えぇ」



 推理パートを置き去りに始まった犯人の自供。ただしここは切り立つ崖ではなく、真っ黒いお城の中庭で、まさしく殺害現場。移動の面でもコスパが段違いである。



「イタシカタナイ、イカシタカナイ? イシタカナカイ?」


「はい、委員長の言うことに反論のある命知らずな奴はー?」



 縦横無尽に宙を舞いながら歌うような誰かの声を背景に、黒騎士は辺りを見回して……



 そして、気がつく。



 会議が始まってからいた人数と、微妙に数が合わない事に。


 氷像をカウントしてなかったか。いや、それを足して、さっきはなかったであろう地面の染みと塊を足せば確か丁度だ。良かった、何も問題はなかった。みんなはちゃんとここにいた。



「うむ、反論なし、道理だね。それじゃ、校長先生から有り難いお話を頂戴したから伝えるぞ」


「……簡潔に頼むわよ?」


「へいへい、まず……魔王領の守護、誠に大儀で――」



 言い終わるよりも先に、黒騎士の頭が地面に落ちた。重力に従って最短距離で落ちた。これも定例化しつつある行事のひとつで、今回からが初めてだった豚や誰かの塊が見たならば、小さな悲鳴でも上げただろうか。答えを知る事は出来ない。それは永遠に叶わないのだから。



「要はまた何の意味もない呼び出しだ。昔すごく悪い事をした奴がいたせいの罰が俺達にまでこういった弊害をやめろみるなそこはプライベート空間だ」


 コロコロと転がる兜を拾い上げて、結論を述べる黒騎士。首から下を覗き込もうとする妖精を手で払い、頭を乗せた。接着剤要らずの便利な身体だ。



「あぁ、どこかで見たと思ったら……死なない方ね」


「頼むから話を聞くか、他人の名前を覚えるか、どちらかの努力とかしようか?」


「興味のない事を忘れるのに努力とかした記憶はないわね。そっち方面なら任せなさい」


「おかしいな。ピザ頼んだらカレー来たみたいな気分だ。道理じゃねぇ」


「ピザ? カレー? ソレニサッキ言ッテタコウチョー、トカインチョーッテ何?」


「何でもねぇよ。どうせ忘れるんだろ? さて、そんじゃ今回の会議は終了だ。次の司会は順番的に――」



 ◇ ◇ 



「あぁ、ネージュ。話があるのだけど」


「ナニー?」


 ふよふよと浮遊する妖精を呼び止めた声が、辺りに緊張を走らせた。


 会議が終われば直ぐに帰る筈の巨鳥が、帰らないのだ。それが何を示すか。それはここではない世界の、とある国の民が度々(オチイ)る状況に酷似(コクジ)していた。



 それは上司が帰らないから、帰れない部下という状況。



 一種の保身という意味でも同じだが、文字通り命がけな部分だけが違う。



「な、名前を覚えてる……だと……!?」


 一方、一名だけは全く違う戦慄を覚えているわけだが。



「彼女は氷精霊の女王でしょう? 流石にそれは不敬よ」


「フケー、フケーダゾ」

 

「一応、俺も不死の王(ノーライフ キング)ってポジションなんですがそれは」


「それでネージュ。話っていうのは妖精の事なんだけど、精霊でも妖精のことわかるでしょ?」


「ウン、ナンデモ訊イテ!!」


「沈黙は銀ってか、道理だね」



 膝を抱えて座る黒騎士を余所に、ふたりは話を再開する。どうやら彼女達が話を終えるまでは帰る事が出来ないらしい他種族の代表は心中で溜め息を吐いた。



「あのぅ、こんにちわー……」



 あーでもないこーでもないと話に花を探せる巨鳥と妖精もとい精霊のやり取りの最中、中庭に響く声があった。



「あぁ、末姫(すえひめ)サン。どうしたの? こんな所で」


 珍しい来客、本来的には中庭にいる彼等彼女等が一応来客なのだが、その存在に気がついた黒騎士の声に、姫と呼ばれた彼女は身体をぷるぷると震わせ――



「あ、あの……えっと……お菓子を……」


 狼狽(うろた)えながら、後ろ手に回した両手を前へと出そうとしてるのか。しかし、いっそのこと後ろ手に縄で縛られているようにその手が前に回ってくることはない。


もどかしい。黒騎士は辛抱強く待つ事にした。仮にも相手は姫なのだ。見た目が可愛いからではない、多分。だが、それを口にするのも(はば)れる。一応という言葉こそつけるがこの姫とはそういうものである。


「グガッ……なんだこのおぞましい匂いは……」


「あ、フェンリウス様。お目覚めになりましたか? ちょうど良かったです……じ、実は、お菓子を……その……」



 普段は何をしても起きなさそうな巨狼の起床に、姫はもじもじと恥じらいながら同じような言葉を初めから口にした。やり直しである。



「姫サン。悪いけど、アンタはフェンリウス老に近付かない方がいい。喰われていいのが自分込みなら話は別だがな」


「え、あ……私……」


「プルートよ。儂はそこまで見境なしではない。そう言った話があったとしてもこのようなモノを喰えたものか」



 じりっ、と後退する姫に巨狼は黒騎士を睨む。地響きのような唸り声と剥き出しの牙が黒騎士ではなく、姫へと向けられている上にその物言いは穏やかではない。



「ごめんなさい、私……」



 巨狼の剣幕に押されたのかくるりと身を翻して去っていく後ろ姿を見送り、黒騎士は足元に落ちていた一枚の羽を拾い上げた。


「道理かね、道理じゃねぇかね」



 漆黒の城には、到底似つかわしくない白銀色の羽に黒騎士は何度目かの溜め息を吐いた

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