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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第一章 ペン里の道も一歩から
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行くもペンギン帰るもひよこ2


 

 矢のように空を切り、滑るように飛ぶ身体。広げた両翼を擽る風が心地良い。滑空というアビリティがあるおかげなのか、姿勢制御は想像よりも安定している。



 それが一時の物でしかないのが、非常に残念でならない。いつかは、この空を好きなだけ飛び回りたい。そんな気持ちは増すばかり。


 と、顔を見せる欲深さには一度蓋をして、滑空を素直に楽しむとしよう。好奇心はペンをも殺すってね。先日死にかけた俺の教訓である。



 見下ろせば様々な緑に流れていく森は海のように広がり、目的地である湖がもうすぐそこだ。このまま着水したい気持ちもあるのだが、今の速度がどれだけかも判らないし、湖の深さも判らない。


 うむ、そろそろか。



「マザー!!」


「はい。捕まえた」



 いつでも行けるようにスタンバってたらしい。呼んだ直後に、俺の身体はママ鳥の爪にガッチリホールドされた。小さい鳥が大きな鳥に捕食されるような形だ。凄く、物騒です。


 滑空終了。ちょっとの安堵は、やはり恐怖もあったのだろう。同時にママ鳥の掴む力が強くて、彼女もまた不安だったのだろうかと思わずにはいられない。馬鹿な子でごめんね。だからもう少しソフトに掴んでくれると嬉しい。



「ありがとう、マザー」


「どういたしまして、どうだった?」


「楽しかった!!」



 少しばかり童心に返ったような返事はジョニーのように、だがまさにそれに尽きる物だった。是非ともまたお願いしたい。せっかく取れたアビリティだからさ。



「ねぇねぇソラ、ジョニーもとぶ!!」


「はいはい動かないでくれジョニー。キミもいつかは飛べるようになるさ」


「いつか、っていつ?」


「それは……おっ、そろそろ着くんじゃないか?」


「ねぇメア、いつか、っていつー?」



 ある意味いつものやり取りがママ鳥の背中から聞こえて、安心する。良かった、爪席で……背中席は大変らしい。



「ねぇ、ママ?とぶっていつなの?」


「そうね。それじゃジョニーもそろそろ飛ぶために頑張ってみましょうか?」


「おっけー!! ジョニー、頑張る!!」


「お、おかあさん……あの、わたしも」


「はいはい。メアリーもね? 誰が一番早く飛べるようになるかしら?」



 ピヨピィと賑やかな声を聞きながら、俺達一家は湖へと到着するのだった。



 ◇ ◇



 小さな湖畔に柔らかな風を吹かせてママ鳥は着陸する。その前に俺が着地、一番乗りである。


 さらに言うなれば、異世界の地面に初めて降り立つ事となった。ひんやりとした若草色の芝生が足裏に心地良い。ペンギン、大地に立つってね。



「静かな所……おかあさん、ここには他の生き物はいないの?」


「いなくはない筈なのだけど、みんな怯えちゃってるのかしら?」


「え……」



 あぁ、成る程。


 いったい誰に? なんて野暮だろう。偶に見かける野鳥より遥かに大きくて、強そうだもんね。誰とはいえないけど。


 ほら、メアリー。自分で撒いた種だろう? しっかりフォローしなさい。



「とはいえ、彼我(ひが)の力量差も判らない愚か者もいるのは確かね」


「え?」


 ため息混じりに呟いた言葉は物騒な匂いしかしない。次いで視線の先を追いかけると、そこは湖の中心。水面が徐々に盛り上がって――



「我ガ領域ニ足ヲ踏ミ入レシハ何者カッ!!」


「こんなのとか」



 水しぶきを盛大に撒き散らして姿を見せたのは、鮮やかな水色の鱗を持つ大蛇、立派な髭を二本生やしている所を見ると龍にも見える。しかしながら、それを細かく確認する事は適わなかった。


 なぜなら――



「誰が我が領域よ。選びなさい、死か従属か」


「キサマ、我ニ命令ナド――」



 俺は思い違いをしていたようだ。


 ママ鳥は、凶極鳥は強そうな鳥ではなかった。



「そう、選択が早くて助かるわ」



 音もなく蒼い片翼を一振り。正確には"いつの間にか"振り上げられていた片翼に寄る物なのだろう。それすら定かではない。



 ただ、結果だけは解った。



 水色の大蛇なのか、龍なのか判らない存在の顔から一気に凍り付いたのだ。理由? 恐ろしく強いママ鳥が多分、翼を振ったみたいです。なにそれこわい。


いや、よく見れば驚くより早く冷凍されたそれの鼻先には一本の青い羽根、ママ鳥の羽根一枚でこの現象が引き起こされたらしい。知らん方が良かったレベルの意味不明さだ。



「少しだけ待っていてくれるかしら?」


「「はいっ!!」」


「ママ、おなかすいた!!」



 直立不動で返事をする俺とメアリー、ジョニーは何を考えてるのか、いや考えていないのだろう。コイツは大物になるよ。


 天を仰ぐように、甲高い声でママ鳥が一鳴きした直後。様々な方向から様々な鳥が集まり、湖に漂う残骸を回収していった。鳥葬というのか、血の一滴も残さないお掃除に空恐ろしいものを感じた。

多忙でワッショイ!!


短くて本当に申し訳ない。

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