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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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ひよこの眠れぬ夜

2017/8/25 パタつかせて彼女の秘密/魔王選抜の2話の内容を修正加筆しました。

 


 一時はどうなるかと思っていたけれど、ひとまずキィルの件はこれでひと段落といったところだろうか。今日も今日とてドタバタと忙しない一日が終わる。


 いや、これからだ。私の一日はまだこれからだ。むしろこれから始まると言っても過言ではない。


 柔らかな星明かりの下、ゆったりとした時間のなかでお母さんとの語らう。


今日はこんな事があった、あんな事があったと。それをせずして終わる一日など在りは――


「さて、ソラ。ついてきなさい」


「……俺?」



 しないと思ったが、現実はそんな私を嘲笑う展開を見せようとしていた。



「あの、お母さん。少し話が――」


「ごめんなさいね、メアリー。今夜はソラと約束をしていたのよ。また少し巣を空けるけど、お留守番頼める?」


「え? あ、うん。それじゃ、明日……」


 微かな抵抗も呆気なく失敗する。話したい事、たくさんあったのになぁ……いっぱい話したかったのに、なぁ……



「悪いなメアリー。今夜だけマザーを借りるぞ」



 気持ちが顔にでも出てしまっていたか、ソラさんは申し訳なさそうに私に詫びてくれた。今夜だけ、なら……



「……気にするな。私だって、子供じゃないんだ」


「ふふっ、あなた達は何時までも私の大切な子供よ」



 どこまでも温かく、どこまでも優しげなお母さんの声は私の胸の奥に同じ熱を与えてくれる。大好きな温度、今夜はそれを抱いて眠るとしよう。


 でも、お母さんの背に乗るソラさんがやっぱり羨ましい。ふたりで何を話すのかな、気にならない筈もないけれど。見送る事しか私には出来ない。明日はきっと、私の番……そう思いながら。



 あれ、お母さん?


 どこまで歩いていくの?



 不意に感じる違和感に気が付いたのは、私だけだろうか。遂には大きな翼を広げる事なく、ふたりは巣から落ちた。



「「えぇっ!?」」



 私とクリムの驚く声がシンクロするなか、ジョルトおじいちゃんは声を上げて笑い出す。そういえば、秘密基地があるからそんなに強く羽ばたけないんだっけ。びっくりしたなぁ……と、いうかジョルトおじいちゃんはなんで笑ってるの?



「ふふっ、あれには丁度良い薬じゃ……フェニスよ、よくやったぞ」



 キィルの糸玉を片手で弄びながら、機嫌良さそうにしているジョルトおじいちゃんに、私とクリムは目を見合わせる。何の事を言ってるんだろう?



「めあ。ねむい……」



 先程から随分と静かだと思っていたら……ジョニーは夜に弱いな。宵の口だと言うのに目も声もトロンとしている。可愛い。まったく、可愛い。


 さて、ジョニーを寝かしつけながら私も今夜はもう寝ようかな。



「あ、あの……本当に私なんかがベッドを使って良いのでしょうか?」


「クリムよ。遠慮は美徳になる事もあるが過ぎれば無礼と変わらぬぞ? あれは皆がお主の為に作ったのだからな」


「クリム、お爺ちゃんの言う通りだぞ?」


「す、すいません。有り難く使わせて頂きます」



 まったく、今日一日だけでクリムがどういう人かが思い知れた気がする。遠慮がちというか、腰が低いというか、異様に他人行儀というか。まぁ、まだ来たばかりだから無理もない……のかな。



 まぁ、ソラさんと違って、仲良くなる分には、簡単そうだ。ソラさんと違って。


思い出しただけでも腹立たしくもあり、もどかしい。なんでかソラさんは異世界トークを避ける嫌いがある。転生者同士意気投合出来ると思う部分があるのに、今日でまともに接した所でいうなら秘密基地作りだけで――



「めあー。めあー」


「あぁ、ごめんごめん」



 ぐずるジョニーに思考を打ち切り、一緒に寝床につく。といっても固定の場所などないんだけどね……



 ◇ ◇



 物の数分で眠りに落ちるジョニーと違い、やっぱりまだ眠れないと私はジョルトおじいちゃん達の下へと戻る事にした。


 なんか、やっぱり話し足りないからかな。ジョルトおじいちゃん達もまだ起きてるようだし。



「相変わらずジョニーは寝付きが良いのぅ」


「ふふっ、陽の出てる時にはいっぱい動くからね」


「まったく、遠回しにお主の夜更かしを諫めているのだがな」


「私は、まぁ……ジョニーよりは大人だから」



 近付く足音だけで察したジョルトおじいちゃんの声に笑って返すと、その横に座る。


 昨日までは眠くなるまでふたりで話す事も少なくなかったけど、今日は……今日からはクリムとキィルも増えていた。



「え、メアリー様? 御眠りになられたのでは?」


「……キィ?」


「私はまだ眠くないからね」



 クリムと一緒に不思議そうに私を見るキィルだが、あいにく通訳者不在だ。まぁ、その通訳者というのも眉唾物だけれど。



「……と、まぁ。ここでの一日の流れは大体こんな感じじゃな?」


「ここの生活の話?」


「うむ。クリムはさて置き、キィルはつい今し方住むのが決定したのでな」


「キィ」



 頷くキィルはこちらの言葉を完全に理解しているようだ。賢いという言葉で済ますには些か難しい部分でもあるが……



「それでは、その……御迷惑をかける事もあると思いますが、改めましてこれからよろしくお願いします」


「まぁ、社会勉強に来たといっても学ぶような事の少ない場所だが、ゆっくりしていってくれると嬉しい」



 居住まいを正して頭を下げるクリムにこちらも頭を下げ返す。礼儀は大切だけど、やっぱりまだ堅いなぁ……徐々に慣れていって欲しいものだ。



「堅苦しい事はさて置くとして、だ。メアリーよ、随分と遅れてしまったが……反省会といこうかの?」


「反省、会?」



 あまり歓迎出来ない響きの言葉に視線を向ければ、ジョルトおじいちゃんは笑顔……の奥に静かな怒りを見せていた。



「キィルとの戦闘……いや、あれは戦闘と呼ぶに値するレベルとは到底呼べんな」


「キィ?」


 あ、はい。その件に関しては申し開きのしようもないです。



「仮にも我が流派の門下生であるならば――」


 その後、眠くなる事も許されないお話を聞くことなった。やはり、ジョニーと寝ておくべきだったかもしれない。



ここまでお読み頂きありがとうございます。


休みが、ほしい……休みが……


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