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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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ひよこの疑念


長い息が漏れた。


どこまでも長く、身体のなかにある全ての空気を吐き出すように。


吐き出して、吐き出して、吐き出し尽くして。吸い込んだ空気は生臭くて、鉄サビみたいな匂いで思わず咳き込んでしまう。


だけど、なんだ。なんでしょう。



「……思ったほどじゃなかったですね」



人型とはいえ、オークだからだろうか。


忌避感や嘔吐感は想像よりも遥かになかった。経験値のアナウンスに対する感情も希薄だなと他人事のように遠い所で見ている私がいる。


「メア……だいじょうぶ?」


「あぁ、問題ない。それよりもまだ終わってない」


思っていたより、というべきか私の攻撃は派手だったらしい。その証拠にジョルトおじいちゃんに向かうはずのオークの何匹は、私の姿を仰天した様子で見ていた。



「ジョニーは休んでてもいいよ」



敵意へと変わったそれらの視線を一身に受ける形で、私は一歩前へと足を踏み込む。


不思議と気持ちは落ち着いている。


恐怖もなく、高揚もない。


数は三体……いや、三匹か。後ろの一匹が鎧を着てない事から全てのオークが鎧兜の武装しているわけではなさそうだ。翼を振り抜くように払う。



風羽根(ウィンド)の矢(アロー)



先頭を走る二匹のオークは"足元"へと撃ち出された緑の矢には意を介さずそのままの勢いで走り抜けようと――



[経験を取得しました。レベルが上がります]



鋭角に跳ね上がり、急上昇した矢が兜の守りがない下顎を貫いた。兜までは貫けなかったようだが、それが逆にとんでもない事態を兜のなかに引き起こしてしまったのかもしれない。イメージしかけて、少し気持ちが悪くなった。


不器用にもつれて転ぶ二匹に思わず足を止める三匹目は腰蓑(こしみの)と棍棒といった、いかにもオークといった様相だ。



風切り(ウィンド)の刃(カッター)



次いで横薙ぎに払った翼が飛ばす風の斬撃に、オークは流石に棍棒を縦に構えて防御しようとする、が……


「ブギュィッ!?」


相手は"風"なんですよ?


棍棒の当たらない部分はそのまますり抜けるし、なんならその身体ごと棍棒すらも両断してしまった。


[経験を取得しました]


威力、込め過ぎたのかな? もしかして金属っぽい鎧も抜けるのではないんでしょうか?


泣き別れした胴体から鮮血を吹き出して、どうっと倒れる身体の向こう側。まだいるオーク達は私を見ていた。



ジョルトおじいちゃんに向けるような、恐怖の眼差しで、私を見ていた。



「困ったな。調子に乗らせないでくれないか?」


狙いはその後ろ、前衛に気付かれぬように背を向けて森の奥へと逃げようとするオークにするとしよう。


その為の風は、既にクチバシに在る。



風の(ウィンド)一突き(スナイプ)



一条の風の槍がオーク達を吹き抜け、逃げるオークの背中を鎧ごと撃ち抜いた。



[経験を取得しました]



やっぱり抜けるんじゃないですか。



「メア……?」


「うん?どうしたのジョニー」


弟の声に振り返ると、やっぱりまだ怖いらしいジョニーの姿があった。まったく、仕方の無い。でも私でも十分やれるってわかったし、もう大丈夫。


「…………ジョニーが、ジョニーがやる!!」


と、思ったら力強い声で叫び、ジョニーは残りのオークへと走っていく。まだ一人称は慣れきっていないのか、ジョニー呼びに戻っている事にちょっと微笑ましくなってしまう。



「ジョニーがメアを、まもるんだから!!」



突撃の勢いのまま、誰の真似をしたのかぐるりと横に一回転して回し蹴りを繰り出す。その威力は斧を盾にしたオークを吹き飛ばし、森の奥へと消し去る程だった。



「だから……メアを、いじめないで!!」



思いもよらない叫びをあげながらクチバシで剣を弾き、なぎ倒し、足で踏みつければ轟音と共に鎧がひしゃげて潰れる。前世の重機のような勢いに驚きを禁じ得ない。



「その調子だが、まだ終わらんからの!! 張り切り過ぎるでないぞ!!」



そうだ。私達はこのまま南の方に進みながらソラさんの援護に行くんだった。まだ着地地点なのに抑えて行かなくちゃ。



そこからは木々の隙間を進みながらオークを狩っていくように私達は移動を開始した。



◇ ◇



「疲れはない……わけでもないであろう、ほれ」



戦闘の合間、小走りで並走するジョルトおじいちゃんは何処から取ってきたのか木の実を私に投げてくれた。お腹は空いてないと思うけど、確かに食べておいた方がいいかも知れないとそれを咥えて頷く。


あっ、これ私の好きなやつだ。知っててくれたのかな? ジョルトおじいちゃんはそういう所で気がつく人だ。


ジョニーも好みの果実を投げ渡されたのか、少しだけ嬉しそうに目を細めている。その身体はオークの血に汚れて赤くなっている。幸いな事にジョルトおじいちゃんはもとより私達全員、怪我らしい怪我もなくここまで来れていた。


レベルも着々と上がり、風術の使い方も実戦を通して洗練されているようにも感じる。まだ近接的な戦闘は怖いけど、離れたところから撃つ後衛と思えば決して悪いものじゃないはず。


「今がだいたい半分くらいまで来たかの」


木々の隙間に見える極樹から位置を割り出しているのか、まだ半分なのか、もう半分なのかはちょっと考えてしまうところだ。



「そういえば、オーク達が武装してるのは珍しいんですか?」


聞こうとは思っていたけど、なかなか交戦混じりで聞くことを忘れていた事を訊いてみることにした。それらしい事を着地地点で言っていた気がしたし、鎧を着ていないオークの方が、なんと言えばいいか。自然体に見えたからというのもある。


「少なくとも、奴らにはドワーフのような鍛造技術はない」


私の問いにしばらく考えるような素振りを見せて、ジョルトおじいちゃんは応えながら再び難しい顔をした。


「オークとは別口の、それこそドワーフが装備を流したと?」


「いや、それにしては余りにも質の悪い物ばかりだったのが気がかりでな……ドワーフであったとしてもあんな粗悪品を誰かに渡すくらいなら自分で潰しておるじゃろうし」


まだ自分のなかで納得しきれない様子に私も考える。それにしてもドワーフはイメージしたようなドワーフなんですね。職人気質というか、頑固というか。



とにかく、このオーク達に関しては裏がありそうな気がしてきた。



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