ひよこの思い
パタつかせて彼女の秘密
及び、
パタつかせて魔王選抜
を修正加筆しました。
内容事態に変更はございません。
ジョルトおじいちゃんからのお叱り、いや反省会は長きに渡り続く。
一緒にいるクリムは気まずいだろうに、しかしながらこの場から離れる事はしなかった。おろおろしているからタイミングを逃しているだけかもしれないけど……
「クリム、先に寝ておれ。儂はもう少しだけメアリーと話す」
「ですが……わかりました」
此方を見たクリムが何か言いたげだったが、私としてもあまり見ていて欲しい光景ではない。それを察してか、一礼したクリムが寝床のベッドへと歩いていく。
そうして、改めて私はジョルトおじいちゃんと対座する。
「さて、聞くに耐えんかもしれんが、爺の苦言にもう少し付き合ってもらおう」
「いえ、そんなこと……」
怒声や罵声のない静かな言葉、その裏に見える気遣いのような物が余計に胸に突き刺さる。今回だって、もしキィルがその気であれば、死んでいたのだ。
否が応でも知らされる……私は弱いと。
悔しくもあるし、おかあさんやジョルトおじいちゃんの期待に応えられなかった事が悲しい。
「よい、少し意地の悪い言い方だった。儂も若い頃はそう応えるしかなかったわ」
幾分か柔らかい口調で笑うジョルトおじいちゃんは懐から瓢箪型の酒瓶を取り出し、再び私を見る。
「メアリーは酒は……やらぬか。ふむ、まぁ、これよりは楽にせい。特と身に染みたようだしの。ほれ」
残念ながら私はソラさんと違ってお酒を呑もうとすらしないのを知ってか、巣から果実を掘り出す。
……狙って取れるのかな。本当に私達の巣は謎だ。
お礼を言いつつも、どこか弛緩した空気にひとこごち付けた。もしかしてジョルトおじいちゃんは私が果実を好きなのを知ってるのかな? 甘酸っぱい味わいを楽しんでいる私の前でジョルトおじいちゃんもお酒を一口、深い吐息を漏らす。
「時にメアリーよ。お前は何故武を修めようとする?」
「…………え?」
夜空を見上げたまま放り投げられた問いかけ。その意図すら探れないまま、私は間の抜けた声で返してしまっていた。
「いや、な。何もメアリーに限った話ではない。ソラやお前達は何を思い、武の道を歩み……強さを求めるのか、とな」
続く言葉で私の頭は漸く考え始める。
どうして、私は強さを求めるのか。どうして、強くなりたいのか。うーん。
「弱いから強くなりたい、のでは……」
それに、強くなればおかあさんも誉めてくれるし。弱いままではいけない。
「うむ。生きる上ではこれ以上ない理由だの。では質問を変えよう。メアリーよ」
再び酒瓶を傾けるジョルトおじいちゃんからはどんな感情も伺い知れない。ただの興味本位なのかな。いや、私の心構えを聞いてるのか。
「お前はどこまで強くなりたい?」
どこまで、強く?
「そういう辺りはあまり深く考えた事がないけど……」
「なに、儂とてそう考えたのはつい最近じゃよ。そうだ、な……目標。そう、目標みたいなもんじゃ」
「あぁ、それなら、ソラさんに負けたくない、っ……とかでしょうか?」
思わずして出た言葉は、自分でもあまりにも予想外で、言葉尻で誤魔化しながら心中は穏やかではなかった。うっかりソラ"さん"とか言っちゃったし……うぅ。
「ほぅ、成る程のう」
「あ、いや……まぁ、例えばだから……」
でもどうして、すぐ出た言葉がそれなのか。確かにソラさんは同じ転生者で……だから負けたくないというのは、確かにある。自分の中に。
「だが、実際お前は既にソラより強いのではないか? 力も、術も」
「でも、それだけじゃ勝ってると思えないよ。ソラさ、ソラは未知数だから、判らないけど」
「ひとの事は言えんがの……いや、なんでもない。しかし、確かにソラは不思議な奴じゃの。儂を退けたり、ミルキーワームに悪戦苦闘したり、ちぐはぐじゃ」
「……おじいちゃんを退けた?」
なにそれ初耳なんだけど?
「っ……まぁ、前にな。いや、儂も本気ではなかったが、肝を冷やされたのは事実じゃ」
初めて聞いた話な気がする。いつの話だろう。あぁ、もしかして湖で競争した時の話だろうか? 確かにソラさんがジョルトおじいちゃんを圧倒したけど。
「その話は置いておこう。なんにせよ、メアリーはソラと戦ってみたいか?」
「うん。あ、でもそんなにすぐじゃなくても……」
「ふっ、解っておる解っておる」
何だか私を戦闘狂と思われてしまいそうになっちゃうから否定するけど。
ソラさんと私が、か……
でも、確かに、いつか。
その時に私は、ソラさんに勝てるのだろうか。
短めで申し訳ありません。




