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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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ひよことひよこ

 


 もう、避けられないんですかね。こればかりは……



 こうなったら、私も覚悟を決めて――



「もぎせん、ってなに?」



 当たり前といえば当たり前なジョニーの問いかけに思わず身体ががくりと落ちた。


せっかく引き締めた気持ちが弛緩してしまうけれど、まったく……仕方のない。


 簡単な説明で終わるだろうかという疑念は杞憂だった。戦う、どうして? 稽古だから。そんな感じに軽いやり取りの末に――



「おれさま、いちばんになる!! さいきょう!!」



 闘争心を漲らせる男の子と言わんばかりにやる気に満ち溢れた姿は、少しだけ眩しく見えました。しり込みしていた私がなんだか恥ずかしくも……と、駄目ですね。言い出しっぺは私なのに。よしっ。



「それじゃ、最初は誰と誰がやるの?」


「へいメアリー、空気読めよ」


「うん? すまないがキミの言っている意味が解らないんだが……」


「え、メアリーも模擬戦したいの?」



 したいの? って……どうしてソラさんはソラさんでそんなに乗り気じゃないのだろうか?



「あぁ、今の自分がどれほどの物か……試すには丁度いいかなってね」


「…………」



 ちょっと格好付けた言葉だけど、少なくとも嘘偽りのない私の本心でもある。


 私はもう弱くなんてない、弱くなんてないんだ。その証明の為にも逃げてはいられない。 


 だから。


 いつになく強い気持ちで見つめる視線の先、そこにはいつものように少しだけ気だるそうなソラさん。



 飄々としている不思議なあなたに、私は――



「それでは、最初にメアリー。そして、ジョニー。お前達からじゃ」




 ……え?



 おじいちゃん。流石にそう来るとは思わなかったよ。




 ◇ ◇



 予想外といっても、私の気持ちは萎えることはない。そう、なにも問題はない。確かに成長度的には私とジョニーがやり合ったあと、どちらかがソラさんと当たるというのは当然とも思えるし……


 広い巣の一角。少し離れた場所に対峙するのがソラさん……ではなくジョニーだったとしても。



「ジョニー、遠慮はいらないからね」


「うん!! メア、いくよ!!」



 元気な声で返すジョニーは、今にも飛んで来そうな勢いだ。事実、飛ぶような勢いで向かってくるのだろう。


 ジョニーには悪いけど、この勝負は貰ったようなものかな?


なんといっても産まれてからずっと一緒にいて、何度となく一緒に戦ってきた仲なんだから。どういう行動を取るかなんて手に取るように分かる。


 突っ込んで来たところを避け、風術で一撃一撃を確実に決める。ヒットアウェイを繰り返せばいい。足は速いけど直線的で、とにかく自分の距離を保てばいい。それで勝てる。



 なんにせよ、です。



「始めぃっ!!」



 まずは一勝、いただきますよジョニー。


 姉に勝てる弟などいない事を教えてあげます!!




 ◇ ◇




 開始の声と同時にジョニーが動いた時は、やはりと思わず笑いそうになり――



 その笑いそうになった顔のまま、私は身体が硬直した。



 ――嘘、でしょ……!?



 いつも横で見ていた突進が、自身に向かうとこうも速く見えるのか。その事実からくる驚きが、私の動きを一瞬止めたのだと気付いた頃には全てのタイミングが狂わされた。


 とにかく、避けなきゃ……!!


 迫り来る黄色の弾丸を前に、焦るままその一心で動いた。右か、左か――



 上に飛んだのは、正直自分でもよく解らない。行けそうな気がした。避けた後にクロースキルで強襲する事だって出来るかもと思わないでもない。



 でも、だからといって――



 この距離は"遠すぎる"……!!



 焦りに焦った私はあろう事か、寸前まで引きつける事を失念していた。泣きたい、馬鹿過ぎる。


 ジョニー、可能ならば下を潜っていってくれていいんですよ?


 そんなささやかな願いは勿論叶う筈もなく、その目がきらーんと輝いたのが見えた。


 一瞬だけ速度が落ちると同時、直線的な動きが、ずどむっ!! と音を立ててこちらへと進路を変えた。



 防ぐ手立てはない、避ける足場はない。



 こうなれば、やむを得ない!!

 


 咄嗟に浮かんだイメージを現実にすべく、私は羽根を翻す。それだけで風は応えてくれる!!



 ジョニーの身体が私に衝突するより先に、風術が私の身体を叩きつけた。



[アクションによるアンロック【風術スペル派生】、【緊急離脱】を取得しました]



 あっ、ラッキー……



 加減なんて考えなかった衝撃に飛びかける意識のなか、そんなことを思った私だった。





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