パタつかせて最弱王決定戦
これは、後にママ鳥から訊いた話だ。
ミルキーワーム。
様々な生物が生きるこの世界で、最弱生物と言えばミルキーワーム。その癖、どこにでも涌く生物ミルキーワーム。芋虫は蝶や蛾、蜂へとその姿をかえるがミルキーワームはミルキーワームに始まり、ミルキーワームからミルキーワームに終わる終始ミルキーワームライフを送る生物。ノーミルキーノーワーム。地上へ出ると何かの拍子に死んでしまう事が多く、何が原因か判らないのに死ぬ事があるのがミルキーワーム。噂では隣の山で吠えた狼の声で絶命した事があるらしい。私が赤ん坊にあげるのはミルキーワーム、何故ならば彼また特別な存在なのです。栄養が豊富だが、不思議な事に大人が食べても腹の足しにもならない摩訶不思議生物ミルキーワーム。この世界のどこかにミルキーワームの王がいて、世界をミルキーワームでいっぱいにしたいらしい。ミルキーワームがいない場所にはペンペン草(ペンギンとは一切関係ない)が生えず、大地の精霊ではないかという噂がミルキーワームにはある。さて、私はこれまでミルキーワームと何回言ったでしょう?
つまり、俺が挑むのは一匹の蟻にも等しい存在。
それを知ったのは、本当に後になる。
◇ ◇
「シャァコラッ!!」
戦いのゴングが鳴らされた直後、挨拶がわりの先制攻撃と、俺は気合いの乗った声とともにミルキーワームへと羽を振るう。
逆水平チョップ。俺がペンギンとして産まれて最初に覚えた技で、頼もしい相棒だ。
無論、ただの逆水平チョップではない。
体格差を利用し、地面を這うミルキーワームに向けて倒れる身体ごと翼を振るう逆水平チョップ……その名を【地割りチョップ】。ちなみに俺が今付けた。
[アクションによるアンロック、【逆水平チョップスキルツリー】派生、【地割りチョップ】を取得しました]
脳内に響く声と、すぺんっ!! と小気味良い音が巣に鳴る。枝と羽毛でなんでそんな音が鳴るのか不明だが……
「ちぃっ、外したか!!」
上手く身体を捻ったらしい。ミルキーワームは俺を嘲笑い、あるいは挑発するように、びったんびったんと跳ねる。にゃろう……
そこで倒れたまま、ごろりと回転。その勢いから繰り出すのは……そう、これもまた逆水平チョップ。
名を【飛び魚】。踊るように舞うこの翼の軌跡が、海を飛び跳ねる飛び魚に似ている所から頂いたのだ。たった今、頂いたのだ。
[アクションによるアンロック、【逆水平チョップスキルツリー】派生、【飛び魚】を取得しました]
再び、脳内へと響く声。あ、やっぱり回転ノコギリにしとけば良かった。そんな思いを抱きながらまたも、すぺん!! と響く音。しかも、またも外した。ファ○ク。
ワンモア、喰らえ!! 回転ノコギリ!! 駄目か。飛び魚で何かが確定したらしい。
「ソラ。遊んでいてはダメよ?」
「…………」
ママ鳥に窘められて俺は、よっこいせと立ち上がり、羽で埃を払う。
やれやれ、どうやら本気を出す時が来たようだ。でなければマザーがうるさいからな。
悪いが……遊びは、終わりだ。
……わりかし本気だったんだけどな。
と、再び動かなくなるミルキーワーム。死んだらしい。何ともいえない気持ちになる。アイツ、俺を散々笑って逝きやがった。
「もう一回――」
「お願いマザー。もう一回頼む」
ママ鳥が何かを言う前に、俺はお願いした。もしかしたら止めさせようとしたのかも知れない、一応ご飯を無駄にしてるような物だしな。前世では食料を無駄にしては母さんや父さんに怒られたものだ。ミサイル打たれかけても平気なのに飯のことでマジギレする国の出だ。
だが、だからこそ、このまま終われない。
「ソラ……」
「頼む。マザー、もう一回やらせてくれ」
一瞬だけ顔を覗かせた郷愁の念に蓋をして、俺はママ鳥を見上げる。傍目から見てつまらない戦いかもしれないけど、申し訳ないけど付き合ってほしい。
「ふふ、いいわ。でも少しは食べないとダメよ?」
「……わかったよ。ありがとう」
「いいのよ。私は貴方のママなんだから」
器用にウインクを見せるママ鳥に感謝しつつ、今し方お亡くなりになったミルキーワームへと歩み寄る。
ただ殺すだけでなく、その命を頂戴しなければ、だよな。妙な感慨に耽りながら俺はミルキーワームの身体を口に――
「ぬ……?」
ママ鳥から咀嚼された物を食べた事はあったが、そのままは初めてだった。
だから、知らなかった。
クチバシで噛むも、柔らかくも確かな弾力の身は一向に千切れない。がしがし、千切れない。解せぬ。
ならば、と一端をクチバシで、一端を足で踏み。屈んだ状態から一気に――
ち ぎ れ ろ 。
ぐぃっ、と伸ばして引きちぎろうと全身のペン肉もとい筋肉に力を入れる。
「…………」
クレイジーミルキーワーム、死んだミミズは千切れない。まるでトレーニング器具のゴムチューブのように伸びる。
おのれ……!!
死して尚、俺を笑うのか貴様は……!!
やけくそ気味に首を上下に振る。みょいんみょいんと伸びるミルキーワームの遺骸。ちょっとしたエクササイズである。ふざけろ。
「ソラ……」
「待ってマザー!! 遊んでるんじゃないんだっ!!」
じろり、と先程より怒りの籠もった声と視線に、流石の俺も抗議する。俺だって早く腹拵えして戦いたいんだよ!!
「まったく、仕方ないわね」
半ば呆れたように、ひょいとミルキーワームを咥えてむしゃむしゃ。おかしいな。見てる分には簡単に見えるのにな。
あ、いただきます。ぺーん。
食べる事への抵抗? 今更だよ。餓死したくないもん。
「ごちそうさま。それじゃ、早速だけど――」
充電満タン。ペンギンの底力を見せるときが来た。
すぺん!!
[アクションによるアンロック、【逆水平チョップスキルツリー】派生、【アラウンドワールド】を取得しました]
すぺん!!
[アクションによるアンロック、【逆水平チョップスキルツリー】派生、【天昇ペン竜斬】を取得しました]
すぺぺん!!
[アクションによるアンロック、【逆水平チョップスキルツリー】派生、【よく見たら垂直チョップ】を取得しました]
……すぺ。
[アクションによるアンロック、【逆水平チョップスキルツリー】派生、【ああああ】を取得しました]
すーぺん。
[その名前は青少年保護規約に抵触する為、登録出来ません]
すぺんすぺん!! すぺぺぺん!!
[アクションによるアンロック、【逆水平チョップスキルツリー】派生、【俺の怒りファイナルギガンティックいい加減にしろ】を取得しました]
……すぺん。
[アクションによるアンロック、【逆水平チョップスキルツリー】派生、【お願いですから俺の手で死んでもらえませんかね?】を取得しました]
[スキルツリー派生数により、称号をアンロック【翼を打つペンギン】を取得しました]
……10戦10死。
死って、なにって?
ミルキーワームに死に逃げされた数だよ。
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ここまでお読み頂きありがとうございます。ぺぺん。




