パタつかせてぺんやこら
短めで申し訳ない
『――けど……』
『――から……』
虚ろな意識のなかでピヨピヨグワグワと鳥の鳴くような声が聞こえた。
『――って怒ったら……』
『――よ。なんなら……』
はて、いったいいつの間にやら寝てたのか。なんだか身体が温かくて気持ちがいい。むにゃむにゃ、あと5分。もう5分。
『――ったわよ……』
『――むわよ……全力で』
あぁ、この何とも言えない浮遊感、微睡みの心地よさと言ったら……はふぅ。
ん? 全力? 何が全力なんで――
「ペンギン体操第一ィィッ!!」
「はうわっ!?」
突如として惰眠を切り裂く声に飛び起きる俺、そしてあのメロディーが響き渡る。
おぼろげな視界に映る黄色いヤツ。未だに不透明な意識でもいったい何が起きて、これから何が始まるかが解ってしまった。
ファ○ク!! フ○ッキンひよこ!!
ぺーんぺんぺん……
「翼を大きく広げて大きく背伸びの運動からーっ!! ハイッ!!」
ぺーんぺーんぺーんぺーん……
「メアリー、お前、朝から、こんな、許さん……あっ、ちょっと気持ちいい」
く、悔しいけど背骨がポキポキ感じちゃうっ!!
「メア、ジョニーも!!ママも!!」
「はいはい、ジョニーも一緒に、いちにーさんし」
ペンギン体操に飛び入り乱入するジョニーとママ鳥。流石にママ鳥は首だけ左右にふりふり振っている。あの身体でやられたら巣が壊れて……あっ、なんでもないですから睨まないで。
「身体を前へ翼を足に付けて――」
前屈か。俺にとっては難問だな。慎重に慎重に……
「ふんぎゃ」
バランスを崩し、ごろりと転がるペンギンボディが憎い。ちくしょう。
「ソラ、ダメダメ」
ダメ出しするジョニーだが、何がどうなっているのか判らない黄色の毛玉があった。なにあれ、くっそかわいい。でも絶対前屈じゃねぇなアレは。
こうして、異世界生活二日目は騒がしい目覚めとなった。
◇ ◇
「おうおうメアリーさんよぅ。よくも俺の安眠妨害してくれたなぁ、オイ」
最後の深呼吸まできっちりとこなし、直後に俺は、この騒動の犯人へと詰め寄っていく。こちとら出るとこ出てもええんやで?
「ペンギン体――」
「おはようメアリー、ジョニー、マザー。素晴らしい朝だね。なんだか身体がすごく軽いよ、ハハッ」
……っぶねぇ。何だってこんな非道な事が平気でできるかね。
「ふふっ、おはよう。さぁ、二人ともふざけてないで。"朝ご飯"よ」
「ぐう!! ご飯食べるの!!」
ご飯のキーワードに反応したのはやっぱり腹減りジョニー。おや、兄者少し大きくなった? 喋りも少しは達者になったみたいだし、赤ん坊ってのは成長が早いなぁ。ひよこのジョニーもいつかは『おぉっとここで無情にも胃袋の叫び!! 待ち受けるのは空腹地獄地帯!!生命の本能に訴えかける悲鳴に俺は耐え切る事が出来るのか!?』みたいな事を言うようになるのか。どこのアナウンサーだよ、ないな。
「さぁ、ソラも頑張ってね?」
えぇ、頑張りますとも。ご飯ということはつまり、リベンジマッチなのでしょう? 俄然、燃えてきた。




