パタつかせて反抗期
故、水鳥 空殿の気構えに応える。
まずは生誕おめでとう。
この世界の神として、ひとつの命として産まれた貴殿に先ずは祝福を。
このメッセージを読んだ時、貴殿は何を感じただろうか?
これは貴殿が決意した証である。
不幸と憂う無かれ、とはあの時に我が輩に魅せた貴殿の気概には無用な言葉かも知れぬが。
ただ、不利だと思う無かれ、世界は不平等であり、自由であり……
『……無限大である、か』
こちらは開くことの出来た称号のメッセージを読み。俺は深く深く溜め息を吐いた。
確かに、覚えがある。言いましたとも、チートは要らないと。軽率な言葉だとは思わない。しかし、悔やまれるのは――
「ソラ、まだ起きているの?」
「あ、うん。ごめん」
静かな夜に響く、静かな声。ママ鳥だ。
振り返るべくもなく理解し、星明かりに照らされる大きな身体を見る。
「まだ、落ち込んでいるのかしら?」
「いや、まぁ……そんな所、かな」
本当はちょっと違うけど、無用な心配をかけまいと、俺は眠るためにママ鳥の下へと向かう、が……
「そう……ソラ、こっちにいらっしゃい?」
ゆっくりと伸ばされる蒼と碧の翼は、登って来いと言うことか。 いいの? と見上げれば、優しげな瞳はそれを肯定した。
「えっと、お邪魔しまーす」
「ふふっ、邪魔だなんて思わないわよ」
前世由来の建て前にママ鳥は笑む。足の裏に感じるママ鳥の翼は温かく、足が滑らないのに艶があり、ちょっとくすぐったい。不思議な感触だ。
「もっと、こっちよ」
翼を登り、背中に到着するとどうやら目的地ではなかったらしい。えっと、頭の上かな? 俺も小さいから乗れるけど、大丈夫?
登りやすく頭を下げるママ鳥に、よじよじ、これでいいかな?
無事、頭頂部に登頂完了。うわ、オヤジギャグないわー。鳥肌ものだわー。既に鳥だけど、ペンギンだけど。
「落ちないように気を付けてね?」
「らじゃー」
ぐん、とママ鳥が下げていた頭を上げれば絶景かな絶景かな。
天を仰げば、宝石を散りばめたような星空。地を見下ろせば、星明かりに照らされ夜風に揺れる森の木々達を一望出来る。これがママ鳥の見ている景色なのだと思うと感慨深い。
「ソラ、ごめんなさいね?」
見飽きることのない夜の世界に小さく溶けるように響いたのは、ママ鳥の謝罪だった。
「どうして、謝るの? もしかして育児放棄気味な事?」
思い当たる節といえば、そんな所が妥当だろう。しかし、妙な静寂を何拍か置いて、ママ鳥の身体が小さく震えた。ヤバい、落ちる落ちる!?
「育児、放棄……? もしかして、私がなかなか巣に帰れなかったから……?」
「あ、いや。親が無くとも子は育つ、じゃなくて何も問題は起きなかったから大丈夫だったよ」
わなわなと身体と声を震わせるママ鳥に不穏な空気を感じ、俺は慌ててフォローに入る。些かフォローしきれてない気もしなくはない。ぐさぐさっと聞こえたのは幻聴だろう。めいびー。
「そ、それはそれとして私もしっかりと向き合わせてもらうとして……実は私、貴方にスキルを壌度しようとしたのよ。だけど……」
「出来なかった。と……」
あー、ある意味タイムリーなお話だったか。タイムリーも何も生後一日目なんだけどさ。
ママ鳥が言っているのは、恐らく俺に羽根を渡した時だろう。
あのとき脳内に響いた声は、ママ鳥からのスキル壌度とふざけた神の称号がかち合った事によって聞こえたのだろう。
結果、優先度神とか頭のおかしい称号の効果が勝った。というわけなのだが……
「えぇ、メアリーとジョニーにはそれぞれ、私の力の一部をプレゼント出来たのに、ソラ……貴方に何も出来なくて……」
「それは……」
ママ鳥からの謝罪というより、もはや懺悔に近い言葉が胸に突き刺さる。彼女のせいではない。全ては神の……いや、俺のせいなのだ。
いっそ、告げるべきか。本当の事を。
しかし、果たしてママ鳥は……彼女はどう思うのだろう。メアリーはどれだけ伝えたのだろうか、前世の事を。
仮に、もしもママ鳥が何も知らず。ただメアリーを聡い子なだけだと思っていて。何も知らずにいたなら……そんな事がありえるだろうか。だとして俺が告げて芋づる式になってしまうかもしれない。
「きっと、私が貴方に力を授けられなかったから、ミルキーワーム程度も倒せなかったのかしら……なんて思ってしまうのよ」
「……そんなにミルキーワームは弱いの?」
悔恨にしては余りにも心境を吐露し過ぎなママ鳥に、胸の奥を痛めながら訊く。だって、ママ鳥では比較にならないし、基準が判らないのだ。
そして、ママ鳥から明かされるミルキーワーム最弱伝説。おかしいな、聞くだけで俺が泣きそうだぞ? マンボウもかくやと言わんばかりだ。
「ほ、ほら。俺も産まれたばかりだしさ。きっと、明日なら――」
「ソラはレベル、って解るかしら?」
少し冷たく聞こえた言葉に、俺は頷き肯定する。だから、それを上げさえしたらミルキーワームなんて――
「敵を倒してレベルは上がるのだけど、ミルキーワームより弱くては……」
余りに、残酷な言葉だった。
つまり、ミルキーワームを倒す為にはミルキーワームより強くならなくてはいけない。
ミルキーワームより強くなる為には、ミルキーワームより弱い生き物を倒さなくてはいけない。
最弱の名を持つミルキーワームより弱い生き物を、倒すのだ。
しかも、ママ鳥からスキルは壌度出来ず。力の補正は無効化。つまり、最弱に勝てないままレベルが上がらない。
あれ? 詰んでないか?
厳しいなんて生ぬるい。俺のペンギン生。ペン生は無理ゲーだった。
「だけど大丈夫よ。ソラ、心配はいらないわ」
夜だけど、更に目の前が暗く俺にママ鳥は囁く。慈愛に満ちた声だ。
「マザー……?」
そうか、何か妙案が浮かんだのか。助かった。なんだよ全く、驚かせやがって――
「それなら私がしっかりと貴方の面倒を見てあげるわ。ご飯だって食べさせてあげるし、どんな事だってしてあげるわ。なんといっても私は可愛らしい貴方のマザーなんだから」
優しげな声色で告げられたのは……全く魅力的なお話である。
なんというか、衣食住ネトゲ完備の引きこもりを勧められている気がするんだけど。
「マザー……」
「ソラ……」
互いに名を呼び、互いに温かな気持ちに――
「マザーも馬鹿なの?」
なるかっての。ふざけろ。ぺんぺん、いや、ぷんぷん。
「え? ソラ……貴方、今なんて?」
「馬鹿なのかって言ってんだ。俺の為、って言葉をアンタの贖罪の餌にすんなってんだよ」
あぁ、馬鹿だなー。俺。学習してないなー。頭の片隅で他人事のように思う自分がいた。
「そ、そんな私は……」
「本当に自分の子の幸せを願うなら、守るだけじゃ駄目だろ。少なくとも、マザーの力が必要ないくらい強くなれるように育ててくれよ。育つからさ」
ぺしぺしとママ鳥の頭を叩く始末。阿呆鳥は俺だわ。どうしよう。いや、突っ切るしかないか。水を泳ぐペンギンらしく、阿呆鳥らしく。
「でも、どうやってミルキーワームを倒すというの? 私の力はあげられなかったのに……」
「頑張ってどうにかする。というか、そんな簡単で強いだけの力なんて要らないんだよ。俺がそう願ったんだ」
おぅ、口が滑る。もう自棄か。
「願った……? なんて馬鹿な事を、どうしてそんな真似を」
俺の未熟が自分のせいではないと知ったのに、ママ鳥の声は悲しげだ。ごめんな馬鹿で。
簡単な力は要らないと願った理由、か。神サマの時はなんて言ってたか。あの時もはっちゃけたなぁ……でも、まぁ理由は変わらないようだ。
「誇りを持って生きる為だよ。マザー」
あぁ、クサい台詞だが。真理だね。言葉にして、しっくりかっちり心にハマった気がした。前世のように誇れるペン生にしようではないか。
[心理によるアンロック。称号によるアシストを確認。特殊アビリティ『種』を取得しました]
あん? なんか取れた? 初めて聞こえた単語があったけど。
「誇り……? あぁ、ソラ……貴方はどれだけ――」
あれ? 急に眠たく、なって……
唐突に襲いかかる、抗えない程強い睡魔に俺の意識はぷつりと途絶えた。
以降、ステータスをこちらに載せます。
名前:ソラ
種族:ミニペンギー
レベル:1
心 B
技 E-
体 F-
魔 F-
アビリティ
【ふわふわボディ】
【格闘の心得】
new【種】
スキル
【逆水平チョップ<T>】
称号
【神*呪%>◎℃】
【神の悪戯】
【凶極鳥の寵愛】
【ペテンペンギン】
【チョップ オブ ペンギン】




