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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第一章 ペン里の道も一歩から
31/139

行くもペンギン帰るもひよこ3

遅れましていつもより増量

 


 ママ鳥である凶極鳥の力を垣間見る事が出来た。垣間見るというには、あまりに一瞬で強大過ぎて底が見えないんだけど。



「フェニス様。僭越ながら御息女様と御子息様の御食事を用意させて頂きました」



 湖の怪物を回収していった鳥の一団から一羽の鳥が俺達の下へとやってくる。恐らくは指揮官みたいな存在なのか、その言葉に引き続くように袋状の何かをぶら下げた鳥達が降り立った。


 ある意味、よく見かけた姿をした彼? から俺は目を離せない。ジョニーはその袋を凝視し、ステイしてる。犬か。



「御苦労様。気遣いは無用だと言っていた筈なのだけど……今日は皆、非番でしょう?」


「お休みになられているフェニス様にお手を煩わせてしまいましたので……何より領域へ土足で踏み入れた水龍の駆逐、本来であれば我らのすべき事だったにも関わらず、感謝してもしきれませぬ」



 仰々しく両翼を地面へと広げて……(ひざまづ)いているのかな? 老齢な紳士を思わせる程良い低い声の指揮官鳥は、しかし一方でくるっくー、と鳴き声を聞かせる。


 そう、くるっくーと鳴く指揮官鳥はどう見ても前世では鳩と呼ばれていた鳥だった。大きさも周辺の景色と比べると標準的な鳩だ。ポン菓子食わせてぇ。


しかしそんな鳩と同時に驚きの事実、フェニスという聞きなれない名前がどうやらママ鳥の名前のらしい事が判明した。オシャレな感じの名前だ、とても武闘派と思えんと思うのは失礼か。



「ママ、たべていい?」


「……お礼を言ってからよ?」


 もらった贈り物をあまり好意的に思ってなかったのか。しかし、ジョニーの眼差しを受けては折れるしかないママ鳥は少しだけ疲れたような息を漏らした。



「ありがとー!! うまー!!」


「お気に召して頂きまして幸いに存じます。さぁ、お二方も是非に」


 そう水を向けられると俺達も反応に困る。ママ鳥やジョニー以外の鳥に話しかけられたのは前世込みで初めてだし。メアリーに至っては『え、あ、う……』としか言えてない。コミュ障かよ。お前本当に面倒なキャラだな。


 どうすんのマザー? と見上げると、既にジョニーがおっ始めた手前、断るという手段はないと力無く首を振った。


 そんな無言のやり取り、一週間近くも言葉を交わせばその程度の感情を読み取るくらいは出来る。元社会人の必須スキルとも言えよう。


 ママ鳥から、さほど嫌悪感が見えない辺り、好意的な交流をした方が良さそうだ。と、脳内で情報をトントンと纏める。



「それではお言葉に甘えて、ありがとうございます。見ての通り姉も思わぬ歓待(かんたい)に感激しているようで、代わりに感謝を」


 ママ鳥の立場を仮想し、あまり偉ぶらずに下手にも出ない口調で言葉を返す。ジョニーのように年相応に振る舞うという手もあるけど、反応を伺う意味で軽いジャブを放ってみる事にした。



「こ、これはこれはご丁寧に……」



 まさに鳩が豆鉄砲を食らう姿を見ることが出来て俺もある意味満足だ。子供だからと言えど一筋縄になんかいかないぞ?という牽制程度にはなったかな?


 ちらりとママ鳥を盗み見ると、手法は間違っていないらしく、小さな笑みを返された。超分かり難いけどね。



「あれがフェニス様の……」


「しかし彼の姿はいったいどこの……」


「赤ん坊、可愛い……」



 遠慮がちに視線と囁きを向ける一団に歩みより、一礼。同じように感謝の言葉を並べてようやくご飯となる。正直、早く泳ぎたいんだけどさ。社交界とはどこも面倒くさい。



「メア!! ソラ!! ごはんうまー!!」



 本当に兄者は自由だ。遅れてきた俺達を見つけるや否や、声を上げるジョニーに苦笑してしまう。ほらほら、果物らしき何かの破片が口から飛んで……



 果 物 だ と !?



「あ、あの……これは……?」



 先程と立場が逆転したように固まる俺の代わりにメアリーが近くにいた鳥に恐る恐る声をかける。


「こ、こちらは領域で穫れる木の実や果実なのですが……」


 ある意味メアリーと同じように恐縮する鳥の言葉に、俺は再度驚愕する。メアリーも目を剥いて固まっている。



「あの、何か粗相が――」



 俺達が驚く理由を理解出来ないのだろうか。指揮官鳥の鳩が声をかけて初めて我に返った。いかんいかん、せっかくの猫被りが無駄になる所だった。ペンギンの猫被りとか凶器か。ぺにゃーん。



「そういえば、うちの領域の果実を食べるのはみんな初めてだったわね」


 思い出したようなママ鳥の声が、俺達の驚く理由を代弁した。"うち"の領域というのはさて置くとして。



「え? では、今までの食事は……」


「メアリーとジョニーは、最近ジャイアントキャタピラーを食べてるし、ソラは……ソラも、まぁその辺りね」



 再びざわつく一団。俺の辺りを濁したのは、まぁ……最弱ミミズだしな、先程の立ち振る舞いと割に合わないのかな? 敢えて明かす必要もあるまい。


 

 ともあれ思い返せばうちの領域とかいう辺り、今の待遇を(かんが)みて恐らくうちは良い身分なのだろう。所謂貴族と仮定して、普通は逆じゃないか? 俺達が果実食べて、虫食に驚くんじゃない?



「それは勿体ない。では、これからは果実を届け――」


「さて、もう要件は終わりかしら? 終わりよね?」



 まごつく俺達の様子にセールスチャンスを思ったのか、声を上げる鳩を制するママ鳥。言外に退散を示唆(しさ)しているのだろう。引き際を悟ったらしい一団は一礼して飛び立つ。あれ? もしかして貴族ライフのチャンス消えた?



「ふぅ、ようやく静かになった……」


「ごめんなさいね、メアリー。ソラもお疲れ様」


「大人は大変だね」


「ふふっ、随分とマセた赤ん坊だったわよ。いけない子」



 静けさを取り戻した湖畔で、俺達はようやく安息の一時を手に入れた。



 ただ残念なのは果実は、あまり美味しくなかった。おかしいな虫食に慣れてしまったからかな。ミミズの方が甘いんだぜ? 異世界に来たら一度お試しあれ。



 ◇ ◇



「それじゃ、あまり遠くまでいかないようにね?」


「うん、おかあさん」

「わかったよマザー」

「おっけー!!」



 予期せぬ食事を済ませ、俺達はいよいよメインイベントに突入する。


 微かに吹く風に揺らめく湖面を前に立ち並ぶ俺、メアリー、ジョニー。ママ鳥は後ろで待機だ。



「よしっ!! 行くぞ!!」


 ペンギンとして生まれ変わり、初めての水泳だ。大丈夫、前世ではそれなりに泳げた。そんな俺が今はペンギンだ。決定的な泳力ってやつを、教えてやる……!!



 やる気満タン。一歩、強く足を踏み出して――



「ペンギン体操第一ぃぃ!!」



 あぁ、御約束ですね。わかります。体操、大切ですもんね。ファッ○ン、ふざけろ。


 念願の湖を前にして、足を止められた俺は、苛立ちの全てを準備運動に捧げた。伸びろ!! 俺の背骨!! ぽきぽきと小気味よく鳴って気持ちええ。



「……よしっ!! もう止めるなよ!! 絶対に止めるなよ!?」


「あぁ、解ってる。ペンギ――」


「違う。そうじゃない。振りじゃない」



 余計な事を口走るメアリーのクチバシを両翼で、はしっと抑えて妨害に成功した。


 あぶねぇ、本気でやる気だったぞ、この残念コミュ障厨二病姉ひよこ。属性盛りすぎだ。



「ふふっ、ソラも随分と手荒な真似をする。キミも高ぶってるのかい? 私も泳ぎは得意だが……正直、不安はある」


「っ……べ、べつにそんなんじゃねーし、ジョニー行くぞ!!」



 テンションが上がってる理由が見透かされると妙に恥ずかしい。もうさっさと隣にいるジョニーを連れて……連れて? あいつ、どこ行った?



「ちゃぷちゃぷぶるぶるーーっ!!」


「「あぁぁぁっ!!」」



 いつの間にか、ジョニーは湖面に浮き、身体を震わせて泳いでいた。お風呂のオモチャのアレにそっくりだ。


 一番乗り取られただと!? 叫ぶ俺の隣で同じニュアンスで叫ぶメアリーがいた。こうしてはおれん!! 俺も、俺も……



「……行かないのかい?」


「……お前から行けよ」



 それならば一番槍に続こうにも、小さく波打つ水辺を前にして俺たちの足が同時に止まった。グイッとメアリーの身体を軽く押せば、同じ力で押し返された。にゃろう。



「おや、ペンギンともあろうソラさんが? まさか怖いのかな? いや、そんな訳がないか、いや失礼」


「おいおい、ひよっこ。そんな見え見えの煽りに俺が乗るとでも思ったか?」


「大丈夫、お兄ちゃん(ジョニー)にも出来たんだ。弟のキミにも出来るさ。大丈夫、出来なかったとしても私は笑わないよ」


「言ったな? あぁ、もうペン忍袋の緒が切れた。やってやろうじゃないか」



 煽りあいの末に俺はざぶざぶと浅瀬に立つ。冷たい、でも怯まない。だって、俺は……そう、俺は――



「知っているか? 水を得たペンギンの真の力というのを――」


「ソラ!! どーん!!」


「あっ……」



 突然の衝撃に視界が揺らぎ、ざぶん!! という音を最後に全てが静かになる。



 いきなり過ぎて焦ったが、視界は水中メガネをかけたようにクリアだった。ふわふわの翼は水を掴みやすくて――



「ぷはっ……やばかったわー。危ないだろジョニー」


「ごめんなさーい」


「だ、大丈夫かい、ソラ?」



 一旦顔を上げて、身体を震わせるとメアリーが不安げに俺を見ていた。 俺も焦ったが、もう"掴んだ"。



「何も問題はない。俺はペンギンだぜ? ここをどこだと思っている……」



 (たかぶ)る気持ちのまま、ざぶざぶと奥へ歩いていく。次第に水深が上がり、俺の身体が水に浸かっていく。それでも俺は止まらない。


「言ったろう? 水のある所、それは即ちペンギンにとってホームグラ――」



 足場が消えた。急に深くなったのか、深みに嵌まったのかはさて置き、視界が再び水中に変わり――



 あれ? と思ったときには遅かった。


思わず水中でクロールや平泳ぎしようにも前にも進まない。


「あっぷ、あっぷ、ぶくぶく……」


「滅茶苦茶溺れてるーー!?」



 教訓、やはり人間とペンギンの骨格は致命的に違う。


 

12日夜はもしかしたら更新出来ないかもしれません。申し訳ない。

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