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パタつかせてペン生~異世界ペンギンの軌跡~  作者: あげいんすと
第三章 泣きっ面にペン
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ひよこの健闘、拳聖の苦悩

 

 自身へと返された風の矢が迫るなかで、滲み出る恐怖。身体は硬直を始め、目を閉じそうになる。


痛いのも、怖いのも、嫌だから。


 でも、そんな自分を許すわけにはいかなかった。


私だって、やれるんだ。



 弱い本能を無理やり抑え、開いたクチバシは反逆の発露か。吼えるように、しかしそこから生まれたのは声ではなかった。


「ぬぅっ!?」


 風の矢の向こう側に垣間見えたのは、ジョルトおじいちゃんの驚いた顔。


それも一瞬、音もなくただ静かに放たれた緑の暴風は風の矢を飲み込み、その先にすら塗りつぶす。



[アクションによるアンロック。【風術 序スペルツリー】開花。【奥義 風の奔流(ゲイルストリーム)】を取得しました]


[心理によるアンロック。【反骨心】を取得しました]


[【風術 序】がセカンドステージ【風術 破】に到達しました]


[条件を達成。称号【風の子】を取得しました]



 唐突に響く声に驚いている私は、そのせいで風のなかから現れた"手"にあっさりと捕まってしまうのだった。



 ◇ ◇



「まったく、肝が冷えたわい」


 とは、着流しの埃を払うジョルトおじいちゃんの言葉。余りの軽い言い草に、奥義といってもそこまで凄い物じゃないのかなと残念感は否めない。


 そう、結果として油断した私の敗北でも、あの風術を以てしてもジョルトおじいちゃんは無傷、衣服すらもだ。


私の全力はまだその程度も出来なかったようだ。



「これ、メアリーよ。そんなに落ち込む事はないぞ」


「で、も……奥義だって出来たのに……」



 見透かされる程に消沈していた私に、ジョルトおじいちゃんはその手を私の頭に乗せる。大きいけど、しわが寄って節榑(ふしくれ)立つ、そんなおじいちゃんらしい手は優しくて、暖かい。


「前に見た時より、あの風は清々しい。良き力であった。だが、儂が出来たばかりの奥義に負けるわけにもいくまい?」


 悔しさと諦めでぐちゃぐちゃになりそうな心が撫でられる度に凪いでいく。同時にその言葉に小さな痛みを覚えた。



良き力。



 前に見た時、それは以前に私がジョニーを助ける為に放った風術の事を言っているのだろう。


 ジョニーを助ける為に動いたにも関わらず、巣を破壊した風術は助けるべきジョニーさえ巻き込んでしまった。


あの時は無我夢中というのか、意識を失う直前の記憶も今ではどこか断片的だ。



「あの時の儂はやはり浅慮が過ぎたか……」


「おじいちゃん?」



 手を止めて呟かれた言葉と苦しげに細められた目の意味が判らず、首を傾げる私にジョルトおじいちゃんは何でもないと首を振る。


「儂の見る目とはどこまでも愚かだったという事じゃ」


「……よく解らないけど、そんな事――」


「とにかく、お前達はそのままでな。それでいいんじゃよ」



 一際強く撫でられれば強引に話を切り上げる。むぅ、何だか納得いかないけどあまり食い下がるような話でもないのかな?


「ねぇ、おじいちゃん?」


「ぬ?」


 それはさておくとしても、だ。



「風術が、序から破? っていうのになったんだけど。その基準って何?」


「…………」



 私の問いかけに対して、ジョルトおじいちゃんは口をあんぐりと開けて、すぐさま首を振って空を見上げて――



「やはり、危ういのぅ。色々と……」



 またよく解らない事を呟いたのだった。失礼だけどジョルトおじいちゃん、独り言だったらジョルトおじいちゃんも色々と危ういと思う。



「そう、じゃな。術の基準じゃったか……フェニスの奴め、本気で教育放棄を疑うぞ」


 ぶつぶつと呟きながら辺りを見回すジョルトおじいちゃん。あんまりおかあさんの悪口は言って欲しくないけど。



「あー、そうじゃな。ソラとはそう言った話はせんのか?」 


「ソラさ、ソラは……あんまり話したがらないみたい」


「そう、か」


「おじいちゃん。そうじゃなとか、そうかとか、あまり話したくない事なんでしょうか?」


 ただでさえ、スキルやその手の話をする相手がいなくてある種の欲求不満なのに、やっぱりジョルトおじいちゃんもそちら側なのか。クリム辺りならもしや――



「おじい。しゅぎょーまだ?」


「うむ。これは丁度良……げふん」


「ジョニー。あっちで遊んでいたんじゃないのか?」



 わざとらしく咳き込むジョルトを、じとりと半眼で睨みながらも間の悪い弟の登場に思わずきつい口調になってしまった。



「おもしろいこと、なかった。ソラとリムばっかりはなししてる。つまらない」


「……そうか」


 しゅんとした声に、大人げない事をした自分を瞬時に諌めて、どうやらジョルトおじいちゃんとの問答は無理かと諦めた。


私の興味とジョニーの機嫌、比べるべくもない話だ。



「すまんの。メアリー」


「いえ、私はお姉ちゃんだから。ちゃんと我慢出来ます」


「すまんが正直、術に関してはあまり詳しくないんじゃ。下手な知識を教えるべきでもないじゃろうし」


「ふふっ、武術家ですもんね」



 恥を忍んでか。顔を背けながらそんな事を言うジョルトおじいちゃんの姿がなんだか面白い。珍しい姿を見られただけでも良しとしようかな。



「さぁ、ジョニー。交代だ。私の仇を討ってくれよ」


「どうということはない!!」


「まったく、仇討ちなどとは物騒な……」


「そんでもってメア? かたきってなに?」



 また余計な知識を増やしてしまったけど、きょとん顔の可愛い弟の姿に私もジョルトおじいちゃんも思わず笑みがこぼれる。


さて、私はちゃんと教えてあげることにしよう。教えてくれなかったおじいちゃんと違って、ね?


 果たして、仇の意味を知り、憤慨したジョニーであってもジョルトおじいちゃんに一矢報いることは出来なかった。


ここまでお読み頂きありがとうございます。


ゴールデンウィーク?

ありませんでしたけど?

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