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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第一章 ペン里の道も一歩から
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閑話 パタついて会議

ゲリラ更新

 

 漆黒の巨城。


 何もかもが夜に溶けるような黒に染まるその城の中庭には様々な生き物がいた。


 その数は10。人の形をした者、獣の形をした者、形なき者。多種多様な生き物達が集い、誰もが険しい顔で話をしていた。中には涼しげな顔をしている者もいるが、ほぼ全ての生き物達は内心、"ひとつの存在"に萎縮していた。



「今日もまた、随分と機嫌が悪そうだな」


「口を開くナ。消されるゾ」



 ひそひそと話す声に対して、"それ"は一瞥(いちべつ)すらしない。


 時間が惜しいのだ。(ひとえ)に"彼女"の思いはそこに帰結する。しかし、その事実を知る者は極わずかである。



「い、以上で魔王幹部定例会を終了します」


 幾つかの議題は未だに解決していないし、始まってすらいないのだが、それで構わない。むしろ、助かる。参加者達が抱く(おおむ)ねの心境である。


 途端に弛緩(しかん)する空気に、突如として風が吹く。風というには(いささ)か強過ぎて、城の窓がビリビリと鳴り響くが。


 風の送り主である彼女は、その大きく美しい紺碧の翼をはためかせる。最早会議のなかにあった『経費節約、無闇に物を壊さない』とはなんだったのか。風で半壊した庭木は抗議と断末魔の声を上げて無情にも倒れさた。



「よぅフェニス。これから帰るのか?」


 それ以外に何かあるのか。会議中に散々『早く帰らせろ』と呟き、目を血走らせた彼女に対して、そんな声をかけた勇敢、或いは馬鹿な存在に誰もが目を剥いた。



「えぇ、可能であればもう呼ばないでいただけると皆助かるでしょう?」



 内心では賛同者多数の彼女の皮肉に、しかし誰もが正反対ながらも言葉にならない呻き声を上げる。そんな彼らを彼女は初めて存在を確認したように見回して短い息を漏らす。



 魔王幹部。そう、一時は世界を席巻(せっけん)した魔王の軍勢。その中でも指折りの存在。時代の忘れ形見のなかに彼女自身もまた存在する。ただし、余りに実力格差のある内訳に激高した日もあったが、遠い昔のように思える。


「それは前々から聞かされたしこちらの答えは聞いていたかい?」


「いえ、まったく」



 これ見よがしに両手をぶらぶらと振る黒い鎧騎士に、悪びれる様子もなく彼女は答えた。黒騎士も彼女の対応には慣れている。精々、この鳥頭、と心中で罵倒するだけで済ませているくらいには。



「いい加減にその帰りたい事情を話してくれないか?使いを追いかけさせても誰も帰ってきてくれないんだ」



 黒騎士の言葉に何体かの生き物は怯え、その内の一体は自分には関係ないと中庭から逃げようと――



「私、帰りたいのよね。誰より速く、速やかに」



 答えは会話に在らず、ただ意志を投げる。


 同時に音も、風も、全てを置き去りにした片翼のひと振り。たったそれだけで中庭から足を踏み出した誰かは"その形を永遠に無くした"。



「ほら、みんなも会議が終わったから帰りたいのよ。私も帰りたいのに、ね」



 同じ組織の者なのに薄情じゃない?と言葉だけ笑ってみせる。


恐らくは、彼女より先に中庭を出る物は少なくともその生すら出て行ってしまうのだろう、ただし中庭からではなく世界から。こんな上司、同僚がいたらパワハラ所の騒ぎではないのだが。


 ある意味、異種族間の会議の場では種族同士の戦争問題になるであろう行動を咎める者は誰もいなかった。恐怖半分、あとは我関せずと居眠りと観戦と――



「だから、こちらはその理由を聞きたいと言っている。この鳥頭が、おっと」



 そんな光景を見ても尚、引かずに対話を望む黒騎士が一歩横にズレる。直後に立っていた場所に突き立つ一枚の羽根が地面を白く染め上げて草花をパキパキと小気味良いまでに軽薄に、そして残酷に凍てつかせていた。



「それは全員の総意? ブルータ……えっと、なんとか。そんなに私がこの場所からさっさと帰りたい理由を知りたいと?」


「プルートだ。お前がカッカしてるから隣で会議してた奴が凍死しそうなんだってよ。命に関わる事に理由を求める。道理だね」


「あら、そう……確かにそうね」


「オデは別に……があ……ア……」



 恐らくは彼が彼女の隣で会議をしていたのだろう。豚の頭に豊満な身体をした生き物、オークの代表としてこの場にいた彼だが……次回は別のオークが来るのだろう。


 そして、そのオークはたった今、氷像となった彼と再会するのだ。なんと言えば次回の会議はスムーズに始められるか。黒騎士は頭が痛くなった。



「残念だけど、これじゃ勘定が合わないわね。反対の方はどう?」


「ニュクス。ワタシ、気二シナイ」


「でしょ? そういうと思ったわ」


 最も氷像となったオークとは反対側にいた小さな翼を携えた小さな人型は身体を凍らせて尚、楽しげに飛び回っていた。



「そりゃ、氷精霊の女王サマは心地良いだろうさ。蛇の道は蛇、道理だね。まぁ、話せないなら仕方ない」


「あら、そう?それじゃ帰っても?」


「オッケーオッケー。さっさと家でもなんでも帰れ糞鳥、糞して――」



 自棄を起こしたように彼女、ニュクスへと手を振る黒騎士の頭が、ごろりと地面に落ちた。



「寝ろってんだ。それが道理だ」



 しかし、頭は身体から離れても話を続け、身体は動き、その手はニュクスへと中指だけを突き立てていた。


 音もなく、いつの間にか地面から生え、自身の首元へと伸びる黒い槍をひと吹きの吐息で凍てつかせ、砕く。ニュクスのその行動には一切の感情がなく、また黒騎士も気にも止めない様子である。



「あぁ、忘れてたわ。プルート、"死ねなかった方"だったわね」



 いつの間にか伸ばしていた翼を畳んで、ニュクスは初めて関心を持ったように、ゆっくりとその眼を細める。



「ん? あぁ、また殺っちまったのか。先代もあれな方だったけど、やっぱり死ぬヤツはダメだね」


「シヌ、ダメダネ」



 首無し黒騎士が肩を竦め、その肩の上では先の妖精王と呼ばれた少女が同じポーズを取っていた。



「ぬ……話は終わったか?」



 その時、今の今まで眠っていたらしい存在が声を上げた。ジャラリと身体中に巻いた鎖を鳴らして立ち上がるそれは、端的に言えば大きな狼だ。


 ただし寝ている自身の身体が中庭の半分を占拠しているくらい大きさで、彼専用の入り口が無ければ、この城の城壁は無くなっていただろう。少なくとも城壁なんて意味を無くしてから久しいが。


 ちなみに中庭の占拠率でいえば、狼が3割、ニュクスが1割、残りが余白とその他だ。つまり景色の大半が狼か鳥なのだ。



「フェンリウス。会議はまだ終わってないぞ? うわっ、犬くせぇ」


「ゲボッ、ジジィ、クセェ」



 大迫力な欠伸を正面に受けながら、果たして臭いを感じるのか疑問な首無し黒騎士がそう告げる。勿論、会議は先程終わったばかりだ。



「そうか。なら終わったら起こしてくれ……まだ揃ってもいないし、やれやれ早く来すぎてしまったようだな」


 そう言うや否や、大きな目を再び閉じて眠る狼、フェンリウスに首無し黒騎士は再び肩をすくめる。



「解ったか? ニュクス、このジジィだって来たくない会議にこうして寝に来てるんだ。本当は秘密だが、前々回の会議から寝たままだ。みんな薄々気付いてるだろうが、秘密だぞ? その意味では誰よりも最初に来て、最後までいる偉いジジィなんだ」



 モノは言いようだ。ニュクスも流石にフェンリウスという存在には一定の敬意を抱いているのか。微動だにしなかった。



「解った。フェン……ジジィがいる限りは私も出るわよ」


「なぁ、このジジィの名前忘れてないよな?」


「……じゃあ、帰るわね? プ、プ……プルル――」


「また忘れるだろうが言っておく、俺の名はプルートだ……て、聞いてねぇし」



 果たして黒騎士の疑問は解明されぬまま、フェニスはバッサバッサと羽ばたいていった。お陰様でその風で黒騎士の頭部がごろごろと中庭の茂みに隠れてしまったが。


 こうして、フェニスは帰路につく。



 魔王幹部、凶極鳥フェニス。


 家である巣が近付くにつれ、彼女の表情は冷徹なモノから氷塊していく。



「待っていてね。メアリー、ジョニー、それに……まだ見ぬ私のベイビーちゃん」



 次の日、夜間にも関わらず、魔王幹部集会が開かれる事になり、オークの氷像が二体に増え、狼が寝通し、黒騎士がバラバラにされて憤慨し、妖精が笑うのだが。



 昼前に帰ったフェニスを待っていたのは二人の子供だけではなかった。



 新しい家族が増えた、ソラという。小さくて、本当に小さくて可愛らしい存在。



 それが彼女の未来にどう関わるか。それは誰も知らない。


少なくとも、次回の会議もまた荒れるのは変わらないのだが。

名も無きオーク2人と何かわからないまま消えた1人に黙祷。

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