パタつかせて閃いてお約束
跳ね回るふたりの姿を見ながら、俺は疲れた身体を休めながら思考に耽る事にした。
俺のペンギン飛行計画は、まだまだ始まったばかりだ。あれ、さっそく打ち切り臭が漂ってきたぞ? まぁ、いいか。
メアリーとジョニーによるペンギン虐待もといペンギン打ち上げ実験は、失敗に終わった。
何がダメだったかというのは、メアリーが言っていた通りに、飛ぶというより放り投げる形となったのが起因している可能性が大きい。
となると、だ。まずは改めて飛行はなにか?考えるべきなのだろうか。身近なところで言えばママ鳥を参考にすると……
大きな翼を何度か振り、羽ばたいて、飛ぶ、終わり。
……色々とダメだ。参考にならない。
まずはなによりペンギンの身体構造上、翼が小さい為に大きめな胴体を飛行させる風力が出せない。
そう、体に比べて圧倒的に小さい。鳥というより、ミサイルみたいな形だもんな。うん? ミサイル?
ミサイル、ロケット、飛ぶんじゃなくて……飛ばす?
「もしかすると……これか?」
解決の糸口が見えた気がする!! ぺーんと来たかも知れん!!
そう、飛ぶのではなく飛ばすのだ。
プランB、ペンギンロケット空を飛ぶ作戦だ!!
真上に打ち上げられるのはもうは懲り懲りだから、助走を付けて走って飛ぶ。助走に関しては足が遅いから――
アイデアが湯水のように湧き上がっていくなか、問題点が出た。
広い巣ではあるが、可能な限り短距離で急加速出来る装置。それをこの巣にある物だけで作らねばならないのだ。
この巣にある物と見回せば……枝、葉っぱ、ひよこ、ペンギン。以上、ふざけろ。
「いや、待てよ? 何か重要な事があったな……」
小さな違和感が喉に引っかかる小骨みたいで気持ち悪い。そんな事を考えたせいで無性に魚が食いてぇな。この身体だから尚更だろうか。いかん、思考が逸れた。ちょっと休憩。
頭を使う作業には糖分が不可欠である。
丁度よく甘味に関しては不良在庫並みにストックのあるミルキーワームがある。見た目はミミズだが、噛み締めれば少しずつ味がするガムみたいな……うん?
『あ、材料揃ってんじゃん』
噛んでも噛み切れない弾力のミミズを咥えて、気がついた。
◇ ◇
「おーい、メアリー。そこの恥も外聞も捨て去って黄色い羽根を必死に振り回す姉ひよこー」
「悪意しか感じないが気のせいか?」
「安心しろ。悪戯半分で後は……まぁ、そんな事は割とどうでもいいんだけどさ」
「……残り半分は?」
まったく小さい事を気にする奴だ。そんな事では大きくなれないぞ?
「そんな事よりもちょっとミルキーワームの強度実験をしたくてさ。手伝ってくれない?」
「私の質問への答えは……まぁ、いい。乗り掛かった船だし手伝おう」
「はい。それじゃこれ咥えて? ジョニー!! ちょっとこっち、これ咥えて」
「なにー? はぐっ」
ぴよぴよしくも清々しい顔で頷くメアリーに、ミルキーワームの一端を咥えてもらい。反対をジョニーに咥えて貰う。
おぅ、なんだか不純なペッキーゲームの始まりを垣間見た気がする。なんだよペッキーゲームって。
「噛み千切らないように、お互いに引っ張ってくれよ」
「おっけー!! あっ……」
「ジョニー。返事は要らないから頷くだけでいい」
「……!! ……!!」
力いっぱいに頷くジョニーによってミルキーワームが縄跳びのように波打つ。あぁ、縄跳びで遊んでもいいな。遊び道具扱いでごめんな、ミルキーワーム。食料ではなく資源として役に立ってくれ。
そして、メアリーとジョニーがお互いに離れ始め、ミルキーワームがピンと真っ直ぐ張る。よし、ここからだ。
「ここからお互いにゆっくり離れてくれ!!」
「……!! ……!!」
「…………っ!?」
作業現場よろしくな緊張感が生まれ始めるなかジョニーが頷くと、みょんみょんと上下するミルキーワーム。やはり弾力もさることながら張力もあるらしいな。あれ? メアリーの足が止まったぞ? どうした?
「メアリーどうしたっ!! もっと下がれるだろっ!!」
「んーっ!! んーっ!!」
いったいどうしたのか。また楽しそうなジョニーに触発されたの? 顔を横に振ってミルキーワームがみょんみょんと波を複雑に変える。
でも、せっかくジョニーが下がった分だけ前に進むのは頂けないな。
あぁ、そうか。ジョニーの力が強くて引っ張られるのか。よしよし、仕方ない奴め。
「メアリー、ちょっとごめんよ。引いてもいいぞ、ジョニー!!」
「んーっ!!」
両翼でしっかりとメアリーの頭をホールド。ほら、一応メアリーは女の子だし、身体は触らないよ。あぁ、ひよこはやっぱりふわふわだなぁ。
ジョニーがぐんぐん下がって、下がって……おぉ、予想よりも結構伸びるな。なんでメアリーはこんな伸びるのに引っ張られたんだ?
「ジョニー、止まって!! メアリー、少し踏ん張ってくれよ?」
「――ッ!! ――ッ!!」
なぜか涙目かつ声無き悲鳴みたいな音を漏らすメアリーから翼を離して、ミルキーワームの状態をチェックする。ぺんぺん、やはり結構伸びるな。これならゴムの代用として問題ない。
「よし、オッケー!!」
それが、悲劇の引き金を引いた瞬間だった。
俺もちょっと浮かれていた。ミルキーワームという素材に、食以外の有用性を見いだせた充実感っていうかさ。
「おっけー!!」
俺の声に実験終了を理解したジョニーが口を開く。
何が起きたか。答えは簡単。
それなりに限界まで伸ばされたミルキーワームがビュンッ!! と音を立てて縮んだのだ。
「――ッ!!」
行く末はもちろん。
もう一端を咥えていた、メアリーに向かって。
あれだね。速すぎて目で追いきれなかったよ。
パァァンッ!!
でもね、メアリー。キミも同時に離せば良かったんだよ。結果論だね、ごめんよ。
ミルキーワームゴムを顔面に食らって吹っ飛んだメアリーを見て、思わず爆笑してしまった俺に、メアリーはしばらく口を訊いてくれなかった。
ゴムパッチンは大変危険ですので訓練された芸人の方以外は真似しないでください。




