ひよこと恐れ
口の中に感じる鉄の味は自分のせい、でもそれ以上に身体が痛過ぎ……!!
ジョニーの体当たりを避ける為に咄嗟に取った行動とはいえ、自分の風術をもろに当たるとどうなるか。知りたくはなかったけど、あの突進を受けるよりずっとマシなはず……だと思いたい。
ジョニーはジョニーで着地に失敗したらしく、奇しくも私と同じように痛みにのた打ってるようだ。すぐに体勢を整えなきゃいけないのはお互いに理解しているけど、けれども痛いものは痛い……!!
なんとか体勢を先に整えたのは……私のほう!! 可哀想だけどこの隙を逃してあげられる余裕はない。
イメージするのは風の羽根を模した矢。
翼を振って巻き起こる風を集めて……撃つ!!
風羽根の矢。キラーマンティスの幼体群の戦いの後から学んだ一対多用の魔術だ。詠唱を起点とせずに自身の起こす風を起点にする速度重視の魔術。
一撃の威力の高い風の一突きの方が個人的に好みだけど、状況的にこれが最適解!!
細かな狙いが付けられないのは今後の課題だけれど、質より量の風の矢がこちらへ向かおうとするジョニーへと殺到する。
「わぁ!!いたい!!」
悲鳴をあげるジョニーに罪悪感が滲む。どうして避けないのか、どうして逃げないのか。模擬戦だから威力は抑えてるといっても何度転んでも立ち上がり、ただひたすらにこちらへと突進しようとする。
「っ……しつこい」
まるでなんとでもないと言われてる気がして、翼を大きく広げて風を大きく吹かせる。狙いをつけるコツも次第に掴めてきた。同時にジョニーもまたクチバシと頭で弾く事を覚えたのか、諦めることを忘れてるかのように突っ込んできた。
マナはまだ保てる。距離も詰められてない。まだまだ大丈夫。
それなのに、この予感はなに?
怪我を負ってるのも、息を切らせているのも、ジョニーの方なのに。
いつしか近寄る距離が短くなる。弾かれる回数が増えていく、しかも手際が良くなっていく。
なんで……
鋭い目が、私を貫く。
なんで、倒れてくれないの。
震える体で、血のにじむ足で。
どうして……!?
「いけぇぇっ!! ジョニィィィィッ!!」
「っ!?」
不意に響き渡るソラさんの応援に呼応するように――
「――――ッ!!」
音が爆発した。
予感は既に確信へと姿を変えていた。
いつもの愛嬌のある姿から漂う雰囲気は、いつものそれではなく。
「あ、あぁ……」
射抜くような鋭い視線から目を逸らしたいのに、逸らすことが出来ない……
「い、や……」
だって、いま目を逸らしたら――
"私は、死ぬ"。
予感ではない確信。
踏み抜く勢いで突き立つジョニーの足はカウントダウンのように。
その足元が爆散した直前に私が見たのは、ジョルトおじいちゃんの背中だった。




