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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第一章 ペン里の道も一歩から
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パタつかせて誓い立つ

 


 いま、かのじょは、なんていった?



「母親の勘ってやつかしら。きっと、その方は生まれ変わる前の貴方を産んだ方なのね。そんな気が、したわ」


 風の音はいつからか耳に届かない。彼女の声だけが聞こえた。ただ、どんな声かも判らない声だ。



「お母さん想いだったのね。ソラ、貴方は……私より、まだきっとその方を――」


「そんなっ!! それは……」



 悲しみ。それが誰の感情かは判らない。


 ただ、判るのは。


 今の俺には簡単に否定する覚悟も、工程する覚悟もなかった。


 俺がママ鳥と思う意味。母さんではなく、マザーと呼ぶ意味。その全てが意味することを彼女は見通していたのだ。



「だから、私の怒ってる理由の殆どは、私への怒り……その事を知った瞬間、一瞬でも翼を止めてしまった私への怒りなの」



 独白のような言葉が心に刺さる。だけど、前世の経験でさえ無意味に感じる今、俺の口から出る言葉は、出せる言葉はない。



「ねぇ、ソラ。貴方は空を飛びたかったの?」



 無言の俺を気遣って話を変えたのか。唐突な質問に俺は考えた。その情けすら苦しいけど、懸命に考えた。



「……うん。飛びたかった」


「理由を聞かせて? 貴方の言葉で、萎縮なんてしないで聞かせてちょうだい?」



 それにどんな意味があるのか。心に浮かんだ疑問には直ぐに蓋が閉じられた。ママ鳥の、彼女の願いなら、恥ずかしかろうと吐露(とろ)すべきだと思えたから――



「便利なスキルを取れば、誰かに狙われるから……飛ぶなんて鳥であれば誰もが持っているスキルを取ろうって思って――」


「本当に?」


「……え?」



 本当に、って。違う理由なんてあるわけ――



「それも理由でしょうけど、それだけが理由じゃない。そんな打算的な理由で空に飛び出すわけない、私はそう思うのだけれど?」



 彼女はいったい何を知っているのか。俺の何を知っているというのか。


 打算的。他の人から聞くのは本当に久しい言葉で、自嘲する自分が自分へ向ける言葉だ。


 

「空を飛んで、どうしたかったの?」



 問いかけられた言葉が、何かを見せた。脳裏にある何かを――



 それは前世で、子供と呼ばれるまだ小さな頃。


 青くて、大きくて、どこまでも高い空が好きだった。自分と同じ名前で、自分の名前が好きだった。


 それは前世で、大人と呼ばれる集団の一員になった頃。


 自分と同じ青が狭く見えた。狭いのに届かなくて、見上げる事すら忘れた。自分と同じみたいで、違う空。それだけしか感じなかった。



 そして、俺はこの世界で再び、俺と同じ名前の青に――



「飛びたかった。俺の力で、俺の身体だけで、自由に、前世と今の俺と同じ名前の場所を、でもそこは行けなかった場所で、飛べなかった場所で……だけど、飛べるかもしれなくて……」


 ボロボロの継ぎ接ぎだらけの言葉に、彼女はただ小さく、そう……とだけ返して、大きく羽ばたいた。



「やっぱり、貴方はソラでよかったのね。いえ、ソラじゃないとダメだったのかしら」


「いや、それは――」



 別に空が好きと言っても普通より好きなだけ、飛行機のパイロットになるわけでもなかったしさ。でも、そうだな……



「うん。ありがとう。俺にソラって名前のままでいさせてくれて……お、おかあさん」


「ふふっ、無理しないでいいのよ。いつかソラが私を、この世界でのお母さんって認めてくれたら……そう呼んでくれれば」



 柔らかく笑いながら、彼女……ママ鳥はゆっくりと旋回する。その行く先には、俺達の帰る場所が見えた。



「俺は、別にもうちゃんと呼ぼうと――」



 少し恥ずかしいだけで、彼女を母と認めているのだけど。そう紡ぐ筈の言葉は、ママ鳥の一言で塞がれた。



「ソラ、飛んでる気分はどう?」



 格好でいえば決して飛ぶような体勢ではない。ママ鳥の爪で捕まれて運ばれてるんだから。



 でも、視界だけでいえば。俺は今、空を飛んでいた。あれだけ焦がれた世界に触れて、どう思うか?



「やっぱり、自分の力で飛びたいよ。マザー」



 俺の返事に、ママ鳥は大きな声で、本当に大きな声で笑った。


 そして、言うのだ。優しい、温かい声で。



「きっと出来るわ。その想いを忘れなければ、いつか」



 スキルの取得でも、アビリティの取得でも、称号の取得でもない。そのどれよりママ鳥の声は、俺の心の奥深くに響き渡った。



 あぁ、飛びてぇな。


 ペンギンだけどさ。


 やっぱり俺、飛んでみたいよ。



 こうして、俺のペン生はひとつの目標を得た。満足するペン生にする為に。



 空を飛ぶ。



 前世よりの悲願を叶えるのだ。



 視界の向こう、駆け寄ってくるふたりの姿を見ながら、俺はそう誓うのだった。




第一章

 ペン里の道も一歩から

         -完-

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



無事に第一章を終える事が出来ました。


これも偏に閲覧してくださる方のお陰とペンギンとひよこの可愛さがあってだと思います。



正ヒロインも構想が固まり、このまま行けば第三章くらいに出せそうです。



え? メアリー? ……ハハッ!!



そういえば子ペンギンとひよこに関してはしばらく姿を成長させません。可愛いから。仕方ない。




次回閑話予告


『ぴにくっくー!!』


『ふっ、ここが俺のホームグラウぶくぶく……』


『滅茶苦茶溺れとるーっ!?』



閑話

行くもペンギン帰るもひよこ


※内容が変わる恐れがあります。



今後ともペン生をよろしくお願いいたします。

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